AIを用いた掘削現場でのトラブル回避技術の開発(1)

(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構
草薙 和也

1. はじめに

石油・天然ガスの探鉱・開発事業は巨額の資金を必要とする事業であり、投入資金が数百億円から数千億円に及ぶプロジェクトも珍しくない。石油開発のうち掘削作業に注目すると、石油・天然ガスを産出するために地下と地表とを繋ぐ坑井の掘削にはリグと呼ばれる掘削装置(図1)が必要であり、特に海洋油ガス田を開発するために用いられるリグの傭船料は一日当たり数千万円超になることが一般的である。海底面よりさらに深い地下の岩盤について事前に得られている情報は限られており、次々と新たな地層が出現する掘削作業中には想定しえない様々なトラブルが発生する。中でも石油開発会社が頻繁に遭遇するトラブルとして掘管・掘削編成(BHA:Bottom Hole Assembly)などの抑留*1および逸泥*2 が挙げられる。一度こうしたトラブルが発生すると現状回復のために現場作業は停滞を余儀なくされ、プロジェクトにとっては経済的に大きな損失となるだけでなく、最悪の場合は地下から原油やガスが制御できない状態で噴出する事故につながるなど、安全上での大きな問題となる。

図1. 掘削装置の写真(出所:JAMSTEC)

*1抑留:地層の崩壊や坑内での掘屑の堆積、坑内と地層との圧力差などの原因により、掘管やBHAが坑内で動かなる現象。
*2逸泥:坑井内を循環している泥水が浸透性の高い地層中に失われる現象。

本稿では、掘削中に発生するトラブルの中で、抑留の予兆検知を目的としたAI技術の開発を紹介する。なお本件は、弊機構(以下、JOGMEC)が国立研究開発法人海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)に業務委託しており、「掘削を対象としたデジタル技術適用による安全性向上に関する調査」として実施している。

次週に続く-

【著者略歴】
草薙 和也(くさなぎかずや)
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構
デジタル推進グループ デジタル技術チーム

■略歴
1992年1月16日生
2016年3月 京都大学大学院 工学研究科 都市社会工学専攻 修士課程 修了
同年4月 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 入構

■専門分野
Drilling Engineering(石油掘削)