スポーツセンシング(2)

仰木裕嗣
慶應義塾大学政策
メディア研究科
兼 環境情報学部 教授

2. 映像撮影技術の進化

身体に装着して、身体そのものをセンサの一部としてスポーツの振る舞いを観測するウェアラブルセンシングとは異なり、選手の振る舞いを外界から観測する代表はカメラである。カメラについては4K/8Kに代表されるように画素の向上、高速度撮影の進化、さらには赤外線を用いた撮影技術の応用である光学式モーションキャプチャの進化がこの4半世紀の間に目覚ましい。

2018年開催のサッカーW杯ではGoal Line Technologyが正式導入された5)。ゴールの成否を判定する方法としては、ゴールポストがコイルとなっておりボール内部に入ったタグ読み取る非接触での判定技術と同時に競技場の観客席上部から多数のカメラによって撮影する方法が同時併用されている。映像ベースの判定は、すでにテニスの「チャレンジ」という名前でも知られている技術であり、テレビ局をターゲットにしたB2Bビジネスの最たるものである。ここではウェアラブルデバイスとは異なり消費電力も気にする必要もなく、とにかく大容量のコンテンツである映像を高速度で且つ高精細に撮影し、複数台のカメラ映像から目的とする審判行為をアシストすることに主眼が置かれている。選手の身体の動きをセンシングするわけではないことがウェアラブルデバイスとの違いである。

過去10年間で大きく進化してきた映像撮影技法の進化のひとつは、Microsoft Kinectに 代表される深度カメラの普及であろう。その原理にはいくつかの方法があるが、現在では赤外光線を使ったタイム・オブ・フライト方式によるものが主流となっている。カメラが三次元の被写体を二次元に投影するだけのものであったものが、奥行き方向の情報を獲得したことで1台のカメラによって被写体の3次元情報を獲得できるようになったことは大きな進化である。筆者らの研究室でも、Microsoft Kinectを用いた歩行分析ソフトウェアを開発して、高齢者の「ありのまま」の歩行を観測することを試みている(図4)。しかしながら、まだまだキャリブレーションのために一旦決まったポーズをとる必要があるなど、意識もせずに歩行することを観察するには改良が必要である。

図4:Kinectを使った簡易歩行分析装置

Kinect同様に、LiDARもタイム・オブ・フライト方式を用いて奥行き方向の距離を測定する光学式装置であるが2020年の東京五輪では器械体操の技の判定に2次元LiDARが導入されることが決定されており目下急ピッチでその検証が進められている。筆者は大空間を高速で移動するスキージャンプ選手の位置捕捉のためにLiDARを使って研究を進めている(図5)6)

図5:Ski Jumping Tracking System. 2次元LiDARを選手に照射して飛翔軌道を観測する

次週に続く-

参考文献

5) https://football-technology.fifa.com/en/standards/goal-line-technology/

6) 仰木裕嗣、Heike Brock、 瀬尾和哉、スキージャンプ選手の飛翔軌跡の計測、日本機械学会シンポジウム、スポーツ・アンド・ヒューマンダイナミクス2015


著者紹介

氏名:仰木 裕嗣(おおぎ ゆうじ)
出生:1968年1月 福岡県北九州市生まれ

慶應義塾大学政策・メディア研究科兼環境情報学部 教授
慶應義塾大学スポーツ・ダイナミクス・インフォマティクス・ラボ代表
慶應義塾大学スポーツ・アンド・ヘルスイノベーションコンソーシアム代表

職歴
1997年4月 SPINOUT設立代表(~現在:個人事業としてのスポーツ研究支援会社)
1999年4月 慶應義塾大学環境情報学部嘱託助手
2001年4月 慶應義塾大学環境情報学部専任講師(有期)
2005年4月 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科兼環境情報学部助教授
2007年4月 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科兼環境情報学部准教授
2016年4月 慶應義塾大学政策・メディア研究科兼環境情報学部教授
2007年3月 豪Griffith University, School of Engineering, Center for Wireless Monitoring and Application, Honorary Associate Professor

専攻分野
スポーツ工学・ スポーツバイオメカニクス・生体計測・無線計測

賞罰
2002年6月 第9回国際水泳科学会議 アルキメデス賞(若手奨励賞)日本人初
2003年2月 TUM Academic Challenge Award, 競技スポーツ部門賞

特許M
・コースガイド(特許出願2005-130243、特許公開 2006-304996)
・ゴーグル(特許出願2005-314855、特許公開 2007-124355)
・エネルギー消費量報知装置(特許出願2009-098373)
・スイング動作評価方法、スイング動作評価装置、スイング動作評価システム及びスイング動作評価プログラム(特許出願2008-299478、特許公開2009-50721)