欠陥検査に役立つ光ファイバセンサ(1)

株式会社レーザック
代表取締役社長
町島祐一

光ファイバセンサとは、光ファイバ自体がセンサ素子(受感部)であると同時に、信号伝送にも光ファイバを用いるため、長距離な伝送ができることに加え、「耐電磁ノイズ性・耐雷性」を有している。また最大の特徴として、1本の光ファイバにおいて、多点又は連続的にセンサ部を設けることができる「多点・分布性」が挙げられる。さらに、光ファイバが石英ガラス製である場合(アクリル製のプラスチック製光ファイバと区別して)、数百℃までの「耐熱性」を付与できたり、細径ゆえに「材料への埋め込み」が可能である。

光ファイバセンサは、世界的には一次元的な構造の多い資源開発分野(油井やパイプライン)や、日本では土木建築分野等で多く利用されているが、本稿ではより身近な産業における欠陥検知を前提に、光ファイバが優位性を発揮する上記の特徴に焦点を当てて、これまで及び今後の光ファイバセンサ技術を俯瞰する。

1.「多点・分布性」…飛行中の航空機翼の応力モニタリング

輸送機の中でもとりわけ高い安全性が求められる航空機では、機体ヘルスマネジメント技術として運用中の荷重応力全般、すなわち飛行中の作用歪みと着陸後の残留歪みを追跡することが重要と言われている。ここでは、実航空機の試験飛行において、予め装着された光ファイバ歪みセンサによる応力モニタリングを事例紹介する。
光ファイバによる連続分布型の測定原理には、ブリルアン散乱を用いたもの、レイリー散乱を用いたもの、FBG(ファイバーブラッググレーティング*1)を用いたもの等がある。また、検波の手法もパルス光を用いた時間領域法や干渉を用いた周波数領域法等がある。
光ファイバ歪み分布センサを航空機翼の下面に施工し、離陸中の歪みを計測した様子が図1である*2。この場合、約8メートルの区間で約1mm毎に約8000点の歪み値を取得しており、機体に近い部分に大きく荷重歪みが作用し、その値は金属製の翼で1000με以下の弾性領域であることが見て取れる。この場合は健全性が維持されていると解釈され、こうした分布歪み計測は風力発電機のブレードやタワー、また車体・船体等の変形モニタリングにも応用が可能である。

図1 離陸時の航空機の翼変形(縦軸が歪み:με、横軸が位置:メートル)

【計測原理】
本計測で使用した歪み分布計測の原理を概説する。1本の光ファイバ上に多数設けられたセンサの位置を、何らかの手法で識別しなければならないが、FBGの場合、反射波長の違いで認識する波長多重、反射時間の違いで認識する時間多重、ここで紹介する光の干渉周波数で認識する光周波数多重(OFDR計測法)がある。光周波数多重の最大の特徴は1mm以下の空間分解能を達成できる点である。
OFDR計測法(正式名称は、光周波数領域リフレクトメトリ、Optical Frequency Domain Reflectometry)に用いられる光学系のシステム例は図2の通りである。光学系は、波長可変光源(Tunable Laser)、受光器(Detector)、全反射終端(R)、FBGセンサ(FBG)から構成される。全反射終端とFBGセンサはマイケルソン干渉計を構成している。波長可変光源の波長を連続的に変化させ、各波長における反射光強度を受光器で計測する。

図2 OFDR計測法

FBG上の微小区間からの反射光は、ある波長の光のみを強く反射するため、波長可変光源の光波数kとその反射光強度の関係は、図/下段右のような形となる。また、ピークを示す光波数kは,FBG部でのひずみの大きさに依存して変化する。ここで、光波数kと波長λは以下の関係を有する。

一方、FBG微小区間からの反射光と、全反射終端Rからの反射光は光路差2nLiを有する。これら2つの反射光は干渉を起こし、この干渉光強度の直流成分を除いた変動成分は、光波数kに依存して、以下のように表される。

ここで、nは光ファイバの屈折率を表す。前述した二つの作用により、受光器で検出される光強度は、図/下段左に示すように、光波数kに対してある周期とピークを持った形で変化する。つまり、次式のような形で表される。

ここで、RFBG(k)はFBG内微小区間の反射特性を表す光波数(波長)の関数である。この受光器で検出される信号の周期から光路差Li、つまりFBG内微小区間の位置を、またピークを示す光波数kからひずみの値を計測することが可能となる。FBG全体としては、光路差Liつまり周期が異なる波形の和として光強度が観測されることとなる。この方式を用いることで、1mm以下の間隔で連続的に歪みを検出したり、数百点の歪みを1ラインで計測することが可能となる(図3)。

図3 OFDR法の特徴

参考文献

*1 http://www.lazoc.jp/technical/principle/000219.html

*2 Daichi Wada, Hirotaka Igawa et al., Flight demonstration of aircraft wing monitoring using optical fiber distributed sensing system, Smart Materials and Structures, 2018 (accepted)

次週へつづく―