センシングを支えるアナログ・デバイセズの技術

永井 郁(ながい いく)
アナログ・デバイセズ(株)
リージョナル・ビジネス・グループ
永井 郁
井口 璃音(いぐち りおん)
アナログ・デバイセズ(株)
デジタルインフラストラクチャー
ビジネスグループ
井口 璃音
渡邉 慶太郎(わたなべ けいたろう)
アナログ・デバイセズ(株)
インダストリアルビジネスグループ
渡邉 慶太郎

 現代の情報通信社会において、物理世界のあらゆる環境事象はセンシングを通してデジタル世界に伝達され、我々の生活の中で日々の判断や行動に必要な情報として活用される。図1に物理世界とデジタル世界をつなぐセンシングの概念図を示す。図1の左より、物理世界の事象は化学的または物理的な現象を利用したセンサを用いて温度、湿度、音、振動などの様々なパラメータとして電気信号に変換される。データはノイズ除去などの信号処理を経て用途に応じた意味のある情報へ変換され、有線や無線の通信技術を通して人またはデータ・センターなどへ届けられ、判断や行動につながる洞察を得るために分析される。

図1.センシングの概念
図1.センシングの概念

 特に検出/測定および解釈の段階において、センサの微弱な信号から効率よくデータを生成し意味ある情報へ変換するうえでアナログ半導体が占める役割は重要である。米国Semiconductor Research Corporation (SRC)が2020年にリリースしたDecadal Plan (10か年計画) for Semiconductor1)によると、米国では年間約34億USドルの予算を半導体技術のブレークスルーのために投資し、そのうちの年間約6億USドルをアナログ半導体技術に投資するとされている。センサから生み出されてアナログ回路で処理・変換されたデータは年々増加し既に我々人類が処理できる量を超えているとされ、Decadal Planではアナログ半導体からのデータを100000分の1に圧縮し、より意味のある情報のみを抽出することで通信や解析の負荷を低減することを目標とし、その実現のためにアナログ回路、特にアナログ半導体での信号処理の高度化を含めたセンシング・システム全体の最適化が課題として挙げられている。
 アナログ回路にてデータ圧縮を行い個々の用途に応じた意味ある情報を抽出するためには、個々の用途における信号処理などの知見が必要である。弊社:アナログ・デバイセズ(以下ADI)では、いくつかの用途市場において、半導体ICやリファレンス・デザイン(参照設計)に加えて、ハードウェア・モジュールやアプリケーション・ソフトウェアを含むシステム・ソリューションを提供することで、顧客であるセットメーカーの高度なセット開発の期間短縮を支援し、同時に将来のセンシング・システムに適したIC開発に必要な信号処理の知見の獲得を目指す。ソリューションの例として、図2に産業オートメーション市場向け状態基準保全(Condition based Maintenance/Monitoring:以下CbM)向けの取り組みを示す。
 CbMとは、従来のある一定期間ごとの定期的な点検や部品交換などで対応していた機器の保全作業(時間基準保全)に代わり、様々なセンサを用いて常時監視し健全性の変化を早期にとらえて修理や部品交換を適切なタイミングで行う事により、機器のメンテナンスの費用対効果を改善する取り組みである。 ADIでは特に産業用モーターなどの故障による経済損失が比較的大きく、したがって時間基準保全における点検や部品交換の頻度が高い(=費用対効果の改善余地がある)機器に対するCbMソリューションを展開している。温度センサや振動・加速度センサ、マイクロフォン、電流センサなどのセンサにより駆動機器の故障の予兆となる発熱、振動、音、電流値や漏れ電流の変化などの兆候を検知し、適切なタイミングでの修理や部品交換を促すことで不要な点検、部品交換などの頻度を減らして機器のトータル維持コストを低減する。また、従来は熟練したベテラン技術者の勘と経験に頼っていた予兆の検知を定量化でき、メンテナンス技術の汎用性を高めることが出来る。

図2.産業オートメーション向けCbMソリューション
図2.産業オートメーション向けCbMソリューション

 モーターのCbMでは、対象となるモーターの構造や原理とそれに基づいた故障要因やその解析手法の理解などが求められる。また、対象となるモーターにセンサを取り付ける場合に、適切な箇所に適切な形でセンサを設置できるかどうかも重要であり、電気分野の知見のみならず機構設計やそれぞれのセンサに対する知見も重要となる。ADIではセンサICやマイコン、電源ICなどの半導体製品に加えて図2に示すようなモジュールやソフトウェアを含めたソリューションを展開し、CbMに対する知見を持った様々なセットメーカーやパートナーと協力して用途展開を進めている。
 図3に各マーケットでの主なアプリケーションと、そこでセンシングに使われるADIの技術の例を一覧として纏める。RF、コンバーター、アンプ、インターフェース、電源、センサなどの半導体コア技術をベースとしたこれらのIC製品をコアとして、それぞれのアプリケーションで求められる信号処理やアルゴリズムなどを組み合わせたソリューションを展開する。

図3.ADIの各市場向けコア技術とソリューション
図3.ADIの各市場向けコア技術とソリューション

 本特集では、これらの中から、ヘルスケア・医療分野のVSM技術、高精度計測分野でのインピーダンス計測技術、および機構部品のモニタリングやセキュリティ機能強化に役立つ1-wire技術を紹介する。

参考資料

  1. SRC (Semiconductor Research Corporation) Decadal Plan for Semiconductors: Decadal Plan for Semiconductors – SRC


【著者紹介】

永井 郁(ながい いく)
アナログ・デバイセズ株式会社 リージョナル・ビジネス・グループ

■略歴


  • 1999~2004年電子部品メーカーでセンサ開発に従事
  • 2004年~アナログ・デバイセズ社 MEMSセンサのビジネス開拓と技術サポート、その後、産業分野のビジネスなどに従事

井口 璃音(いぐち りおん)
アナログ・デバイセズ株式会社
デジタルインフラストラクチャー ビジネスグループ
ヘルスケア
フィールドアプリケーションエンジニア

■略歴

  • 2020年3月北海道大学工学部 卒業
  • 2020年4月アナログ・デバイセズ(株)(米国Analog Devices, Inc. 日本法人)入社
  • 以降フィールドアプリケーションエンジニアとして、主に医療機器向け各種ICのアプリケーションサポートに従事。

渡邉 慶太郎(わたなべ けいたろう)
アナログ・デバイセズ株式会社
インダストリアルビジネスグループ インスツルメンツ
シニアフィールドアプリケーションエンジニア

■略歴

  • 2015年3月東北大学理学部 卒業
  • 2017年3月東北大学大学院理学研究科 博士前期課程修了(修士(理学))
  • 2017年4月アナログ・デバイセズ(株)(米国Analog Devices, Inc. 日本法人)入社
  • 以降フィールドアプリケーションエンジニアとして、主に電子計測器市場向け各種ミックスド・シグナルIC及びモノリシック・マイクロ波IC(MMIC)のアプリケーションサポートに従事。
    2020年より、マイクロウェーブ展(MWE)実行委員会展示委員。