エッジAIにおけるセンサ技術のインテリジェント化(4)

(株)東芝研究開発本部研究開発センター
コンピュータ&ネットワークシステムラボラトリー
松岡 康男

6. エッジコンピューティングの共通基盤創出の動きも(スマートファクトリで進むエッジ強化の動きが活発)

ここに来てもう一つのトレンドは、エコなスマートファクトリである。エッジプラットフォーム化を推進する活動も活発である。
一例としてエッジクロス(Edgecross)コンソーシアム、フィールドシステム、FA-ITオープンプラットフォーム、エッジプラットフォームコンソーシアム(EPFC)、OpenFogコンソーシアム、ロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)など多数存在し、2017年度より多くの活動報告が報道されている事も興味深い。

IVIも新たな「つながるモノづくり」の実現に向けたグランドデザインとして、「IVRA-Next」を今年3月には「製造データ流通フレームワーク(CIOF)」を開発し公開した。このことに関しては次に譲るとして、IVIとして、IoT活用ポイントは、そこから得られる時系列データを如何に『収集、蓄積、分析』して現実世界にフィードバックするサイバーフィジカルシステム(CPS)のリアルタイム性を考慮した設計が重要。我々はIVI活動の中でクラウドからエッジ(現場側)を強化するという動きに加え『リアルタイム品質管理 x AI』 のキーワードで4年前から活動を筆者は実践してきた。
一番の苦労は、取得したビッグデータ全てのデータを集める際、意味のないノイズになり得るデータを独自手法でクレンジング、ノイズ除去等の処理技術、センサデータの時刻同期(極端なケースでは1msec以下)技術を駆使してデータ特徴化する部分が差別化の種になる。3つのVの適正化(「Variety」(多様性)、「Velocity」(頻度)、「Volume」(量))の最適化も機械学習や深層学習能力に大きく左右される点で、その為にもエッジ領域の強化は必須。2019年度IVIでは既にAIを宿したフォグコンピュータ(FoG_Computer)を工場に実装する活動も数件出始めている。

6-1. エッジAIにおけるセンサ技術のインテリジェント化とデータ流通を睨んだ仕組みづくりへ

エッジ(フィジカル)で収集したデータをエッジAIでリアルタイム品質の合否判定させる一例として、スマートファクトリーJapan_2019、IVIシンポジウム2019年春で講演。*7)*8)
加工内容によっては、一瞬で作業が終わってしまうため、その短い時間の中で不良を見つけなければならない明確な課題がある。その為、高いサンプリング周波数でのデータ取得と、その分析が必須になる。例えば高速に大量に製造する工程では、ちょっとした時間で大量に不良品を作ってしまう危険がある。講演では半導体ワイアボンダー装置、高速プレス機、切断機がその一例であるが、今年度はエッジAIを装置に実装し不良品を出す前に装置を事前に停止させる試みも開始している。(高速プレス機では30分気づかないと1万個の不良品を作り付づけてしまう事態に。)IVIでは更に進展した考えとして実装での一番の課題は製造装置には同じ機種であっても個々に癖があるという事。
ここで重要なのは、センシングにおいてニーズ、シーズ、に加え「利用時の品質(要望)」、つまりユースの観点を入れ込む事が大切でIoT時代のセンサ技術と技術継承の観点からも特に留意すべきこと認識しており次世代センサ協議会での速度感をもったセンサ技術の基盤技術開発(LOS)は新たなユーズ視点の立場への展開加速とコンソーシアム連携強化活動にて今後のセンサ技術の発展、強いては日本のモノづくり産業の強化に繋がる。
またセンサデータ流通活用の観点からは装置間、工場間間差を解消する為にもデータ流通活用を睨んだ「データ語録」「センシングデータのメタ化」、「データ品質」などの仕組みづくりに向けた連携データ流通協議会との連携活動もまた本タイトルの「エッジAIにおけるセンサ技術のインテリジェント化」の背景にその仕組みづくりの体制も積極的にして行くべき時代に来たと思える。

7.最後に

これまでIVIでの技術交流の場、実証検証の場での経験と人材ネットワークは計り知れないほどに貴重な財産となっている。今後はこうした技術資産を起点に、更に他の団体などと緩やかに連携する事で共通の課題解決の糸口が見えてくるはず。社外とのデータ流通、データ利活用やセンサ技術開発ノウハウにもアクセス可能となる時代が来るでしょう。センサ技術のインテリジェント化という観点でも次世代センサ協議会、データ流通推進協議会(DTA)をはじめとした各種団体との更なる連携推進でエッジを中心としたフィジカルからのフィードバックを容易にするエッジプラットフォーム化推進がますます重要となる時代がやってきた。それこそが、タイトルに掲げたIoT時代におけるセンサ技術と技術継承であり、この気づきこそがIoT時代におけるセンサ技術のインテリジェント化に大きく寄与するものと考える。共々に「日本型Industry4.0の実践で未来を創ろう」という気概で皆が緩やかに連携し、自分の立ち位置をしっかり認識しつつ共に成長して参りたい。

これこそIVIが最も活動の特徴と強調する「緩やかな連携」であり、これを機に日本ならではの現場の強み(現場の自発的な創意工夫を生かすボトムアップ型経営)を世界にチーム皆で発信して行きたいものである。

【著者略歴】
松岡 康男
(株)東芝 研究開発本部 研究開発センター
コンピュータ&ネットワークシステムラボラトリー

専門は半導体プロセス微細加工技術、生産システム情報工学、脳型人工知能チップ研究開発、次世代エッジコンピュータの研究開発。
IVI(Industrial Value Chain Initiative)のビジネス連携委員長(2017-2018)、センサーデータ活用技術研究会:主査(2018-2019)、応用物理学会会員(1985-2019)、一般社団法人 日本USA産業振興協議会・準会員(2016-2019)