自動車用センサ(3)

千葉工業大学 教授 室 英夫

3.自動車用MEMSセンサ

自動車用電子システムにおいてもMEMSセンサは様々な用途に用いられていて、その小型化、高機能化に大きく貢献している。中でもエアバッグ用加速度センサはMEMSセンサ黎明期における一般普及において、重要な役割を果たしてきた。自動車用MEMSセンサにはエアバッグ用やシャシー制御用の加速度センサ、ヨーレート計測用の振動ジャイロ、吸入気圧や油圧を計測する圧力センサ、熱式エアフローメータ、熱式赤外線イメージセンサなどがある。MEMSセンサの製造プロセスとしては半導体基板を加工して構造体を形成するようなバルクマイクロマシニング(Bulk Micromachining)と基板上の薄膜を加工して構造体を形成するような表面マイクロマシニング(Surface Micromachining)があり、小型化や実装の容易性から近年は後者へ移行する傾向にある。

3.1 加速度センサ

一般に加速度センサは慣性質量を弾性体(バネ)で支持するようなバネマス系の構成を取り、加速度印加で生じる慣性力による慣性質量の変位や弾性体上の応力を検出することで加速度を求める。変位検出の方式としては静電容量式や磁気式などがあり、応力検出の方式としてはピエゾ抵抗式や圧電式などがあるが、MEMSセンサでは主にピエゾ抵抗式と静電容量式が用いられる。図1に両持ち梁構造のピエゾ抵抗式加速度センサの例を示す。(100)シリコン基板を裏面からKOH水溶液などのアルカリ性エッチング液を用いて異方性エッチングすることで慣性質量を両側から厚さが薄い梁で支持する構造体を形成することができる。梁上の固定部側及び慣性質量側の端にはピエゾ抵抗が形成されていて図2に示すようなホイートストンブリッジ回路に結線されている。下向きの加速度を印加した場合、ピエゾ抵抗R1、R3には引張応力が、R2、R4には圧縮応力が生じ、∆R/Rの抵抗値変化に対してという出力電圧VOUT=∆R/R×VCCを得ることができる。静電容量式加速度センサでは慣性質量に取り付けられた可動電極とそれに対向する固定電極が可変容量を構成し、加速度を印加した場合そのギャップ長が変化して容量値が変化し、出力電圧変化が得られる。

図1 ピエゾ抵抗式加速度センサの基本構成
図2 ピエゾ抵抗式によるホイートストンブリッジ回路

3.2 振動ジャイロ

振動ジャイロは慣性質量が直交する2方向に変位可能なように支持された構成になっていて、アクチュエータにより1方向に強制変位(振動)を与え、角速度と比例するコリオリ力による他方向への変位を検出する。アクチュエータの方式としては電磁式、圧電式、静電式、磁気式などがあり、検出素子でも加速度センサと同様に多くの方式が可能であるのでそれらの組み合わせにより、様々な方式のセンサが開発されている。但し、表面マイクロマシニングによる振動ジャイロでは機能性薄膜形成等の特殊な工程が不要な、櫛歯電極による静電駆動と容量検出を用いたものは多く実用化されている。

3.3 圧力センサ

圧力センサでは半導体薄膜によるダイアフラム構造が用いられ、圧力印加によって生じた応力や変位を加速度センサと同様にピエゾ抵抗式や静電容量式で検出する。ピエゾ抵抗式ではダイアフラム周囲の4辺の中央付近に2個は辺と平行に、2個は辺と垂直にピエゾ抵抗を形成することで応力成分の差に比例した出力電圧を得ることができる。高圧用の圧力センサでは外側に金属ダイアフラムの内側をシリコンオイルで満たし、その中に半導体ダイアフラムのセンサチップを設置したような2重ダイアフラム構造も用いられている。

3.4 エアフローセンサ

MEMSエアフローセンサでは熱分離用の薄膜構造体の上にヒータとそれを挟むように上流側、下流側の温度センサを形成することで、各温度センサの温度がエアフローにより変化するのを検出して、流量を求めることができる。ブリッジ回路を用いて上流側と下流側の温度センサの温度差に対応して出力電圧を用いれば、流量だけではなく、流れの方向もわかるので逆流検知が可能となる。ヒータ、温度センサとしては白金のスパッタにより形成された薄膜抵抗体がよく用いられる。

3.5 熱型赤外線イメージセンサ

赤外線イメージセンサは人体などの熱源から放射される放射される遠赤外線を赤外線検出素子の2次元アレイを用いて検出し、画像化する装置で検出原理により量子型と熱型がある。量子型は光電効果により照射された光子を電気信号に変換するもので高感度・高速の変換が可能な反面、冷却が必要となり装置が大型化・高価格化する傾向にある。それに対して熱型では基板から熱分離された受光部に温度センサを形成し、照射された赤外線の電力によるわずかな温度上昇を温度センサにより検出する。温度センサに種類によりVOxなどの抵抗温度係数の大きな材料の抵抗体を用いる抵抗ボロメータ型、BST(Ba1xSrxTiO3)などの焦電素子を用いた焦電型、熱電対を多数直列接続したサーモパイルを用いた熱電型などがある。図3はSiNダイアフラム上にn形多結晶シリコンとp形多結晶シリコンの対を用いたサーモパイルを形成した熱電型赤外線センサの例を示す6)。赤外線を照射するとダイアフラム中央の赤外線吸収膜の温度が上昇し、ゼーベック効果により赤外線吸収膜とダイアフラム周囲の基板の温度差に比例した出力電圧が得られる。熱型はMEMS技術により画素の縮小、低価格化が進み、近年実用化が進んでいる。

図3 熱電型赤外線センサ画素の素子断面図

参考文献

5) 室英夫他「マイクロセンサ工学」(技術評論社)、4.2 加速度センサ、pp.80-91 (2009)

6) 室英夫他「マイクロセンサ工学」(技術評論社)、3.2 赤外線センサ、pp.61-72 (2009)

次週に続く―