IoTを牽引する広域センサネットワークLPWA の最新動向と将来展望(4)

千葉大学 名誉教授 阪田史郎

3.2 5GのLPWA

5Gは、IMT-2020(IMTはInternationalMobileTelecommunications)が示す通り2020年のサービス開始を目標に、3GPPが2014年に検討を開始した。当初は、①の4GのMBBを数十倍高速化した下り最大20Gbpsの高速通信のみを目標とした。しかし、その後のIoTや自動運転等への急速なニーズの広がりに伴い、要求性能項目が大きく異なる3種類のサービスを規格化することになった。

①eMBB(enhancedMBB):超高速
②URLLC(Ultra-ReliableandLowLatencyCommunications):超高信頼低遅延
③mMTC(massiveMachineTypeCommunications):多数同時接続

LPWAに対応するのは③であるが、2019年5月現在、4GのLTE版LPWAよりも高性能化して独自仕様LPWAと差別化するか、低性能化して独自仕様LPWAと同等の性能で対抗するかを含め、議論中である。

4.全体比較と今後の展望

2019年5月現在、先行している独自仕様のLoRa、Sigfoxと、LTE版LPWAのLTE-M(eMTC)、NB-IoTの価格見込の概要を図4.1に示す。LPWAをこれまでの変遷から展望すると、2017年までは黎明期、2018~2020年の競争が激化する成長期を経て、2021年以降は市場競争力に劣るLPWAが淘汰される普及期になると予測できる。普及期には、LPWAを利用したIoTサービスが人々の生活の様々な局面に浸透していく。

図4.1 LPWAのサービスイメージ

成長期の2018年以降乱立状態に突入した多くの独自仕様LPWA、セルラーLPWAについては、応用に求められる性能や機能、価格等に応じて、すみ分けが進むと考えられる。例えば、図4.2のように、安定性/信頼性やセキュリティ、拡張性などがより求められる公共性の高い応用、交通制御・監視やGPSを駆使した各種追跡などモビリティが求められる応用、広域のカバー領域が必要なアプリケーションに対してはセルラーLPWA、農業や見守り、健康・フィットネス、家電の遠隔制御のような低価格や低消費電力がより求められる個人の生活に密着した民間の応用に対しては独自仕様LPWAが適しており、このようなすみ分けが進む可能性がある。

図4.2 LPWAのすみ分けイメージ

いずれにしても、IoTの中でも最大市場といわれるスマートメータリング、環境モニタリング、インフラ監視などで優位に立ったLPWAが最終的に最も多く利用されると思われる2)~5)

参考文献

2)阪田史郎、”LPWAの現在と未来、”MDB技術予測レポート(日本能率協会総合研究所)、 2018.2

3)阪田史郎、”広域センサネットワークLPWAの最新動向、”けいはんな情報通信オープンラボ研 究推進協議会、’IoTサービス創出に向けて’講演会、2018.2

4)阪田史郎、”LPWAの最新動向と将来展望、”総務省九州総合通信局電波利活用セミナー-IoT 時代におけるLPWAの魅力と可能性、2018.6

5)阪田史郎、”競争激化で成長・普及期に突入したIoT向け広域センサネットワークLPWAの詳 細、”組込みシステム開発技術展(ESEC)、2019.4

【著者略歴】

1972年早大理工電子通信卒。1974年同大学大学院理工学研究科修士卒。同年NEC(日本電気)入社。
以来、同社研究所にてインターネット、マルチメディア通信、モバイル通信の研究に従事。工学博士。
1996-2004年同社研究所所長。1997-1999年(兼)奈良先端科学技術大学院大学客員教授。
2004-2014年より千葉大学大学院教授。同大学では、ユビキタスネットワーク、IoT/LPWA、5Gネットワークの研究に従事。2014-2019年同大学グランドフェロー。
2019年より同大学名誉教授。IEEE Fellow, 電子情報通信学会フェロ―、情報処理学会フェロ―。
情報処理学会では、理事、監事歴任に加え、山下記念研究賞受賞、マルチメディア通信およびモバイル通信に関する先駆的研究に対し功績賞受賞。
電子情報通信学会では、理事、評議員(2期)歴任に加え、ユビキタスネットワークに関する先駆的研究に対し顕彰功労賞受賞。
総務省より、災害支援のための無線マルチホップネットワークに関する研究業績に対し総務省関東総合通信局長賞受賞、他受賞。
情報通信ネットワークに関する単著書4、共著書40。
http://sakatashiro.com/で詳しく紹介。