エッジAIにおけるセンサ技術のインテリジェント化(3)

(株)東芝研究開発本部研究開発センター
コンピュータ&ネットワークシステムラボラトリー
松岡 康男

4-2. 製造現場起点での「お困りごとシート」から新たなソリューションを創出(溶接現場編)

一般的に溶接工程での品質管理は、板材同士の溶接部分の溶け込み量の管理が要になる。ところがこれまでは、溶接した製品の一部を抜き出し、破壊検査しないと溶け込み量を管理できなかった。このため、溶接不良を見つけるため、抜き取りでの破壊検査を実施するのが溶接業界の常識であった。
しかし、製品のすべての板材同士の溶け込み量を調べることはできない。それを補完するため、溶接の条件や目視での検査によって、溶接の合否を判定していた。これからは溶接不良の検査を全数に対して非破壊で行うべく匠のデジタル化(インプロセスQC)が切望されていた。そこでAEセンサの他、各種センサを使い溶接時の溶け込み量を1サンプル当たり2μ秒~20μ秒でリアルタイム計測(約2MB/秒〜100MB/秒)で、データを取得、分析するフォグコンピュータ(EIS-AE-AI)も独自に試作した。これは今後ロボットの自動化をはじめ、安全上リアルタイム制御が期待される工程では、判断や学習は現場で実行しエッジで解決する様々なソリューションがIVIから誕生した。*6)(図5) (図6)

図5:試作したEIS-AE-AIを基に評価ロボットのアーム軸受け部の寿命リアルアイムモニタリング風景
図6:現場起点から誕生した溶接品質モニタリングソリューション

5. 先端事例を通して2極化指向へ、日本の製造業は?

これまで実証検証にて、述べてきた予知保全を思うと、大量センサのデータ監視をする場合、モノづくり現場におけるIoTデータの爆発は尋常ではないことは既にいろんなリサーチ会社の情報からも周知のとおりである。今後のトレンドとして、エッジ基盤の確立で進む製造現場のAI活用が増々活躍しIVIでも例外ではない。一連の流れの中でエッジ領域への搭載が進むのがAI関連技術として注目され始め、今後は学習生成されたアルゴリズムを実行IP(Intellectual Property)としてエッジ側に送り込むことでの汎用化が急速に進み今ではコンパクトで高効率学習が可能な独自AI技術を搭載したコントローラーや産業PCも数多く登場。更にはAI搭載のIoTサービス基盤を強化したプラットフォームの提供として、今後クラウド領域に強みを持つITベンダー自身がエッジ領域に踏み込む動きや広がりを見せている。

日本でも新しい成長戦略が昨年閣議決定され、その中核はソサエティー5.0、すなわちデータ駆動社会の実現である。米国においても、既存OS強化の一環で、OSベースの「インテリジェントエッジを投入しクラウドとエッジをシームレスに連携させる動きは、クラウドのスケーラビリティとエッジのリアルタイム性を両立できる利点がある為、某大手クラウドサービス会社が、IoTエッジデバイス向けの組み込みのリアルタイムOS をオープンソースのカーネルに採用する動きも出てきている。まさにIoTエッジデバイスとクラウドと2極化指向、双方から容易に接続できるというビジネスモデルは大きな脅威になる。このことは、これまでの実証検証、POC(Proof of Concept)の中でとにかくセンサデータを闇雲に吸い上げ、後で意味あるデータに仕上げる作業を末端で実施していない場合が意外に多い。
結果的に『駄目なデータをいくら入れても駄目な答えしか出ない』という実感がこもっていると筆者は推察する。その背景として、現場での匠のデータ、時系列的に見ると非常に意味あるデータになる情報等々は、エッジからのデータの直近で加工すべきもので、「ただ単にクラウドへなんでも感でもデータをあげるというのは現実的ではない」という意識の表れでもある。

今後、このビッグデータこそが知的財産となる事が判り始め、その唯一のデータを守るエッジ指向こそが製造現場の価値なのであるとの認識が現状の「モノづくり」のさまざまな活動を通して認識されてきている。B2B(企業間取引:Business-to-business,)の世界で、工場現場とのCPSを考慮し、止まらない工場に加え、リアルタイム性が要求される場面での指向は日本ばかりでなく世界のモノづくりに対して大きな課題である。このことはIVI活動の中でも強く認識をしているところである。中小大企業を交え、ボトムアップから課題を抽出しその課題解決に向けてあるべき姿を求め活動してゆくIVIの業務シナリオワーキングとして、クラウドでは通信を挟む遅延の問題、膨大な通信コストとインフラ環境整備に大きな課題がどうしても発生することを考慮するとき、部分最適化、自律分散制御の方向に日本の製造業は解を求めてゆくべきではと思う。

次週に続く-

【著者略歴】
松岡 康男
(株)東芝 研究開発本部 研究開発センター
コンピュータ&ネットワークシステムラボラトリー

専門は半導体プロセス微細加工技術、生産システム情報工学、脳型人工知能チップ研究開発、次世代エッジコンピュータの研究開発。
IVI(Industrial Value Chain Initiative)のビジネス連携委員長(2017-2018)、センサーデータ活用技術研究会:主査(2018-2019)、応用物理学会会員(1985-2019)、一般社団法人 日本USA産業振興協議会・準会員(2016-2019)