日本農林規格(JAS)「プロバイオポニックス技術による養液栽培の農産物」新設


有機質肥料活用型養液栽培研究会と旭化成(株)は、農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」)が開発した有機質肥料活用型養液栽培(以下「プロバイオポニックス栽培」)技術の社会実装を目指してJAS(※1)新設の申出を行った。これを受けて本年2月24日、農林水産省より「プロバイオポニックス技術による養液栽培の農産物」JASが公示され、特色あるJASを表す「特色JASマーク(※2)」も制定された。

プロバイオポニックス栽培は、農産物の生産に必要な窒素源をバイオマス(生物に由来る有機物である資源 ※化石燃料を除く)から得る養液栽培方法であり、未利用資源の活用による環境負荷低減が期待されている。
今回の特色JASマーク制定により、消費者におけるプロバイオポニックス栽培の認知度向上およびエシカル消費行動の促進が期待される。また、旭化成はプロバイオポニックス栽培の社会実装を目指しており、誰でも取り組みやすい栽培方法となるようなシステムの開発にも成功した。農産物の高付加価値化を通じて、プロバイオポニックス栽培に取り組む生産者を支援していくという。

●プロバイオポニックス栽培
植物の生長には、窒素が必要である。土壌では、糞などのバイオマスは従属栄養微生物による「アンモニア化成」と硝酸菌による「硝酸化成」の2段階の分解を経て硝酸態窒素まで分解され、植物が吸収できるようになる。一方で、水中では、バイオマス中の有機物に触れると硝酸菌が不活性化されるため、1段階目のアンモニア化成で分解が止まる。この状態では、根が傷害を受け、植物の生育が悪化、あるいは枯死してしまう。したがって、水耕栽培などの土壌を使わない栽培方法(以下「養液栽培」)では、バイオマスを用いた栽培が難しいとされてきた。

この問題に対して農研機構は、従属栄養微生物とともに、硝化菌が耐えられる濃度のバイオマスを与える“馴化(じゅんか)培養”という手法を試みたところ、水中でもアンモニア化成および硝酸化成が同時並行的に進むことを確認した。これを養液栽培に応用し、「有機質肥料活用型養液栽培」と命名した(※3)。そして、研究会と旭化成とでJAS新設の申出を行うにあたり、本栽培方法を「プロバイオポニックス栽培」と改名することにした。プロバイオポニックスは、「プロバイオティクス(人体に良い影響を与える菌、又は、それらを含む食品)」と「ハイドロポニックス(水耕栽培、養液栽培)」を掛け合わせた造語である。

●プロバイオポニックス技術による養液栽培の農産物JAS
プロバイオポニックス技術による養液栽培の農産物JASは、2022年2月24日に制定された
(規格:https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/kikaku_itiran2-408.pdf)。
本規格によって生産される農産物は、培養液中の無機養分について次の要求事項を満たすよう管理され、認証機関(例:一般財団法人日本食品分析センター)の認証を受けることによって特色JASマークを付して市場に流通させることが可能になる。
A) 窒素成分:バイオマス由来であること。
B) リン,カリウム,カルシウム及びマグネシウム成分:バイオマス,鉱物資源(りん鉱石,加里鉱石等)又は海水由来であること。

●旭化成の目指すビジョン
養液栽培は、単位面積当たりの収穫量が高く、気象災害の影響を受けにくい、計画生産がしやすいといった特長がある。これに加え、プロバイオポニックス栽培は、窒素源をバイオマスに限定することによって、環境負荷の低減を推進することができる。
しかし、プロバイオポニックス栽培は、養液に適時適量のバイオマスを投入する必要があり、手間が掛かる栽培方法であることが普及を妨げる要因の1つとなっていた。そこで、農研機構と旭化成は、プロバイオポニックス栽培の社会実装を目指し、2019年1月から共同研究に取り組んできた。本共同研究により、バイオマスの分解状態をセンサで測ることで、適時適量のバイオマス投入量を解析し、自動でバイオマスを養液に投入するシステムの開発に成功した。
旭化成は、プロバイオポニックス栽培を誰でも取り組みやすい栽培方法として社会実装することを目指す。そして、特色JASによる認知度向上を図り、バイオマス由来の養液の使用を促進し、環境負荷低減に貢献するとしている。

●用語解説
※1 JAS(Japanese Agricultural Standards、日本農林規格):
日本農林規格等に関する法律(JAS法)に基づくJAS制度は、食品・農林水産品やこれらの取扱い等の方法などについての規格(JAS)を国が制定するとともに、JASを満たすことを証するマーク(JASマーク)を、当該食品・農林水産品や事業者の広告などに表示できる制度。
JASマークを商品の購入の際の判断材料にしたり、JASを取引におけるアピールの手段にしたりなど、様々な場面でJAS・JASマークが活用されている。
参照:農林水産省HP https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/index.html
※2 特色JASマーク:
平成30年12月28日に、特色のあるJASに係るJASマークとして、これまであった3種類のマークを統合し、新たなJASマーク(特色JASマーク)が制定された。
特色JASマークにより、日本産品・サービスのさらなる差別化・ブランド化に向け、消費者に高付加価値性やこだわり、優れた品質や技術などを分かりやすくアピールすることが期待されている。
参照:農林水産省HP https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/new_jaslogo.html
※3 有機質肥料活用型養液栽培:
平成17年、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所(現、農研機構)が開発した栽培方法。
1. 野菜茶業研究所ニュース54号 [online], 平成27年3月発行, 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所, Available from:
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/archive/files/vegeteanews54_20150309_s.pdf
2. 有機質肥料活用型養液栽培マニュアル(第1版)[online], 平成26年6月第1版発行, 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所, Available from:
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/vt_youekisaibai_manual_20140616.pdf
3. 有機質肥料活用型養液栽培マニュアル 初心者マニュアル編[YouTube],:
https://www.youtube.com/watch?v=5ebzMoWHOrY

ニュースリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000033.000079452.html