AIを用いた掘削現場でのトラブル回避技術の開発(2)

(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構
草薙 和也

2. 石油開発

石油開発業界では海洋への進出が近年の大きなトレンドとして挙げられ、陸上に比べて多額の投資を必要とする海上での開発プロジェクトでは作業効率・コストの最適化への要求がより一層高い。
本章では、海洋石油開発の現状と展望、そして石油掘削の概要について説明する。

2.1. 石油開発現場の海洋への展開
2014年の原油価格下落を受け、FID(最終投資決定)が行われた世界の石油開発プロジェクト件数は一時期減少したものの、それ以降の原油価格の上昇を見て陸上・海洋プロジェクト共にFID件数は回復基調にある。IEAが2018年4月に公表したOffshore Energy Outlookによると、2040年まで継続して海洋油ガス田の開発が進むと見込まれており、IEAが仮定するNew Policies Scenariosに基づく試算では、2040年において世界で生産される原油の約28%が海洋油田から生産されると予測されている(表1)。

表1. IEAのNew Policies Scenariosに基づく2016年と2040年の総石油生産量に占める海洋の比率
(出所:IEA Offshore Energy Outlook 2017)

これまでにも世界各地で海洋油ガス田が開発されてきているが、比較的開発が容易な浅海域からの生産量の減退に伴い、より深い水深での油ガス田開発が進んでいる。近年では米国メキシコ湾、ブラジル、西アフリカなどにおいて大水深域の開発が進められているが、操業会社は技術面・経済性において今までより困難な開発コンセプトの実現が求められる。海洋掘削は更なる水深・深度のターゲットを目指して今後も技術的な発展の余地がある。掘削現場でのトラブル発生回避を可能とし、コスト削減に寄与する技術は重要な役割を果たすことが期待される。

2.2. 石油開発におけるデータ利用
掘削作業を把握するために必要な種々のデータはマッドロギング(泥水検層)として収録され、深度、泥水流量、ビットにかかる荷重・トルクなどの時系列データが収録される(図2)。リグではこれらのデータが逐次モニターに表示されており、エンジニアは値の変化を観察しながら坑内で生じている現象の把握に努める。しかしこれらのデータ収録はあくまで現場における状況把握を目的としており、記録として保存こそされているものの、事後において実際の現象と照らし合わせて解析されることはほとんどなかった。
近年ではサイバーベースに代表される統合制御監視システムのリグが一般的となっており、リグ上で稼働するほとんどの機器がこの統合制御監視システム上で管理されているため、それら機器の制御データもマッドロギングデータと合わせて利用されるケースも増えている。

図2. マッドロギングシステム(出所:株式会社物理計測コンサルタントHP)

次週に続く-

【著者略歴】
草薙 和也(くさなぎかずや)
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 デジタル推進グループ デジタル技術チーム

■略歴
1992年1月16日生
2016年3月 京都大学大学院 工学研究科 都市社会工学専攻 修士課程 修了
同年4月 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 入構

■専門分野
Drilling Engineering(石油掘削)