「徳島大学におけるイノベーション ~多様な産学連携の推進~」
 1章:地方大学・地域産業創生交付金事業における産学連携(1)

徳島大学 研究・産学連携部 地域産業創生事業推進課

はじめに

 2018年度、地方創生と地方大学の改革を目的とした内閣府、文部科学省による地方大学・地域産業創生交付金事業が創設された。同事業に徳島県の「次世代“光”創出・応用による産業振興・若者雇用創出計画(以下、「次世代ひかりトクシマ」という。)」が採択され、徳島大学はその中核を担っている。本稿では、次世代ひかりトクシマの概要と、これを通じた地域との産学連携について紹介する。

図1 次世代ひかりトクシマHPより
図1 次世代ひかりトクシマHPより(https://www.tokushima-u.ac.jp/hikari/about/)

1.1 次世代ひかりトクシマの目的

 徳島県では、本県が抱える課題解決に向け、県内の主要な産官学金の機関の参画を得て、主幹会議である「とくしま大学振興・若者雇用創出推進会議」を設置している。本会議主導のもと、本学や産業界が有する地域の強みを活かした光関連産業の振興と専門人材育成などに産官学金連携で取り組んでいる。
 本事業の申請に当たっては、今後進む高齢化社会を見据えたフューチャーセッションを開催し、県内の多様な方々に参加いただいた。その結果、高齢化をすべての人が幸せになるチャンスに変えていく「創造的超高齢社会の実現」をビジョンとして掲げることとし、バックキャストにより本学及び地域の強みをもって、これに取り組むこととなった(図2)。具体的には、「光科学を学ぶなら徳島!光産業を仕事にするなら徳島!」と“光”を目指して若者が集う徳島の実現(次世代ひかりトクシマ)に向け、本学では、可視・近赤外光だけでなく、未だ利用されていない波長領域の光に焦点を当て、光に係る研究開発と医光融合研究に取り組み、「キラリと光る徳島大学」の実現を目指すこととした。

図2 次世代ひかりトクシマのビジョン
図2 次世代ひかりトクシマのビジョン

1.2 事業の取組状況

 本学では、徳島県の中核的な産業である光関連産業に貢献するべく、本学の強みである光科学分野を更に強化し、総合医科学分野等への応用・展開を進める研究拠点「ポストLEDフォトニクス研究所(以下、「pLED」という。)」を設置した。pLEDは、「新しい光の創出と応用」を研究目標に掲げ、未利用の波長領域の光(次世代の光)を中核とした光源開発と医光融合等を通じた応用・製品開発で、世界トップレベルの教育研究拠点を構築するとともに、医光融合人材の育成や企業ニーズを踏まえたリカレント教育など、光応用専門人材の創出を担う。

(1)pLEDにおける研究開発

 「ポストLEDフォトニクス」とは、次世代の光として期待される「深紫外」「赤外」「テラヘルツ」の新しい実用的な光源開発及び応用開拓を指す造語である。我々が日常的に「光」として認識している可視光は、「光」のほんの一部に過ぎず、可視光の短波長側と長波長側には、「深紫外」「赤外」「テラヘルツ」といった波長領域が広がっている。これらの波長領域では、可視光とは異なる特徴的な物質相互作用を示すため、可視光とは本質的に異なる応用が期待できる。例えば、Beyond 5G等の超高速無線通信、食品異物等の検査技術、微量物質の高感度検出や精密分光計測等への応用が期待されている。このようにpLEDは、未知の可能性を大いに秘めた見えない光の領域を開拓し、この研究を推進している。
 pLEDのもう一つの大きな柱として、医光融合研究の推進を掲げている。徳島大学は、国立大学の中で唯一、医学・歯学・薬学・栄養学・保健学が揃っている。その環境を活かすことで、特殊光を用いた癌の新しい内視鏡診断と光治療法の開発、唾液や呼気による健康診断、新規バイオマーカー蛍光体の開発など、健康寿命を延ばし、QOL(Quality of Life)を高めるための光科学と医学の融合研究による新しい医療への応用に挑戦している。



次回に続く-