ドローンを用いたリモートセンシング技術の大規模圃場への応用(2)

沖 一雄
京都先端科学大学工学部
教授
沖 一雄

3.結果

3.1 樹高マップ

 図 4 には、2017 年 8 月 5 日に観測された画像から推定されたピーカンナッツの樹高マップを示した。 図 4より樹高が高い領域と低い領域が散在していることがわかる。 この樹高マップを別の日の樹高マップと比較することで、その期間の樹高成長量を評価することができる。 そうすることで、広大な果樹園の中で生育が著しく悪い樹木を効率よく検出することができる(図5)。

図4 UAV画像から推定されたピーカンナッツの樹高マップ
図4 UAV画像から推定されたピーカンナッツの樹高マップ
図5 UAV画像から推定された2時期のピーカンナッツの樹高差
図5 UAV画像から推定された2時期のピーカンナッツの樹高差

3.2 NDVI マップ

 図 6 は、2017 年 6 月 3 日に可視近赤外カメラにより撮影された画像から作成されたピーカンナッツ樹木の葉の NDVI マップを示している。

図 6 UAVに搭載された可視近赤外カメラにより撮影された画像から作成されたピーカンナッツ樹木の葉の NDVI マップ
図 6 UAVに搭載された可視近赤外カメラにより撮影された画像から作成されたピーカンナッツ樹木の葉の NDVI マップ

 ピーカンナッツ樹木の葉は品種によって異なるため、NDVI マップ上の値も品種によって異なる。 そのため、同じ圃場内であっても、品種ごとに NDVI 値を評価する必要がある。本研究では、高空間分解能で観測可能なUAVを使用しているため品種ごとのNDVI値の評価を可能にしている。
 図7は,健康な樹木とxylellaとよばれるウイルスに感染した樹木の比較写真である.健康な樹木では枝先まで葉が生い茂っているのに対し,感染樹木では葉が枯れ落ちている.図 8にUAVによる各樹木のNDVIの違いを確認すると,健康な樹木と感染している樹木でNDVIの値および形状に違いがあることがわかる.具体的には、葉が疎になっている感染樹木では,健康な樹木と比べて樹木全体のNDVIの値が低くなっていることに加え,隙間が存在することから一本の樹木の中で値に斑が生じている.このようにNDVI情報を評価することにより広域な農場から不健康な樹木を速やかに検出することが可能となる。

図7 健康な樹木(左)とxylellaとよばれるウイルスに感染した樹木(右)の比較写真
図7 健康な樹木(左)とxylellaとよばれるウイルスに感染した樹木(右)の比較写真
図 8 UAV画像から算出された各樹木のNDVI値
図 8 UAV画像から算出された各樹木のNDVI値

3.3 熱赤外画像マップ

 図9には、2017年6月3日に熱赤外カメラにより観測された地表面温度マップを示した。図9から、ピーカンナッツの樹木が植えられたエリアで温度が低いことがわかる。 植物は土壌よりも温度が一般的に低いため、これは予想された結果になった。日中、植物は太陽光を吸収して光合成を行い、ピーカンナッツの樹木の葉は活発に蒸散を行い、温度上昇を防ぐことが知られている。したがって、温度情報は植物の状況を評価するために有効である。
 さらに、図9に注目すると熱赤外カメラで観測された地表面温度マップから果樹園の中に大きな円があることが発見された。過去の衛星画像(Google Earth、2011 年 5 月 20 日撮影)や農場経営者からの情報によると、ピーカンナッツの樹木を栽培する前に、ここではピボット灌漑によるアルファルファ栽培が行われていたことがわかった。マップの温度は円の内側で高く、円の外側で低いことを示しており、高温を示す地域では生育阻害の可能性があると考えられる。農場経営者はピーカンナッツの樹木をよりよく成長させるためにアルファルファ栽培をおこなっていたにもかかわらず逆にアルファルファ栽培領域の成長がよくないことがわかり大変驚いていた。

図9 UAVに搭載された熱赤外カメラにより作成した地表面温度マップ
図9 UAVに搭載された熱赤外カメラにより作成した地表面温度マップ

4.考察と結論

 本研究では、米国アリゾナ州の64 ヘクタールのピーカン果樹園で、UAV を使用した連続モニタリング方法を確立した。特に、米国アリゾナ州のピーカンナッツ果樹園を対象に、可視近赤外と熱赤外カメラを搭載したUAV による樹木の NDVI モニタリング、樹高マップの作成、および地表温度分析を実施しました。確立された継続的な監視方法から、NDVIマップを利用して広大な圃場内で容易に不健康樹木を早期発見する手法は、生産性の維持・向上に役立つことを示せた。特に、生産者を悩ませるXylellaに感染した樹木はいち早く発見することが望まれている。
 また、熱赤外センサにより観測されたUAV 画像は、ピーカンナッツを植えてから 3 年後に、ピボット灌漑によるアルファルファ栽培の円形の痕跡があったことを示した。アルファルファを含むマメ科植物は土壌を肥沃にすることが知られている10)が、樹木はこれに反応していないようであり、その地域は樹木に有害であるように見える.米国アリゾナ州の土壌は石灰質であることが知られているため、この円は実際には乾燥地の灌漑でよく見られる塩の蓄積によって引き起こされている可能性があると想定している11)が、これを結論付けるには、土壌のテストを実施し検証する必要がある。
 今後は、本研究で得られた可視近赤外・熱赤外データの値や樹高マップなどの変数と実際のピーカンナッツの収量との関係を調査し、UAVによるさらなるフィールドモニタリング手法の有用性を検証する予定である。

謝辞
この研究は、North Bowie Farmingおよび一般財団法人生産技術研究奨励会の支援を受けて実施された。ここに感謝の意を表します。



参考文献

  1. Flynn, R., and Idown, J., Nitrogen Fixation by Legumes. Publications. College of Agricultural, Consumer, and Environmental Sciences, New Mexico State University.
    https://aces.nmsu.edu/pubs/_a/A129/ Accessed 3 September 2022.
  2. Sentis, I.P.,Soil salinization and land desertifcation. In: Rubio, J.L., Calvo, A. (eds.) Soil degradation and desertification in Mediterranean environments, pp. 105–129. Geoforma Ediciones, Logroño (1996).


【著者紹介】
沖 一雄(おき かずお)
京都先端科学大学工学部 教授
東京大学生産技術研究所 特任教授

■略歴
1997年筑波大学大学院社会工学研究科博士課程修了後、国立環境研究所、群馬大学工学部、東京大学大学院農学生命科学研究科、東京大学生産技術研究所と異動し、現在、京都先端科学大学工学部および東京大学生産技術研究所に所属している。また、途中、イタリア・イスプラにあるJoint Research Centreへの研究留学や、数年間の内閣府総合科学技術会議へ出向(併任)の経験を持つ。研究では、一貫して環境、農業分野における衛星リモートセンシング手法の開発に従事してきたが、この頃、農業生産者に役立つドローンでのリモートセンシング手法の開発にも興味を持ち、是非、農学と工学の融合による食料生産技術分野の確立に貢献したいと思っている。食料生産技術研究会を運営中。