横河電機とドコモ、5G・クラウド・AIを活用したリモート制御に成功

 横河電機(株)と(株)NTTドコモは、横河電機と奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)が共同開発した自律制御AI(アルゴリズムFactorial Kernel Dynamic Policy Programming 以下、FKDPP※1)をクラウド上に置き、これを使用してドコモの第5世代移動通信システム(以下、5G)を介してプラントを模したシステムのリモート制御を行う共同実証実験を行い、遠隔操作における5Gの実用に向けた有効性を確認することに成功した。

 近年、広域に分散する設備や遠隔地、あるいは危険場所への対応など、リモート操業の需要は以前より高まり、人々の働き方も大きく変化している。日常生活に欠かせない資源、素材、産業材料などの精製・精錬を行うプロセス産業のプラントは、長年稼働することで、各装置が経年変化を起こす。これらが自律的な調整能力や制御能力をもつことは極めて大きなメリットが期待できる。
 たとえば、既存設備に高速無線通信に対応したエッジ端末を設置し、クラウド上の自律制御AIが装置の状況や変化を把握しながら制御を行うことは、自律的かつ、場所の制約にとらわれないリモート操業を実現する一つの方法である。
 2022年2月に実際の化学プラントで既存の制御技術(PID制御※2、APC※3)が適用できず手動制御せざるをえない箇所を世界で初めて35日間連続で制御することに成功※4したFKDPPと、低遅延、同時多数接続が可能などの特長を持つ5Gおよびクラウドは、産業における自律化を進めるうえで中核技術となるものである。

 本実証実験では、横河電機とドコモが2021年4月14日に報道発表した共同実証実験の合意に基づき、クラウドにFKDPPを搭載し、制御を検証するための装置である「三段水槽※5」を、5Gを介して制御できるかを検証した。目標水位を決めて、低速から高速の制御周期(どのくらいの頻度で制御を実行するか)での実験を行い、通信遅延がFKDPPによる制御に与える影響を調査した。
 結論として、特に高速の制御において5Gは4Gと比較して(1)通信遅延が小さいこと、(2)目標水位に対しオーバーシュートが小さいこと、(3)0.2秒程度までの制御周期に対応しうることが確認できた。これは、5Gがより良い制御を実現し、品質の安定や省エネルギーに寄与することを示している。

 横河電機とドコモは、産業において5G活用を促進する5G-ACIA(5G Alliance for Connected Industries and Automation)に加盟しており、プラントにおける5Gの有効利用について今後も検討し、活用を促進していく。また、さまざまな利用者のプラントにおいての実証も視野に、長期間稼働させた際の通信の信頼性や遅延の変化などを確認していくことで、5Gを活用したAI自律制御の実現に取り組んでいくとのこと。

※1 Factorial Kernel Dynamic Policy Programming(FKDPP):強化学習技術を使ったAIアルゴリズム。「品質と省エネの両立」のように相互干渉する目標など、既存の制御手法(PID制御・APC)では自動化できなかったものを含め制御全般に適用できる利点がある。
※2 PID制御:Proportional-Integral-Derivative Controlを日本語にしたもので、Pは比例、Iは積分、Dは微分を意味する。1922年にNicolas Minorskyが発表したプロセス産業の基盤制御技術。量、温度、レベル、圧力、成分などの制御に使われる。
※3 APC:高度制御(Advanced Process Control)のこと。プロセスの応答を予測できる数学的なモデルを用いて、生産性や品質をより向上させるための設定値をリアルタイムにPID制御ループに与えるもので、制御性を向上させるだけでなく、増産や省力化、省エネルギーを目的とした制御にも適用しやすい特徴がある。
※4 横河電機/JSR世界初 AIによる自律制御で化学プラントを35日間連続制御
https://www.yokogawa.co.jp/news/press-releases/2022/2022-03-22-ja/
※5 三段水槽:段状に水槽が設置され、水が上段の水槽から下段の水槽に順に流れていく中で下段の水槽の水位制御を行うことを目的とした、制御トレーニング実験装置の一種。

プレスリリースサイト(yokogawa): https://www.yokogawa.co.jp/news/press-releases/2022/2022-05-30-ja/