Sensor, Sensing発展の流れを視る ~研究論文数の年次推移から~

大阪大学 名誉教授
奥山 雅則

 センサ・センシングは現代の高度情報化社会を支える重要な科学技術です。工場、輸送、農林水産業、オフィス、病院、学校、家庭の至るところでセンサを用いたセンシングにより種々の状態・状況を推し量る定量的情報が捉えられ、役に立てられています。本稿では、これらのセンサ・センシングの研究についての発展の流れ、現状や動向について発表論文数の推移から概観してみます。

 センサの開発はここ約60年の間に高感度化、高速化、小型化、高機能化、知能化に向けて大きく進みました。これらの発展には新物質や新現象の発見、MEMS(微小電気機械システム)、信号処理用半導体素子との一体化等の先端技術が取り入れられ発展してきました。検知対象も従来の物理量、化学量から生体・バイオ状態認識へと大きく広がっています。これらの研究開発進展を発表論文数から調べてみました。よく知られた文献検索アプリのscopusにおいて、論文タイトル、抄録、キーワードにsensorとdeviceが入る年間発表論文数を1960年から2021年まで約60年間の年次推移を図1に示します。縦軸は論文数の常用対数およびsensorとdeviceの論文数の比を10倍したものです。Device論文数は60年間で約2桁単調に増え半導体エレクトロニクスの発展に対応していますが、sensor論文数は約3桁増えdevice論文より1桁増加量が多く、sensorの新規開発に多くの関心が高まっていると受け取れます。

図1.センサ、デバイスの論文数とその比の年次推移
図1.センサ、デバイスの論文数とその比の年次推移
図2.検知対象別センサ論文数の年次推移。挿入図:各センサの全体に対する比率。
図2.検知対象別センサ論文数の年次推移。
挿入図:各センサの全体に対する比率。

 検知対象別のセンサの論文数の年次推移を図2に示します。対象としたセンサはoptical(光)、chemical(化学)、position(位置)、pressure(圧力)、force(力)、magnetic(磁気)、sonic(音波)、temperature (温度) sensorです。なお、1年ごとのばらつきが大きいので前年と翌年の半分との平均を取り平滑化しています。挿入図は各センサの論文数を全体の論文数で割った比率です。各センサの論文数は1970, 1980年代から急速に増加しています。最初に圧力センサがMEMS技術によるSiのメンブレン構造により進展しました。次いで光センサ非接触、高速で赤外光から可視光、紫外光の広いスペクトル領域を捉え、イメージングも大変有用な所から急速に増え最も大きな分野となっています。化学センサは1990年頃から新しい検知材料と高性能化、知能化により増えています。

図3.sensor, sensingの信号処理、ソフトウェア論文数の年次推移。挿入図:各センサの全体に対する比率。
図3.sensor, sensingの信号処理、ソフトウェア論文数の年次推移。挿入図:各センサの全体に対する比率。

 次に、センサの信号をコンピュータやプロセッサに取り込み、我々が必要とする分かりやすい情報に変えるソフトウェアについての調査です。 図3は、sensor, sensingのintelligent, smart(インテリジェント,スマート)、deep learning・machine learning (深層・機械学習)、IoT、AI(人工知能)、neural network(ニューラルネットワーク)、big data(ビッグデータ)の年平滑化論文数の年次推移を示します。挿入図は各信号処理の全体に対する比率を表しています。1980年中頃からSiのMEMS構造を用いたセンサの信号処理するICが同じ基板上に組み込まれたインテリジェント・スマートセンサが作製され現在まで大きく発展しています。ニューラルネットワークは当初複数のガスセンサの信号からガス種を推定する方法として行われ、最近広い対象で再び脚光を浴びています。AIは数回流行りが繰り返され、現在再び注目される展開となっています。

図4.sensor, sensingの主な国の論文数の年次推移。挿入図:国別の全体に対する比率。
図4.sensor, sensingの主な国の論文数の年次推移。
挿入図:国別の全体に対する比率。

 Top10の国別sensor, sensingの論文数の年次推移を図4に示します。挿入図は10か国総数に対する各国の比率を示します。米国は圧倒的に多くの論文を出していましたが、中国は2000年頃から急速に増加し、2011年には米国を追い抜き現在では全体の30%を越え最も多くの論文を出すに至っており、その躍進ぶりは全科学分野 1)よりもかなり大きくなっています。日本は1990~2010年頃の貢献度は大きいですが、2000年以降漸減しており優位性が小さくなり、今後の奮起を期待したいところです。

 以上のような状況の中でセンサ・センシングを発展させていくには、図5に示すような要素技術の発展が必要と考えられます。センサ開発に必要な新現象・効果探索、材料、素子製造、駆動のための分散電源、信号処理・情報分析のためのデータ通信、高速度信号処理、データ解析です。こういった基礎的な科学技術の新規開発を通じて日本のセンシング技術の向上を期待してやみません。

図5.センシング開発のための要素技術。
図5.センシング開発のための要素技術。

1) 文部科学省科学技術・学術政策研究所科学技術指標2021
https://www.nistep.go.jp/sti_indicator/2021/RM311_table.html



【著者紹介】
奥山 雅則(おくやま まさのり)
大阪大学 名誉教授
大阪大学ナノサイエンスデザイン教育研究センター 招聘教授

■著者略歴
1968年 大阪大学基礎工学部電気工学科卒業
1973年 大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了、工学博士
1991年 大阪大学基礎工学部電気工学科 教授
2005年 大阪大学大学院基礎工学研究科 副研究科長
2009年 大阪大学退職、大阪大学名誉教授
大阪大学ナノサイエンスデザイン教育研究センター 特任教授
2019年 同 招聘教授

■主な受賞
1993年 Pioneer Contribution to Integrated Ferroelectrics賞受賞
2003年 大阪府商工業功労者周年記念表彰
2009年 応用物理学会フェロー表彰
2010年 電気学会業績賞
2019年 強誘電体応用会議功績賞