熱電エネルギーハーベスティングデバイスの状況(1)

(株)KELK
熱電発電事業部 部長
村瀬 隆浩

はじめに

2010年代前半に米国の起業家が、年間1兆個のセンサを活用した膨大なセンサネットワークを張り巡らせることで、地球規模での社会問題の解決に活用しようといった“Trillion Sensors Universe”構想を提唱したが、様々な課題によりセンサの設置台数は大きく増加しておらず、実現に至っていない。2021年10月に調査会社ガートナー社が発表した「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル」によると、IoT(モノのインターネット)は過度な期待に応えらなく関心が失われつつある”幻滅期“の中にあり、市場へ浸透する啓蒙活動期には至っていない状況と分析している。
株式会社KELKは、IoTの課題の1つである膨大な数のセンサへの電源供給問題への解として、2017年に熱電素子でのエネルギーハーベスティング(EH)により動作するIoTデバイス(熱電EHデバイス KELGEN SDケルジェン エスディー)を開発した。2020年には熱電EHにより電池レスで継続的にモータなどの回転機器の振動の状態を自動で測定する世界初の『熱電EH振動センサデバイスKSGD-SV』を発売した。
本講では、熱電エネルギーハーベスティングによるIoTデバイス(熱電EHデバイス)の特長、および熱電EHデバイスの利活用事例として、工場内のインフラ設備の状態を継続的に監視する故障予兆検知用モニタリングシステムを紹介する。

2.株式会社KELK

 株式会社KELKは、コマツが始めた熱電半導体の研究開発を前身として1966年に設立した熱電素子の研究開発から応用製品の製造販売までを行う熱電素子のリーディングカンパニーである。高性能と高品質を要求される半導体製造装置の前工程で使用される温度制御装置、および通信のインフラを支える光通信向け半導体レーザの精密温調用の高性能熱電素子において世界トップメーカーである。熱電発電においては、世界最高効率7.2%(受熱側温度280℃、放熱側温度30℃の温度帯)の熱電発電モジュールと応用機器を製品化している。

3.熱電発電のしくみ

 熱電発電は、熱電半導体と呼ばれる材料を介して熱を電気に直接変換するゼーベック効果(図1)を応用した技術である。ゼーベック効果は、金属もしくは半導体の両端に温度差が生じると、両端の電子もしくは正孔濃度分布に差異が発生し、起電力(熱起電力)が生じる現象である。
P型、N型の熱電半導体素子(熱電素子)を金属電極により交互に多数直列接続することにより、同じ熱流方向に対して、それぞれの熱電素子の熱起電力が累積され、より大きな電圧を得ることができる。

図1 ゼーベック効果の原理図
図1 ゼーベック効果の原理図

 熱電素子による熱電変換の効率(η)を高めるには、熱電素子の性能指数Zまたは熱電素子の両端間の温度差ΔTjを大きくする(式1および図2)。

式1 熱電変換効率(η)
式1 熱電変換効率(η)
図2 EHデバイスの温度勾配
図2 EHデバイスの温度勾配

4.KELGEN SDの発電部の性能

 熱電素子は、他の金属材料に比べ機械的な強度が弱い。また、水分に触れるとマイグレーションや短絡により破損に至る。一方、熱電素子を保護するために樹脂などで覆うと熱電素子の両端の温度差が小さくなり発電効率は著しく低下する。
 KELGEN SDの発電部(図3)は熱電素子への機械的衝撃や熱変形の影響を低減し、熱電素子の両端の温度差を保つ構造を備える。また、発電部の筐体は、熱電変換効率を高めるため、設置面で受熱した熱をKELGENの受熱面へ効率よく伝え、放熱面から安定して外気に熱伝達する構造とし、筐体による熱電素子両端の温度差の低下を低減した。これらにより、発電部は熱電素子両端の温度差を保ち、耐衝撃性・耐振動性はJIS C 60721-3-3,-4に適合する構造を実現した。また、発電部は屋外でも使用可能な保護等級IP67規格へ対応する防塵・防水性能を備える。発電部の動作温度範囲は受熱面側温度で-5~80℃である。
 KELGEN SDは、高性能熱電素子KELGEN(ケルジェン)による起電力を昇圧して蓄電した微小な電力を電源とし、温度や振動を測定してデータを無線で送信する電池レスのIoTデバイスである。

図3 KELGEN SD 発電部の外観図
図3 KELGEN SD 発電部の外観図

 KELGEN SDの発電部は、受熱面温度と雰囲気との温度差10℃から(発電部の上下の表面温度差で7℃程度から)自己発電により動作する。
発電部の性能を評価するため、屋外の負荷が一定な排気モータにKELGEN SDの発電部を設置し、昼夜・天候の変化に対する発電部の温度差の変化を観察した。(図4) 晴天の6月19日において、昼と夜でモータの表面温度は15℃変化したが、発電部の設置側と放熱側との温度差は一定である。雨天の6月20日において、7時から12時にかけて発電部は全体として降雨により一時的に10℃近く冷却されたが、モータからの一定な排熱を受熱する設置側の温度と放熱側との温度差はほぼ一定している。また、8月と12月とでの気温の変化に対する発電部の設置側と放熱側との温度差を評価し結果、気温の差は30℃以上となったが、発電部の温度差は一定であることを確認した。KELGEN SDの発電部は、昼夜・天候・季節の変化に対し、安定した温度差を保つことができ、安定した電力を発電する。

図4 屋外の排気モータに設置した発電部の受熱面と放熱面との温度差
図4 屋外の排気モータに設置した発電部の受熱面と放熱面との温度差

5.熱電EH振動センサデバイス

 熱電エネルギーハーベスティングにより動作するKELGEN SDの代表製品として、設備故障の原因で最も割合の大きな回転機器の振動を測定する熱電EH振動センサデバイスKSGD-SV(図5)を紹介する。

図5 熱電EH振動センサデバイスKSGD-SV
図5 熱電EH振動センサデバイスKSGD-SV

 設備の故障予兆検知向けに振動の状態を把握するには、周波数レンジ5kHz以上、かつサンプリング点数1,000点以上での測定が必要である。一般的にセンサデバイスの測定値は有線または無線により外部機器へ送信され、外部機器内で振動状態を評価する指標である振動加速度ピーク値、速度RMS値などを演算する。KSGD-SVでは振動センサデバイスの消費電力を大幅に削減するため、測定した振動値を内蔵するマイコンにより演算し、演算した各指標の結果のみを無線で送信する。これにより、熱電エネルギーハーベスティングで発電した微小な電力のみで動作する世界初の振動センサデバイスを実現した。

 KSGD-SVの発電部は、昼夜・天候・季節により変動する周囲からの受熱量(モータ等からの排熱を除く)により全体としての温度が変化する。一方、モータは、省エネルギー化が進んでいるものの、その効率により入力する電気エネルギーに対し、5%~15%が熱エネルギーとして捨てられる(図6)。

図6 モータ効率値比較(IP4X 50Hz4極200V)※(1)
図6 モータ効率値比較(IP4X 50Hz4極200V)※(1)

 モータの表面温度はその効率からの排熱により周囲環境に比べ高くなる。モータの表面に設置されたKSGD-SVの発電部は、モータが動作するとその設置側の温度と雰囲気とに温度差が生じ、温度差10℃から自己発電し動作する。

1)KSGD-SVの基本構成
 KSGD-SVは、サンプリング周波数26kHz、サンプリング点数約7,000点で測定する振動センサと温度センサを搭載したセンサ部と、温度差10℃(無風状態)からの自己発電で動作する発電部とで構成される。発電部の上下面には温度モニタ用のセンサを備える。

2)測定項目
 KSGD-SVには、測定項目が異なる3種類の製品がある(表1)。各製品は、周波数レンジは7.5kHz(±3db)、7,000点以上のサンプリング値につき演算を1回実行する。最上位機種のKSGD-SV4は有線式や携帯式の振動診断計に備わるエンベロープ FFT※(2) 解析機能を備える世界初の熱電EH振動センサデバイスである。エンベロープFFT解析機能は、回転機器の異常時に発生する規則的な衝撃波の周期を解析し、故障箇所の特定を支援する。
KSGD-SV6は測定項目を絞り、短時間での充電により計測を実行する。

表1 KSGD-SVの測定仕様の比較
表1 KSGD-SVの測定仕様の比較

 1回の測定に要する蓄電時間は、発電部が動作を始める温度差10℃の環境においてKSGD-SV4は45分、KSGD-SV6は8分である。携帯式の振動診断計レベルに性能が向上した電池レスで動作するKSGD-SVは、保全員による巡回点検の廃止を支援する。



次回に続く-



参考文献

  1.  一般社団法人日本電機工業会 トップランナーモータ モータ効率値比較(2015.11)にもとづき作成
  2.  FFT:Fast Fourier Transform、高速フーリエ変換。測定した振動を解析して周波数成分に変換するアルゴリズム。


【著者紹介】
村瀬 隆浩(むらせ たかひろ)
株式会社KELK 熱電発電事業部 部長

■略歴
1989年 コマツ 入社
2002年 株式会社KELK入社、現在に至る