車載LiDARの最新の動向

3 車載用LiDAR の主な種類

3 次元計測が可能な車載用の3D LiDARは,繰り返し発振パルスレーザー及びスキャナーを用いた走査型LiDARと,高出力の単一パルス発振レーザー及び時間分解型2次元受光素子アレイとを用いたフラッシュLiDARとに大別できる14)。なお,一方向にはスキャナーを用い,それと直角方向には一次元の受光素子アレイを用いて一括に受光するハイブリッド方式も開発されているが15),まだ研究開発段階であり,製品にはなっていないと思われるので,ハイブリッド方式のLiDARの詳細な説明は省略する。また,光源としてCWレーザーを用い,その発振周波数や位相を変調して距離計測に用いるようにしたLiDARも種々研究開発されているが16 ~ 17),それらはいずれも測定距離がかなり短いようであり,それらの方式を用いた車載用のLiDAR製品が見あたらなかったので,光源にCWレーザーを用いたLiDAR並びに近距離用のToF(Time of Flight)カメラなどについては説明を省略する。

表4 に,車載用LiDARの主な種類と参入企業を示す。フラッシュLiDARは,高速の繰り返し動作が可能であるが,光源の1 パルスあたりの出力は走査型LiDARよりも高出力なものが必要である。フラッシュLiDARには,受光用のセンサーが1次元アレイのものと2次元アレイのものとがある。また走査型LiDARも,スキャナーの軸数に応じて,2次元LiDAR及び3次元LiDARに分けられる。機械的回転方式は,高出力なレーザーにも対応可能であるが,一般に大型であり,またコストの低減が容易でないため,車載用LiDARは,機械部品を用いない全固体方式に移行しつつある。

表4 車載用2D及び3D LiDARの主な種類と参入企業
類別 スキャン方式 代表的な参入企業
走査型 LiDAR 機械的回転 Velodyne, ibeo, Hokuyo, Konica Minolta,
Lightwave Optronics
走査型 LiDAR MEMS Bosch, Innoluce(Infineon), Pioneer
走査型 LiDAR フェーズドアレイ Quanergy
フラッシュ LiDAR スキャンレス ASC(Continental), LeddarTech

4 車載用走査型LiDAR

前述したごとく,走査型LiDARに使用されるスキャン方式には,機械的回転,MEMS,及びフェーズドアレイの3方式がある。光源として使用されるパルスレーザーの波長帯としては,Si光検出器で比較的高効率に受光可能な900nm帯近傍のものが使用されるケースが多い。
目に比較的安全とされる波長1.5mm帯の光源を使用したLiDARは,無人航空機搭載用などとして多用されているが,車載用には低価格化が課題であろう。ToF計測用受光器としては,フォトンカウンティング用にガイガーモードで動作する高感度なSPAD(GmAPD)を用いるものと,それよりも感度が劣るが低価格なリニアモードで動作するAPDを用いるものとがある。Si光検出器で検出可能な波長帯で受光する場合には,多数のSPADをアレイ化し,それらの出力を合算することにより,空間的アドレス情報は持たないが,S/Nを高めるようにしたSiPM(Silicon Photomultiplier)が使用できる18)

機械的回転方式を用いた走査型LiDARの事例として,Velodyne 社製の全方位LiDARセンサーVLP-16/VLP-16-LITEの主な仕様を表5 に示す19)。本製品は,16個のレーザー(波長903nm)を内蔵し,水平方位360°及び垂直視野30°の3Dイメージングが可能である。

1秒間に約300,000 ポイントを測定でき,測定距離は約100mまで対応している。測定精度は約±3cm(typical)である。

表5 Velodyne社製の全方位LiDARセンサーVLP-16/VLP-16-LITEの主な仕様19)
商品コード VLP-16 VLP-16-LITE
センサー センサータイプ
測定範囲・測定視野

測定距離
回転速度
測定精度
測定ポイント数
角度分解能

多重サンプリング

16 個のレーザー+検出器(送受信センサー)
水平 360°全方位
垂直 30°(+15°~‒15°)
約 100 m (1 m ~ 100 m)
5 Hz ~ 20 Hz
±3 cm(1 @25 m)
約 300,0000 ポイント/秒
水平 0.1°~ 0.4°
垂直 2.0°
Strongest,Last,Dual の 3 モード
レーザー レーザーのクラス
レーザー波長
クラス1(IEC 60825-1:2007&2014)
903 nm
電源

重量
寸法
耐衝撃
耐振動
耐環境

動作電圧
消費電力
重量
寸法
耐衝撃
耐振動
耐環境
9 ~ 32 VDC
8W
約 830g 約 590g
高さ 71.7 mm× 直径 103.3 mm
500 m/ 秒 2振幅 11ミリ秒間
5 Hz ~ 2000 Hz,3 Grms
IP67 対応
出力 出力インターフェイス
データ
GPS
イーサーネット 100 Mbps(IP アドレス変更可)
UDP パケット(距離,回転角度データ)
GPS タイム・シンクロナイズ機能

MEMSを用いた走査型LiDARは,スキャンに機械部品を使用しないので,全固体化方式により,超小型かつ安価な車載用のLiDARを実現できるものと期待されている。しかし,現在は原理検証及び試作が完了した段階であり,車体にすぐに実装できるような完成度の高い3D LiDARが出現するまでにはまだ若干の熟成期間が必要と思われる。Innoluce 社は,MEMSを用い,250 mの距離での物体検出実験に成功した20)。角度分解能は0.1°以下であった。MEMS 方式により,100 ドル以下のLiDARが実現するものと期待されている。

Infineon 社は,2016 年11 月にInnoluce 社を買収し,LiDAR事業に参入することを明らかにした。Osram OptoSemiconductors 社は,同月に開催されたelectronica 2016において,Innoluce 社による2kHz 動作の小型なMEMS(2.7 mm×2.3 mm)の出展に呼応して,LiDAR用4 チャネルレーザーを出展した。表6 に,同社のLiDAR用4 チャネルレーザーの仕様を示す21)。サンプル出荷は2017年の初夏に,また市場への投入は2018年が計画されている。国内では,2015 年9 月に,高性能・小型・低コストを実現する走行空間センサー「3D-LiDAR」の開発に向け,車載実証実験を開始したことをパイオニアが発表している22)。これによれば,2017 年に業務用製品,また2018 年以降に一般車両向け「3D-LiDAR」の製品化が計画されている。

表6 LiDAR用4チャネルレーザー(Osram Opto Semiconductors社製)の主な仕様21)
項目名 仕様
寸法
ピーク出力
波長
パルス幅
動作電圧
動作温度範囲
8 mm×5 mm
85 W @30A (各チャネル)
905 nm
< 5 ns
24 V
‒40℃~+85℃

Quanergy社は,2016 年1月,民生機器テクノロジー産業界の関係者が世界中から集まる場であるCES2016において,世界初となるフェーズドアレイを用いた全固体LiDARモデルS3 を発表した22)。サンプル出荷は2016 年9 月,OEMへの出荷は2017年の初期が予定されている。
量産価格は,250 ドル以下になると想定されている。視野角は水平方向及び垂直方向とも120°であり,反射率8%の物体を検知できる最大距離は150 m,測定距離100mにおける距離分解能は±5 cm,最小スポットサイズは9 cmである。S3の寸法は9 cm×6 cm×6 cmである。なお同社は,S3 よりもサイズを15%ほど小さくしたモデルS3-Qi を2016 年5月に発表した23)。S3-Qiの重量は100gである。レーザーの波長及び出力並びにスキャン速度などの詳しい技術仕様は明らかにされていない。同社のロードマップによれば,S3以前の製品は機械式の第1 世代であった。S3(第2 世代)及び次のモデル(第3世代)はマルチチップモジュール構成となり,第1 世代に比べてコンパクトである。また,スマートフォンなどに搭載可能な,ASICを用いた超小型なモデルが第4 世代のLiDARとして計画されている24)。第4 世代のLiDARの価格は100 ドル以下が想定されている。