自動車用センサ(1)

千葉工業大学 教授 室 英夫

自動車用センサという言葉が世間の注目を集めるようになったのは多分1970年代のエンジンの電子制御に関連した部品としてではないかと思う。当時排ガス規制への対応のために多くのセンサからの情報をもとにマイクロコンピュータにより最適な燃料噴射や点火時期を計算してアクチュエータを制御するような電子システムが開発され、それにともない様々なセンサが用いられるようになった。この頃カーエレクトロニクスという言葉がよく使われるようになり、自動車が従来の機械からメカトロニクスのシステムへと変貌していったというような印象を受けたことが思い出される。但し、センサはよく「千差万別」と言われるようにその内容が検出対象やシステムによりかなり異なり、必要とされる技術が多岐にわたるために一義的に述べるのは容易ではないように思う。本稿では著者の自動車用半導体センサの研究開発の経験をもとに「自動車用センサとは何か」というテーマと関連する事柄について、以下4回にわたって記述していきたいと思う。

1.自動車用センサの特徴

最初に自動車用センサの特徴について述べたいと思う。一般に自動車用センサの要件としては次の3点がよく挙げられる1)

1)小型,軽量 
2)高い信頼性(温度,振動,EMI)
3)低コスト

自動車用センサの仕様/・価格を家電用及び産業用のセンサと比較した例を表1に示す。これらの値は代表的なものを挙げてあるだけで全ての場合に当てはまるわけではないが、全体としての傾向が示されているように思う。自動車用センサは近年の携帯機器やウェアラブルエレクトロニクスほどではないが、設置型の機器と比較するとより小型・軽量化が求められ、1980年代のエレクトロニクス勃興期に従来の機械式から電子式へと大きく変貌していった2)。この電子化において大きな役割を果たしたのが半導体チップの中で微小な機械構造体を実現するMEMS (Micro Electro Mechanical Systems) 技術であり、これについては第3回でもっと詳しく述べていきたいと思う。またセンサを含む電子部品の小型化には表面実装や小型パッケージなどによる実装技術の進歩が大きく貢献している。

表1 自動車用センサと他分野のセンサの比較

自動車用センサは家電用や産業用と比較して使用環境が飛びぬけて過酷であり、また自動車用電子部品は10~20年という極めて長い製品寿命を要求される。これを満足させるために長期の信頼性試験を行うことが自動車用センサ開発の大きな課題となっている。最近のセンサの傾向として、メカ部のMEMS化や信号処理LSI内蔵による高機能化といった半導体素子の占める比重が高くなっており、センサの信頼性試験も半導体の試験にセンサ固有の試験を追加するような構成となっているものが多い。自動車用半導体の信頼性試験については代表的なものとして米国における規格化の団体AEC(Automotive Electronics Counsil)が規定しているIC用の信頼性試験仕様Q100が参考になると思う。この中では対象のICをその使用温度範囲によって5つのグレードに分けて、試験内容を規定している。例えば、最も厳しい使用温度範囲-40~150℃の”grade 0″では温度サイクル試験は-50⇔150℃で2000サイクルと規定されている。特に高温環境下で使用されるセンサについては必要とされる信頼性試験期間が極めて長くなり、その開発期間(Turn Around Time)を短くすること重要な課題となっている。

さらに自動車用センサの信頼性を考える上で重要なポイントとしては、それが故障したときに電子システムに及ぼす影響を極力抑えるように構成することがある。一般に自動車用部品の開発においてはFMEA(Failure Mode and Effect Analysis)を用いて、いろいろな故障モードの影響を検討し、重大度、発生頻度、検出度の総合評価をもとにその結果を設計にフィードバックする手法が取られている。センサについてもこれらの結果により形状・ピン配置・材料などについて見直すことがある。

全体として自動車用センサを家電用や産業用と比較すると、精度は家電用と産業用の中間的な値だが、使用環境は両者よりもずっと厳しく、数量的には大量に使用されるものの価格は家電用並みに低く抑え込まれているとまとめることができる。次回以降では自動車用センサの具体的な中身について述べていきたいと思う。

参考文献

1) 室英夫、「自動車におけるセンサ技術」、平成19年電気学会全国大会論文集、3-S22-4 (2007)

2) 西敏夫 監修、「表面・界面技術ハンドブック」(NTS)、第3編第6章第2節 自動車用センサ、pp.559-567 (2016)

次週に続く―