国際間長距離5Gネットワークにおいて衛星回線を統合する日欧共同実験に成功

【ポイント】
■ 日欧共同実験において、衛星回線を含む国際間5G通信回線で日本と欧州間のデータ伝送に成功
■ 遅延の影響が大きい超長距離の5Gネットワークで衛星回線を活用できることを実証
■ 宇宙と地上をシームレスにつなぐことができるBeyond 5Gの実現に向け前進

日本無線(株)、スカパーJSAT(株)、東京大学大学院工学系研究科(教授:中尾 彰宏)、及び情報通信研究機構は、欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)、Eurescom、Fraunhofer FOKUS Instituteと協力し、2022年1月〜2月に国内で初めて静止衛星回線を含む衛星5G統合制御に関する日欧共同実験を行い、日欧の国際間長距離5Gネットワークにおいて5G制御信号、4K映像及びIoTデータの伝送に成功した。本実験により、衛星回線を含む日欧間の長距離回線で5G通信が成立することが示され、空や海または離島など、従来5Gの展開が困難であった 場所に対して5Gネットワークの早期普及が期待される。
本実験は、NICTが実施する委託研究『Beyond 5Gにおける衛星-地上統合技術の研究開発(採択番号 21901)』の一環として実施された。

▮背景
5G/Beyond 5Gでは、拡張性・広域性という観点から「非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)」が注目されている。NTNとは、衛星、高高度通信プラットフォーム(HAPS:High-Altitude Platform Station)、ドローンなどの多様な通信プラットフォームを介して、海、空、宇宙などの異なる空間を相互につなぐシステム。さらに、NTNと地上系の5G/Beyond 5Gをつなぐことで、ユーザはどこにいても通信することが可能となる。3GPP(3rd Generation Partnership Project)でもNTNと5Gの連携に向けた標準化に関する検討が進められており、従来のユースケースにおける性能向上や、新しいユースケースの実現が期待されている。
このような背景から、NICTとESAは2018年及び2020年に趣意合意書(LoI:Letter of Intent)を締結及び更新し、航空機などのグローバルな移動を含む通信や国際ローミングなど、国際間長距離通信を含む5G/Beyond 5Gの実現に寄与するため、衛星回線と5Gを長距離ネットワークで結ぶことを目的とした日欧共同実験を計画してきた。

▮成果
構築したテストベッドを使用し、4K映像とIoTデータの伝送に成功した。本実験では、衛星回線と日欧間地上回線を含む長距離伝送による遅延等の影響下において、日本に配置したCPE(Customer Premises Equipment)(5G対応ゲートウェイ)と欧州に配置した5Gコア間でやり取りされる5G制御信号で通信セッションが確立できること、日本側の4Kカメラ及びIoTセンサで取得したデータを欧州側のPC及びデータサーバへ伝送できることを明らかにした。また、各伝送区間のネットワーク品質を測定し、衛星回線と5Gを接続したネットワーク性能の評価を行った。本実験の結果により、具体的なアプリケーション伝送の観点からも、国際間長距離通信を介した5Gネットワークにおける衛星回線の統合が実現できることが確認できた。

本実験における各機関の役割分担
JRC:
 - 4K映像とIoTデータ及び5G制御信号に対する最適なモデムの選定
 - VSAT局とGateway局の構築と運用
 - IoTデータ伝送試験の実施
スカパーJSAT:
 - 東経144度の静止衛星Superbird-C2によるKuバンド衛星回線の提供
 - 遅延等ネットワーク性能の評価
 - 4K映像伝送試験の実施
東京大学:
 - ローカル5Gソフトウェア基地局の構築
 - 日欧共同実験のテストベッドの構築
NICT:
 - ESAとの日欧共同実験の枠組みの設定
 - 日欧共同実験のテストベッドの構築(5Gコアソフトウェア及びgNB整備)
 - 本実験に関する技術的サポート

用語解説
Eurescom
欧州側のパートナー機関。本実験における欧州側パートナー機関の取りまとめを担当。

Fraunhofer FOKUS Institute
欧州側のパートナー機関。本実験における5Gコアソフトウェアの提供とネットワークの整備支援を担当。

3GPP(3rd Generation Partnership Project)
携帯電話網の仕様の検討及び作成を行う標準化団体間のプロジェクト。

JGN
NICTが運用するICT研究開発の基盤となる超高速研究開発ネットワークテストベッド。国内外のアクセスポイントを最大100Gbpsの広帯域な回線で接続し、Layer2/Layer3接続、仮想化サービス、光テストベッド等の各種サービスを提供している。

CPE(Customer Premises Equipment)
通信サービスで利用される通信機器のうち、加入者宅・施設に設置されるもの。ブロードバンドルータなど。

5Gコア(5Gコアネットワーク)
5Gにおいて接続処理やルーティング処理を担う部分。

プレスリリース(NICT):https://www.nict.go.jp/press/2022/06/08-1.html#container