フラウンホーファー研究機構・日本代表部の活動及びセンシング関連研究の紹介(2)

林田一浩
フラウンホーファー日本代表部
アシスタントマネージャー

4.Research Fab Microelectronics Germany (FMD)

フラウンホーファーにおいて近年特筆すべきナノ・マイクロエレクトロニクス分野の研究活動として、Research Fab Microelectronics Germany (ドイツ語でForschungsfabrik Mikroelektronik Deutschland、略称FMD)がある 1) 。FMDは、フラウンホーファー・マイクロエレクトロニクスグループ所属の11研究所(EMFT、ENAS、FHR、HHI、IAF、IIS、IISB、IMS、IPMS、ISIT、IZM)とライプニッツ研究所(FBH、IHP)の計13パートナーが参加する、ナノ・マイクロエレクトロニクス分野における欧州最大の組織横断型の研究協力枠組みである。ドイツ連邦教育研究省(BMBF)からも、公的プロジェクトとして2017年~20年までに約3億5000万ユーロ(約453億円)の助成を受けている 2) 。FMDは約2000人の研究者とフラウンホーファー・ライプニッツ各研究所の多様な能力や研究インフラを擁する。ワンストップショップとして、お客様が新しいアプリケーションと高度な技術に簡単にアクセスできるよう、設計、材料からプロセス、デバイス&部品、パッケージング、信頼性等の分析試験に至るまでのバリューチェーン全体にわたる研究開発サービスを各研究所の橋渡しにより提供している。各研究所間の連携も盛んで、複数研究所が各分野・工程間で分担・協力することも多い。以下では、FMDのセンサシステム、MEMSアクチュエータ関連の主要な研究活動を紹介する。

4.1.センサシステム
FMDでは、センサ製造と複雑なシステムへのセンサ統合に関するさまざまな知見を提供している。

  • センサシステムの設計、信頼性のための設計、過酷環境下でのセンサシステムの試験
  • 完全に統合されたセンサソリューション(CMOS上のMEMS)およびハイブリッド統合センサシステム
  • センサ・センサシステムの特性評価(光学的、音響的、電気的)や試験―非破壊的方法、複数の圧力シナリオでの信頼性評価

4.1.1.セラノスティックインプラント
セラノスティックス(Theranostics)とは、スマートテクノロジーを用いて単一の測定・機能デバイスに診断機能と治療機能を一体化させた、患者の精密医療と個別治療を容易にする新しい医療技術である 3) 。フラウンホーファーでこの分野に注力しているのがENAS(エレクトロ・ナノシステム研究所)である 。デバイスのベースになっているハイエンドセンサ技術は、高度に小型化されたワイヤレスで埋め込み可能なマルチセンサシステムの開発のためのフラウンホーファー内部のプロジェクトである「Fraunhofer Lighthouse Project」において実証された。システム全体は、圧力センサ、データ・エネルギー管理用のASIC、加速度センサ、誘導エネルギー供給・データ送信用のコイルを含むLTCCインターポーザーで構成されている。圧力センサの動作範囲は800hPa〜1400hPaで、分解能は0.2hPaである。加速度センサはシステムに統合され、動きや衝撃などの外部条件を検出する。2次元慣性センサには、±1 g(低周波)と±5 g(高周波)の2つの測定領域があり、1次元あたり約100 fF / gの感度を有する。

図5 長さ約15mm、直径約3mmの圧力センサおよび加速度センサを含むセラノスティックインプラントシステム
(© Fraunhofer ENAS)

4.1.2.高圧パワーグリッドモニタリング

図6 高圧パワーグリッドモニタリングシステム
(© Fraunhofer IZM)

「ASTROSE®」は、フラウンホーファーIZM(信頼性・マイクロインテグレーション研究所)が開発した、高圧パワーグリッド用に実証されたモニタリングシステムである 4) 。信頼性の高いデータストリームの提供により、電線の電流容量を最適化するほか、障害と損傷を即座に特定し、保守作業をより効率的に管理できる。ASTROSE®は、送電網を直接送電網上でモニタリングする。自律型ワイヤレスセンサノードは回線自体に設置され、ローカルでさまざまな情報をキャプチャする。完全自律型センサノードは、最大500 mの距離で設置され、通常はパイロンの背後にある。 監視データは、センサチェーンを介して、グリッドコントロールセンターと接続するフィードポイントにワイヤレスで送信される。電線の傾きは物理的測定値として、また電線の現在の温度やカテナリー・表面のクリアランス等の追加プロパティ計算のための参照値として用いられる。

4.1.3.Universal Sensor Platform (USeP)
フラウンホーファーENAS、IIS / EAS、IPMS、IZM-ASSIDは、GLOBALFOUNDRIES Dresden Module One LLC&Co. KGと協力し、Universal Sensor Platform (USeP)の共同開発を行った 5) 。22nmのCMOS回路は、GLOBALFOUNDRIES社から提供され、フラウンホーファー研究所のさまざまなセンサとアクチュエータがパッケージに統合されている。本プロジェクトでは、革新的なパッケージング、システム設計、センサ開発、データ転送、シミュレーション、試験が進行中である。本プラットフォームは、新しいハードウェアおよびITセキュリティソリューションのアプリケーションを想定したものである。

図7 USeP向けチップパッケージ例(© Fraunhofer IIS/EAS)

4.2.MEMSアクチュエータ
MEMSアクチュエータ分野のテクノロジープラットフォームでは、以下のように設計、材料とプロセス、システム統合、材料の特性評価、デバイス試験、信頼性評価に重点を置いている。

  • 設計(アナログ・混合信号の設計、信頼性、機能安全、過酷環境向け設計)
  • エピタキシー、高度なSiエッチング、圧電材料等、バルク・表面マイクロマシニング向け材料・プロセス開発
  • 光学スキャナ、空間光相変調器(SLM)、音響アクチュエータ等のデバイス開発
  • 高度なパッケージングとシリコンマイクロパターニングおよびMEMS / NEMSパッケージング 例:ハーメチックガラスパッケージ、ウェーハレベルキャッピングを成熟したデバイス技術として提供
  • 材料・デバイスの試験と特性評価(過酷環境下の試験も可能)
     例:幅広い材料の非破壊分析、デバイス劣化評価、ヘテロ統合システム特性評価
  • 複数の圧力シナリオ下での信頼性試験

4.2.1.MEMS / CMOS統合
フラウンホーファーIMS(マイクロエレクトロニックサーキットシステム研究所)とIPMS(フォトニック・マイクロシステム研究所)は、密接な協力関係のもとにMEMSアクチュエータをCMOSバックプレーンに統合するプロセスを開発している 6) 。IMSはバックプレーンを設計し、IPMSに200mmウェハを提供する。IPMSでは、MEMSおよびMOEMSアクチュエータのCMOS基板への統合を行う。この協力関係により、空間光相変調器(SLM)とマイクロミラーアレイの製造がすでに行われている。

図8 個々の独立したマイクロミラーから構成されているチルトミラーアレイ
(© Fraunhofer IPMS)

5.おわりに

本稿では、フラウンホーファー研究機構の概要、日本での活動、委託研究等でのご協力可能性に加え、Research Fab Microelectronics Germany (FMD)の概要やセンサシステム、MEMSアクチュエータ関連の研究内容を紹介した。日本代表部では、日本企業等の研究パートナーとウィンウィン(Win-Win)の関係を築けるような委託研究プロジェクトをさらに増やしていくことが重要であると考えている。本稿が読者の皆様のオープンイノベーションの取り組みのヒントとなり、フラウンホーファーとの協業へのご関心を高める一助となれば幸いである。


参考文献

1) Fraunhofer Group for Microelectronics in cooperation with the Leibniz institutes IHP and FBH, About FMD, https://www.forschungsfabrik-mikroelektronik.de/en/About-FMD.html

2) BMBF, Forschungsfabrik Mikroelektronik Deutschland (FMD), https://www.elektronikforschung.de/projekte/forschungsfabrik-mikroelektronik-deutschland-fmd

3) Fraunhofer Institute for Electronic Nano Systems, Implants, https://www.enas.fraunhofer.de/en/business_units/smart_health/Implants/Theranostic_Implants.html

4) Fraunhofer Group for Microelectronics in cooperation with the Leibniz institutes IHP and FBH, High-Voltage Power Grid Monitoring, https://www.forschungsfabrik-mikroelektronik.de/en/Range_Of_Services/Technologies/Sensor_Systems/High-Voltage_Power_Grid_Monitoring.html

5) Fraunhofer Institute for Integrated Circuits IIS, Division Engineering of Adaptive Systems EAS, Project USeP, https://www.eas.iis.fraunhofer.de/en/application_areas/microelectronics/usep.html

6) Fraunhofer Group for Microelectronics in cooperation with the Leibniz institutes IHP and FBH, MEMS/CMOS Integration, https://www.forschungsfabrik-mikroelektronik.de/de/unser-angebot/Technologieplattformen/MEMS_Aktoren/MEMS-CMOS_Integration.html

【著者紹介】
林田 一浩(はやしだ かずひろ)
フラウンホーファー日本代表部 アシスタントマネージャー

■略歴
2016年、慶應義塾大学法学部政治学科を卒業。大学卒業後、フラウンホーファー日本代表部に勤務。
2018年からアシスタントマネージャーとして、委託研究プロジェクトサポート・コーディネートおよび広報を担当。