1.はじめに
非冷却イメージセンサは、代表的な集積化MEMS (microelectromechanical systems)デバイスである。非冷却赤外線イメージセンサを搭載した赤外線カメラは暗視と非接触画像温度計測を中心に幅広い応用分野で活用されている。MEMS非冷却赤外線イメージセンサとして多くの方式が提案されてきたが、ハイエンド分野で進歩を続けるのは抵抗ボロメータ方式とSOI (silicon on insulator) 方式に絞られた。これらの方式では、画素ピッチ縮小が進み、フルハイビジョンの解像度も実現されている1)。高性能化と並行して低コスト化の努力も続けられており、コストに敏感な車載ナイトビジョンシステム市場やスマートフォン用赤外線カメラなどのローエンド新規市場で生産数量の急速な拡大が予想されている2)。
ここでは、本格的なビジネス拡大のフェーズに入りつつある非冷却赤外線イメージセンサについて技術動向と今後拡大が期待される応用分野を紹介する。
2.非冷却赤外線イメージセンサ
非冷却赤外線イメージセンサは、熱型赤外線検出器を用いた画像デバイスである。熱型赤外線検出器は、図1に示すように受光部(赤外線吸収部)、支持構造、基板(ヒートシンク)からなり、受光部が赤外線を吸収すると温度が変化するので、この温度変化を温度センサで計測することで赤外線を検出する。熱型赤外線検出器の感度は、受光部の温度変化の大きさと温度センサの感度で決まり、前者は、受光部と基板をつなぐ支持構造の熱コンダクタンスに反比例する。
図2に代表的な非冷却赤外線イメージセンサである抵抗ボロメータ方式の構造を示す。左上の図が赤外線イメージセンサ全体の構成で、右下が画素の断面構造である。抵抗ボロメータの画素は、酸化バナジウム(VOx)やアモルファスシリコン(a-Si)を抵抗材料としたボロメータ薄膜と赤外線吸収膜からなる受光部を基板から浮かせて保持した構造となっている1)。受光部を空間に保持しているのは2本の細長い支持脚で、支持脚の熱コンダクタンスは、できるだけ小さくなるよう設計される。図の画素構造は、MEMS技術で作製される。全体構成の図のように、抵抗ボロメータ方式の非冷却赤外線イメージセンサは、画素をアレイ状に配置し、基板上に形成した回路を通して可視光用のCMOSイメージセンサと同じように信号読み出しを行なう。
参考文献
1) 木股, “赤外線センサ 原理と技術”(科学情報出版)(2018).
2) 2105-2016年度版非冷却赤外線イメージング市場のマーケティング分析(株式会社テクノ・システム・リサーチ)(2016).
次週へつづく―