漏れ試験について(1)

(株)フクダ
標準品技術部
井元 宏行

1. 漏れ

漏れは古くから身近にある不具合であるが、現在でも品質の重要な要件の一つである。
漏れとは“壁の両側の圧力差又は濃度差によって液体又は気体が通過する現象。孔、多孔質などの透過性要素が原因となる” 1) と定義されている。本文では、封止をしたはずだが意図せずに発生した流れを“漏れ”とする。
また,漏れ量は“ある条件下で漏れ箇所を通過する、定められた液体又は気体の流量” 1) となっている。漏れは小さな流量である。NITEによる気体流量の適用指針では2.5×10-4 m³/h(約4.176 atm・mL/min)より大きなものを“流量”,小さなものを“漏れ”に管轄が分けられているが、本文では“流量”の範囲であっても封止の不具合となる流れは“漏れ”とする。
気体の漏れの単位は、Pa・m³/sである。業界によりatm・mL/sなども使用されている。

2. 漏れ試験方法の規格

漏れ試験方法には原理が異なる様々な方法があり、代表的な試験方法は規格化されている。
漏れ試験は非破壊検査の一つで、JISの漏れ試験方法の規格管理団体は一般社団法人 日本非破壊検査協会(JSNDI)である。また国際規格(ISO TC135(非破壊検査)SC6(漏れ))の標準化の活動も行われている。漏れ試験方法関連のJIS規格、及び、ISOの規格を表1に示す。

表1 漏れ試験関連の規格(2022年3月現在)
番 号 名 称
JIS Z 2329:2019 非破壊試験−発泡漏れ試験方法
JIS Z 2330:2012 非破壊試験−漏れ試験方法の種類及びその選択
JIS Z 2331:2006 ヘリウム漏れ試験方法
JIS Z 2332:2012 圧力変化による漏れ試験方法
JIS Z 2333:2005 アンモニア漏れ試験方法
JIS Z 8754:1999 真空技術−質量分析計形リークディテクター校正方法
ISO 3530:1979 Vacuum technology – Mass-spectrometer-type leak-detector calibration
ISO 20484:2017 Non-destructive testing – Leak testing – Vocabulary
ISO 20485:2017 Non-destructive testing – Leak testing – gas method
ISO 20486:2017 Non-destructive testing – Leak testing –Calibration of reference for gases

漏れ試験は広く実施されており、製品の品質とも密接な関係がある。そのため、JIS C 0920(IEC 60529)電気機械器具の外郭による保護等級(IPコード)の第二特性数字による水に対する保護、JIS C 60068(IEC 60068)-2-17 環境試験‐電気・電子‐封止(気密性)試験方法、などにも漏れ試験方法の記載がある。
更に特定の製品に対する品質規格の一つとして“漏れ/封止”が取り上げられ漏れ試験方法を含めて示されるものもある(例えば JIS B 7505-1アネロイド型圧力計-第一部ブルドン管圧力計 12.5 漏えい試験)。これらの規格は、前段階として業界団体の規格で実施されていたものがJIS規格になったものが多く、業界規格として使用されているがJIS規格になっていない規格もある。
漏れ試験を検討する場合は、対象となる試験体が属する業界の情報を確認することが望ましい。

3. 代表的な漏れ試験方法

JIS Z 2330非破壊試験-漏れ試験方法の種類及びその選択 に取り上げられている漏れ試験方法を表2に、各試験方法の可検リーク量を表3に示す。これらの試験方法には更に細分化された手法・技法がある。

表2 漏れ試験方法
区 分 試験方法
液体を用いた漏れ試験(水圧をかけ滲みなど漏出を目視で確認する双方は含まれない) 蛍光染料を添加した漏れ試験
現像剤を使用した漏れ試験
浸透液を使用した漏れ試験
空気などの気体を使用する漏れ試験(気体の物理特性を利用した方法) 液没試験
発泡漏れ試験
圧力変化による漏れ試験
流量測定による漏れ試験
超音波漏れ試験
サーチガスを用いた漏れ試験(特定のガスを利用した方法) ヘリウム漏れ試験
水素漏れ試験
ハロゲン漏れ試験
アンモニア漏れ試験
表3 漏れ試験法の可検リークの目安(単位Pa・m³/s-1
加圧した場合 減圧した場合
液体を用いた漏れ試験 ~10-3 発泡漏れ試験 ~10-5
超音波漏れ試験 ~10-3 圧力変化による漏れ試験 ※ ~10-6
発泡漏れ試験 ~10-5 アンモニア・ハロゲン漏れ試験 ~10-7
圧力変化による漏れ試験 ※ ~10-5 ヘリウム漏れ試験(真空吹付け法) ~10-11
アンモニア・水素漏れ試験 ~10-7 ヘリウム漏れ試験(真空外覆法) ~10-12
ヘリウム漏れ試験(吸い込み法) ~10-8
ヘリウム漏れ試験(真空容器法・吸盤法) ~10-11

※ 測定部内容積により可検リーク量は変わる

主な試験方法の内容は次の通り。

3.1. 発泡漏れ試験方法

  • 概要
    試験体の内部と外部で圧力差を作り、試験面に塗布した発泡液が気体の漏れにより発泡現象を起こす状態を目視で観察する方法。
  • 特徴
    定量性には欠けるが、漏れ位置の特定が出来る。漏れ以外の原因で発生する泡との判別など、試験技術者の習熟を必要とする。
  • 対応規格
    JIS Z 2329
    図2-真空箱のイメージ
  • 試験手法
    ① 加圧法:試験体内部(又は試験面の裏側)を加圧した後、試験面に発泡液を塗布し発泡を観察する。
    ② 真空法:試験面に発泡剤を塗布後、真空箱(図2参照)で試験面を覆い内部を減圧させ発泡を観察する。
  • 発泡液
    漏れ試験専用の発泡液を用いる。発泡液は、定められた発泡性(φ0.03 mmの指定の試験片を用い大気との圧力差が5 kPa以下で発泡現象が確認されること)、適度な消泡性(塗布時の泡が消え、漏れによる発泡との識別に優れる)を持つ。またオーステナイト系ステンレス鋼、ニッケル基金属又はクロム基金属への適用を考慮し硫黄及びハロゲン元素の含有率が200ppm(質量分率)未満となっている。

3.2. 圧力変化による漏れ試験方法

  • 概要
    試験体の内外に圧力差をつくり封止した後一定時間放置する。封止部の圧力変化を測定し漏れを検出する方法。試験体を加圧後の漏れによる流量を測定する流量測定法も圧力変化法に分類される。
  • 特徴
    定量性はあるが漏れ位置を特定できない。内容積の大小、検査時間の長さで最小可検漏れ量が変わる。温度変化、気圧変化の影響を受ける。大きな構造物の検査は,試験技術者の力量が必要だが、量産される部品などの生産ラインでは専用の検査装置を製作し、オペレータによる自動、半自動検査が行われる。
  • 対応規格
    JIS Z 2332
  • 試験手法
    1. 基本となる試験手法
      • 加圧法:試験体内部に圧縮ガスを充填後封止し、放置後の内圧の変化から漏れを検出する。
      • 減圧法(試験体へのガス流入法): 試験体内部を減圧後封止し、放置後の内圧の変化から流入する漏れを検出する。
      • チャンバ法:試験体をチャンバで覆い、試験体内部を加圧する。試験体からの漏れによるチャンバ内圧の変化を検出する。試験体内部を減圧する方法もある。
      • 密封品チャンバ法:加圧/減圧口の無い試験体をチャンバに納め、チャンバを加圧/減圧する。試験体内に漏れ込む/漏れだすことで変化するチャンバ内圧から漏れを検出する。試験体に大きな孔があると、チャンバ充填中に試験体内部も満たされ漏れが検出できないため、大きな漏れを検知する回路を有する(詳細は対応規格参照)。
      • 流量測定法:試験体内部を充填し続け、漏れによる喪失を補う充填流量を流量計で検出する。上記の圧力を測定する手法と同様に、減圧による流量測定方法、チャンバ法もある。
    2. 基本となる試験手法に掛け合わせる技法(掛け合わせが出来ない組合せもある)
      • マスタ容器対比法:漏れの無いマスタ容器と同時に測定する。マスタ容器には漏れが無いので、測定結果とし得られた圧力変化は、温度変化・気圧変化等の外乱となる。試験体測定結果からマスタ容器測定結果を差し引き、外乱を補正する技法。
      • 差圧法:マスタ容器対比法の測定を差圧計で行う技法。天秤はかりと同様に微小な圧力変化を検出できるようになる。微小な差圧変化を始めた時点で測定を完了することで検査時間を短縮出来ることから量産の生産ラインで多用される。測定回路をまとめたエアリークテスタがある。
      • 標準リーク対比法:既知の漏れを発生する標準リークを試験体に取り付け、“標準リークから漏らした試験”と“漏らさない試験(通常の試験)”を行う。2つの測定結果の差が標準リークの漏れ量になることから、漏らさない試験の結果を漏れ量に換算する技法。
  • エアリークテスタ
    エアリークテスタは差圧法に必要な加圧/排気・遮断バルブ、試験圧力計、差圧計及びそれらの制御回路が組み込まれている(図3参照)。空圧源、試験体など接続し、検査をスタートさせると、予め設定した時間で検査工程を進め、結果を出力する。
    搭載される差圧計(差圧センサ)は、圧力差でダイアフラムが歪み、ギャップが変化するものを電気信号に変換して検出するが、差圧センサのレンジ1~2 kPaに対し、試験圧力は数十kPaから数百kPaとはるかに高い。そのため、ダイアフラムに大きな片圧が掛かると対面の壁に貼り付きそれ以上歪まなくなる構造になっている(図4参照)。
図3 エアリークテスタの回路例
図4 差圧センサの構造例


次回に続く-



引用・参考文献

  • 1) JIS Z 2300:2012 非破壊試験用語
  • 2) JIS Z 2330:2012 非破壊試験−漏れ試験方法の種類及びその選択
  • 3) JIS Z 2329:2019 非破壊試験−発泡漏れ試験方法
  • 4) JIS Z 2331:2006 ヘリウム漏れ試験方法
  • 5) JIS Z 2332:2012 圧力変化による漏れ試験方法
  • 6) 一般社団法人 日本非破壊検査協会編集 漏れ試験Ⅱ(2012) 一般社団法人 日本非破壊検査協会 発行


【著者紹介】
井元 宏行(いもと ひろゆき)
株式会社 フクダ 標準品技術部

■略歴
1983年に㈱フクダに入社
以来,圧力変化漏れ試験,水素漏れ試験に関連する試験機の設計,開発に携わる。