磁気通信技術と実用事例(1)

坂田電機(株) 技術部
藏谷 朋哉

1.はじめに

土木工事では保安監視を目的として様々なセンサが設置される。これらのセンサは地中,水中や構造物に埋設されることが多く、計測データを取得するための測定器とケーブルによって接続される。そのケーブルにより、構造物の安全性の低下や、施工の障害等の問題を引き起こすことがあり、無線によるデータ伝送システムの開発が取り組まれてきた。
しかし、伝播媒質が地中や水中の場合、一般的なデータ伝送手段として使用されている光、音波は減衰が大きく不適当であり、また電磁波についても通常の通信に用いられている高周波電磁波(電波)は、同様の理由で使用することが困難なため、実用的な手段がほとんど実現できていなかった。
上記を解決するため、低い周波数帯域の電磁波(低周波電磁波)を用いた地中無線通信システム(以下、本システム)を製品化し、多くの現場で実績を重ねているので、ここに紹介する。

2.地中無線通信システムの概要

前述のとおり、本システムは土中、岩盤中、水中、空気中でデジタルデータ伝送が可能な低周波電磁波を用いた通信システムである。図1に高周波電波と低周波電磁波の減衰特性を示す。一般的な無線通信手段に用いられる高周波電波は、図1左のように地中や水中における減衰が大きいことが分かる。
対して、図1右のように可聴音と同程度の低い周波数帯域の電磁波を使用すると、地中や水中など導電率の低い媒質中でも減衰の程度がほぼ変化しない。空中だけで比較すると高周波電波に比べて減衰は大きいものの、様々な媒質で100m程度の通信をおこなうことを考えると、適当な通信手段になりえる。(1)

図1減衰特性(左図:高周波電波 右図:低周波電磁波)

本システムの構成例を図2に示す。本システムは、地中もしくは水中に埋設される送信器と、地上に設置される受信器から構成される。送信器は、データの送受信をおこなう送受信アンテナ、データロガー、バッテリーおよびセンサから構成される。図2ではセンサに水圧計を使用しており筐体に内蔵されているが、周辺に設置されるセンサを接続することも可能である。
受信器は、データ受信アンテナ、指令送信アンテナ、受信器本体から構成され、可搬型受信器の場合は、バッテリーが搭載される。

図2 通信システム構成例

3.実用例(2)

3.1海底地盤の沈下測定

3.1.1 従来の計測方法の課題
海中の埋立工事等では、盛土荷重の増加に伴う海底地盤の沈下や地中の水平変位を計測する必要がある。また、供用後の施設管理のために沈下を計測することは重要である。従来は、海底のセンサから地上までケーブルにより接続して計測を行っていたが、沈下に伴うケーブルの断線やケーブルルートの確保が問題であった。また、沈下計測の場合、沈下板と鋼管を用いた鋼製沈下板による観測が一般に行われているが、沈下板近傍だけは周辺よりも慎重な盛土作業が求められる。また、埋立が進み鋼管が海上に突出するまでの期間は海中での計測作業が必要になる。

3.1.2 地中無線通信システムによる海底計測
本システムを用いた海底計測システムの概略を図3に示す。

図3 海底計測システム

沈下を計測する場合には水圧式沈下計、地中水平変位を計測する場合には複数の傾斜計を接続している。計測データは、データロガーを内蔵した送信器から無線で発信され、海上の計測作業船で受信して回収される。海底の送信器は内蔵されたバッテリーで動作し、運用可能期間はおおむね10年程度である。本システムで使われる低周波電磁波は図1のように通信媒体(海水中、地中)によって減衰率が変化する。海上空港島のような埋立による構造物の場合、埋立の進行に伴い通信媒体が海水から地盤に変化し、通信距離が長くなる方向に媒体が変化する。つまり沈下が大きくなっても、通信媒体が海水より通信効率の高い地盤に置き換わることから、地上に盛土や構造物が構築されても十分通信できることを意味している。また、主に沈下によるケーブル断線が招く計測不能のリスクが軽減され、より安定した計測が長期間可能となる。このようなことから、本システムを用いた海底計測は、埋立工事から地上構造物の供用期間まで一貫して連続的に計測することが可能であり、工事からその後の維持管理まで貢献できる技術と言える。
現在(2019年11月)でも関西空港2期工事をはじめ、全国で250機以上利用されている。

今後は、より供用期間中の計測期間を延ばすために、システムの運用可能期間の更なる延長が望まれる。また、この技術は沈下や地中水平変位の計測に限らず応用可能なため、これからの港湾構造物等で利用されていくことが期待される。

次回に続く-

参考文献

1) 遠目塚良一、山崎宣悦:磁気を利用した通信方式 電気学会研究会資料-マグネティクス研究会 pp.5-10
2) 須賀原慶久、樋口佳意、才田誠、石坂周平、川島実:地中無線通信技術による構造物の計測と維持管理計測への適用 地盤工学会関西支部地盤の環境・計測技術に関するシンポジウム2006

【著者略歴】
蔵谷 朋哉(くらたにともや)
坂田電機㈱ 技術部

2012年 国立都城高等工業専門学校 卒業
         化粧品メーカーおよび医薬品メーカーを経て
2016年 坂田電機株式会社 入社(技術職)
2019年 現在に至る