熱電エネルギーハーベスティングデバイスの状況(2)

(株)KELK
熱電発電事業部 部長
村瀬 隆浩

6.熱電対センサデバイスとアナログ入力デバイス

 KELGEN SDには、KSGD-SVの他、熱処理炉や焼結炉などの温度を熱電対で測定する熱電EH熱電対センサデバイスKSGD-STと、既存の流量計や圧力計などの外部出力端子を備えた計測器から出力される電流値や電圧値を送信する熱電EHアナログ入力デバイスKSGD-SAがある。
K熱電対仕様のKSGD-STKは温度測定範囲が0℃~1,350℃、分解能0.1℃、測定精度±3℃の性能を持つ。KSGD-SAは、4-20mAの電流値で出力する測定機器に対応するKSGD-SACと、1-5Vの電圧値で出力する測定機器に対応するKSGD-SAVがある。

7.熱電EHデバイスのデータ収集とデータ活用の支援

熱電エネルギーハーベスティングによる微小な電力で動作するKELGEN SD製品は、発電量が周囲の環境により変動するため測定したデータの送信間隔は一定でなく、受信の待ち受け機能が無い。KELKは、非定期で一方向に送信されるKELGEN SDのデータをつなぐ通信網KELGEN SD-Netと、KELGEN SDのデータを収集・保存し測定値の状態を見える化するソフトウエアKELGEN SDMおよび、KELGEN SDで測定したビッグデータを汎用PCによる高速演算で設備の状況を見える化するデータ利活用ソフトSDM-Plusを開発した。(図7) これらにより熱電エネルギーハーベスティングにより動作するセンサデバイスで測定したビッグデータを設備の故障予兆検知へ簡易に低コストで利活用することができるようになった。

図7  KELGEN SDシステムの概要
図7  KELGEN SDシステムの概要

1)通信網KELGEN SD-Net
 KELGEN SD-Netには2種類ある。小規模ネットワークは最小発信間隔3秒のデバイスを一つの通信網に20台程度接続できる。発信間隔が長く通常1分以上となる振動センサでは、一つの通信網に50台以上を接続することができる。標準ネットワークは最小発信間隔3秒のデバイスを200台程度接続できる。KELGEN SDのデータは、KELGEN SD-Netを経由してデータの収集と保存を行うソフトウエアKELGEN SDMにより汎用PCへ保存することができる。
また、直接PLC※(3) やゲートウエイを経由することで社内のデータベースやクラウドへ保存することができる拡張性を備える。
2)データ収集・保存ソフトKELGEN SDM
 KELGEN SDMは、KELGEN SDの測定データを汎用PCで収集し、デバイスごとに一日単位でcsvファイル形式で保存する。また、ブラウザ上にて測定データを確認できる機能を備える。(図8) この見える化機能は、設備の状態の確認のためのモニタリングを支援する。

図8  KELGEN SDMのメインおよびサブパネルと時系列データのグラフ
図8  KELGEN SDMのメインおよびサブパネルと時系列データのグラフ

3)データ利活用ソフト SDM-Plus
SDM-Plusは、長期に亘り測定したビッグデータをグラフ化することにより、日常点検の自動化と設備の故障予兆検知を支援する機能を備える。SDM-Plusでは、汎用PC により統計量演算としきい値判定およびMT法※(4) 解析の結果を設備やコンポごとに集計した稼働レポート(図9 図10)を出力する。
SDM-Plusの処理時間は、第11世代のIntel Core i7※(5) を搭載する汎用PCを使用する場合、1分間に400万件のデータ(おおよそ、10秒間隔で発信するKELGEN SD 200台の2日分のデータ件数)の統計量を演算することができる。

図9 稼働レポートの設備異常発生状態と稼働状況一覧の例
図9 稼働レポートの設備異常発生状態と稼働状況一覧の例
図10 稼働レポートの測定項目別の統計量と異常判定一覧の例
図10 稼働レポートの測定項目別の統計量と異常判定一覧の例

8.おわりに

KELKは熱電エネルギーハーベスティングの技術開発を進め、受熱面と雰囲気との温度差10℃から動作する実用レベルの熱電EHデバイスKELGEN SDを開発した。さらに、KELGEN SDの普及のため、データの活用を見据え、ビッグデータを汎用PCで高速演算するデータ活用支援ソフトを開発した。熱電EHデバイスとオンプレミスで動作するデータ活用支援ソフトが、エネルギーハーベスタで動作するセンサデバイス活用の実証評価を促進し、持続的な生産性の向上に貢献することで、エネルギーハーベスタが社会実装されることを期待する。
熱電エネルギーハーベスティングは、今後も続く発電性能の向上、半導体の低消費電力化、蓄電器の自己放電の改善などの技術の進歩により、より複雑な制御が可能となると期待される。電池レスで設備の状態を長期に亘りモニタリングする振動センサデバイスをはじめとし、より幅広い分野で活用されることを期待する。



参考文献

  1.  PLC:Programmable Logic Controller。に製造業の装置などの制御に使用されるコントローラ
  2.  MT法:Mahalanobis Taguchi method。MD値(対象の多変量データの相関関係を考慮して多変量標準化した尺度)により異常度を判定する多変量解析の一手法
  3.  Intel:インテル、Intel、インテル Coreはアメリカ合衆国およびその他の国におけるインテルコーポレーションまたはその子会社の商標または登録商標です。


【著者紹介】
村瀬 隆浩(むらせ たかひろ)
株式会社KELK 熱電発電事業部 部長

■略歴
1989年 コマツ 入社
2002年 株式会社KELK入社、現在に至る