漏れ量の校正(2)

(株)フクダ
取締役営業部・海外営業部 部長
中澤 茂夫

4. 校正方法

4.1 校正対象品

校正対象品は、標準リーク又はキャピラリー式流量計で、コンダクタンスリークとなる。「コンダクタンスリークは、流体が通ることができる一つ又は複数個の分離した経路からなるリーク」とJCSS 技術的要求事項適用指針 5)で定義されている。当社製品のフロースタンダードは、キャピラリー式のリーク計となる(写真1)。

写真1 フロースタンダード
写真1 フロースタンダード

なお流量・流速区分では、流量計をキャピラリー式流量計と規定している。一般的な流量計のイメージは、流れている流量の値を表示する、または流量の値を既定の出力信号で出力する計測器であるが、キャピラリー式流量計は表示部が無く、信号も出力しない流量計となる。
一定条件下でキャピラリー式流量計の上流側に指定の圧力を加え、下流側は大気圧又は真空とした場合、一定の流量が発生する。つまりキャピラリー式流量計は、一定の漏れ量を発生させる標準器である。

4.2 校正装置/圧力区分

圧力区分における標準リークの校正は、図2トレーサビリティ体系図に示すように圧力、長さ、温度、時間の上位標準器にて校正した標準器を組合せた装置にて行っている。 この校正装置はメインチャンバ、リファレンスチャンバ、蓄圧タンク、容積測定チャンバの4つのチャンバと高精度差圧計、絶対圧計などで構成されており、図3に示す配管及びバルブで連結されている。

図3 圧力区分の校正装置(定容リーク量装計)

蓄圧タンクは、校正する気体を指定された圧力に充填するタンクであり、メインチャンバは被校正器(標準リーク)を通過した流体が流入するチャンバ、およびリファレンスチャンバはメインチャンバとの間の差圧を計測する際の参照チャンバとなる。容積測定用チャンバは、メインチャンバやリファレンスチャンバの内容積を測定するためのタンクで、内部は体積が既知の金属球を出し入れできる構造となっている。メインチャンバ、リファレンスチャンバ、高精度差圧計、標準リークは測定中に温度の影響を受けないように、ペルチェ素子駆動温度槽/インキュベータ(恒温槽)内に入れ、槽内の温度ばらつきの影響を受けないよう微風のファンにて攪拌して安定した温度に保つようにしており、そのばらつきは10mK程度に抑えている。リーク量が少ないとメインチャンバの圧力上昇がゆっくりの為、測定時での温度変化は測定に大きな影響を及ぼし、不確かさを悪くする大きな要因の一つであり、当社においても大変苦心したところである。
高精度差圧計はキャパシタンス式ダイアフラム差圧計を用いている。圧力が加わるとダイアフラムが高圧側から低圧側に膨らむことで差圧測定をする。メインチャンバに流体が流れ込み圧力が上昇すると差圧計のダイアフラムが膨らみ、この分の容積が増加する。逆にリファレンスチャンバはこの分の容積が減少する。この現象は差圧1Paあたりの容積変化を係数で表す事ができ、発生した差圧により容積変化量が計算できる。校正装置に用いている高精度差圧計は1×10-4mL/Paの係数を持っている。
校正は、指定の気体種を指定の上流圧力で蓄圧タンクに充填し、メインチャンバとリファレンスチャンバ間の隔離弁を閉じたのち、蓄圧タンクより標準リークへ気体を流す。標準リークを通過した気体は既知の一定容積のメインチャンバ内に流れ込むことにより、メインチャンバ内の圧力が上昇する。単位時間内のこの圧力上昇値を計測することで、流体の流入量 つまりリーク量が測定出来る。
メインチャンバの容積をV、圧力上昇値を⊿P、流入時間を⊿tとすると 、リーク量Qは次式で表せる。

(1) 式で高精度差圧計の係数(センサ係数)や温度の影響、メインチャンバの容積、リファレンスチャンバの容積などの考慮をすると、

とあらわされる。

このQが校正値となる。

4.3 校正装置/流量・流速区分

流量・流速区分の気体用流量計(キャピラリー式流量計)の校正は、図4に示す装置の構成となっている。上位標準より校正した膜式流量計を参照標準として、キャピラリー式流量計の校正を行っている。

図4 流量・流速区分の校正装置
図4 流量・流速区分の校正装置

乾燥空気を上流側の圧力コントローラーを通して、DUT(キャピラリー式流量計)の上流側に指定圧力を加え流量を流す。キャピラリー式流量計は先述の通り流量値の表示が無く、流量値に相当する出力信号もない為、校正値は参照標準の流量計が示す流量値となる。

5. 不確かさ

誤差はなじみの表現と思う。JIS Z 8103 :2019計測用語では、「誤差は測定値から真値を引いた値」と定義されている。真の値は本来知ることができない。そこで不確かさの考えが校正において取り入れられている。測定結果の値には、ばらつきやかたよりが付いてくる。これが不確かさである。不確かさは、JIS Z 8103 :2019計測用語では、「測定値に付随する、合理的に測定対象量に合理的に結び付けられ得る値の広がりを特徴づけるパラメータ」と定義されている。なお不確かさは測定結果の値に付けられるもので測定器に付けられるものではない。

5.1 圧力区分の不確かさ

リーク量の校正値は(2)式で求められる。求められたパラメータにはそれぞれ不確かさがあり、それぞれ合成される。リーク量の不確かさの要因としては

があり、それぞれの標準器の不確かさや測定のばらつき、偏りなどが算出され、(3)式から(10)式の合成不確かさが求められる。
校正証明書には(2)式で求めた校正値とその値の不確かさが示される。

5.2 流量・流速区分の不確かさ

気体流量の校正値は、流量の値を示す表示や出力が無い事から、標準器の測定値が校正値となる。
従って不確かさの要因は、標準器の不確かさ、圧力の不確かさ、温度による不確かさになる。

があり、圧力区分同様に標準器の不確かさや測定のばらつき、偏りなどが算出され、合成不確かさが求められる。

6. おわりに

カーボンニュートラルが叫ばれる昨今、化石燃料を減らし自然エネルギーや水素エネルギーを用いるなどの変革が起きている。また自動車では電気自動車や燃料電池車の開発が進み製品化が始まっている。更に各種センサを搭載し安全機能を持たせた、あるいは自動運転を目指した自動車などが世に出始めている。これらに使われる部品や製品は、漏れの検査がますます重要になってきている。水素の漏れやセンサの防水性、電子部品の信頼性を上げる為の気密性など漏れ試験は様々にある。測定媒体にはエアーや水素、ヘリウムを用いるなどあり、それらは測定対象の特性や漏れ量の大きさにより異なる。
当社は1×10-6Pa・m³/sから200mL/min.の校正範囲においてJCSS校正の実施ができる登録事業者であり、校正を通して、漏れの信頼性を上げることに貢献できると確信している。今後顧客の要望に応え、校正能力の更なる向上に努めていきたい。



参考、引用文献

  1. JIS Z 8103:2019計測用語
  2. JIS Z 2300:2020非破壊試験用語
  3. JCSS種類⁻40:計量器等の種類を定める規定
    独立行政法人製品評価技術基盤機構認定センター
  4. JCT20810:第23版 JCSS 技術的要求事項適用指針(流量・流速/気体流量計)
    独立行政法人製品評価技術基盤機構認定センター
  5. JCT20503:第4版 JCSS 技術的要求事項適用指針(圧力/リーク計)
    独立行政法人製品評価技術基盤機構認定センター
  6. Arai K and Yoshida H Metrologia 51 (2014) 522-527


【著者紹介】
中澤 茂夫(なかざわ しげお)
株式会社フクダ 取締役 営業部・海外営業部 部長

■略歴
1982年 株式会社長野計器製作所(現長野計器株式会社) 入社
2015年 株式会社フクダ 入社
2017年 同社 取締役 開発部 部長
2020年 現職