“3E+S”とは地産地消 -自然エネルギ―の利活用は自然と共に生きる事- (1)

Xodus Group Japan(株)
代表取締役社長
小川 逸佳

 日本には古来より「地産地消」という考えがある。それを日本のエネルギー政策基本方針である3E+Sに当てはめてみると、最後の「S」は安全性であるSafety、三つのEはそれぞれ、Energy Security(自給率)、Economic Efficiency(経済効率性)、Environment(環境適合)を指す。更に経済産業省より、2021年10月に第六次エネルギー基本計画(1)が発表されているが、優先順位は、まずは安全性、それからエネルギーの安定供給、経済効率性の向上により低コストでのエネルギー供給、最後に環境への適合を図るという、基本計画本文ではカーボンニュートラルを一番先に取り上げながらも、実質的な内容においては、脱炭素化に重きを置く欧州とは乖離した順位付けになっている。

https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2020/005/

 3E+Sは経済産業省の中でも、資源エネルギー庁が主だって進めている政策だが、その大前提には日本には資源がないという概念がある。資源のない、すなわち他国からの輸入エネルギーに頼るという前提のもと、エネルギーの安定供給、経済性、二酸化炭素ガス排出削減などを考慮したエネルギーミックスを検討するというものが、3E+Sの位置づけであるといってもよい。そこには投資でも行かされている、リスクの分散化という概念も機軸となっている。リスク分散によって、政権交代や国交による輸出国の輸出制限のリスクを考慮し、一国に頼りすぎない、偏りのないエネルギーのポートフォリオを作るというのが、言い換えればこの政策の目指すところである。

https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2020/005/

 3E+Sは方針としては結果的に正しいとしても、もし前提が間違っていたらどうだろうか?資源のない国日本、それは本当だろうか?なぜなら、ここで資源と考えられているものは、主にエネルギーの元になる石油と天然ガスを指し、世界で脱炭素化の波が吹く中、それは本当に「資源」と言えるものなのだろうか?ここで一つ明確にしたいことは、現人類が生きている限り、石油と天然ガスは「原材料」として使われるため、技術革命や人間自体が根本的に変わらない限り、プラスチックの原料として、または化学品の元として、化石燃料の採取は続けられる。しかし、原材料としての化石燃料は、脱炭素化という目線から見れば、燃やしてエネルギーを取り出す過程で起こる、二酸化炭素及びその他有害ガスが出ないので問題ではないということだ(2)。

 しかし、前述の通り、日本の3E+Sにおいては、資源とはあくまでも主に石油と天然ガスなので、今欧米中心に世界からどんどん淘汰されていく「資源」を元に、エネルギー政策を立ててしまってもよいのだろうか?また、その化石燃料を主だった資源としてエネルギー政策に入れている限り、国際リスクを完全に取り除くことは不可能である。

 更には3E+Sは決して新しい概念などではなく、日本に昔からある「地産地消」である。結果から言うと、国産でエネルギーを賄うことが出来れば、一気に3E+Sが達成できるということだ。また、本当の意味での3E+Sを達成するためには、再生可能エネルギーの割合を最終的には100%にする必要があるとも言える。それでこそ初めて自給、安全性、経済性と脱炭素化が可能になる。自然エネルギー(3)を資源として日本を見ると、日本は決して資源に乏しい国ではない。なぜなら日本には広大な海域があるからだ。

 しかし、現状では日本における自然エネルギーの導入率は欧州や中国に大分後れを取っている。またその内容も太陽光と水力で18%に留まり、残りの82%のエネルギー需要は輸入に頼っているということだ(4)。

https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2020/007/#section1

主要国の発電電力量に占める再エネ比率の比較
主要国の発電電力量に占める再エネ比率の比較

 エネルギーの定義はさておき、生活の利用法で括ると、具体的に熱利用(家庭用、工業用)と、電気利用(石炭、石油、ガスを燃料とする火力タービンや原子炉)としての利用がある。自然エネルギーは直接電気に変換されるが、熱は電気では代替えすることが難しい分野である。その為熱の脱炭素化にはグリーン水素やグリーンアンモニアが検討されている。


次回に続く-



参考文献および注釈

  1. https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005.html
  2.  しかし、石油を運ぶ途中で事故が起きた場合のオイルによる海洋汚染、また天然ガス採掘中にどうしても漏れてしまうメタンガスの温室化効果については別とする。
  3.  再生可能エネルギーも無尽蔵ではないため、自然エネルギーという言葉をあえて使用している。
  4.  原子力発電の原料も輸入である。


【著者紹介】
小川 逸佳(おがわ いつか)
Xodus Group Japan株式会社 代表取締役社長

■略歴

  • 2019年7月~2021年6月
  • 英国国際通商省 エネルギー・インフラストラクチャーセクター 対英投資上級担当官 英国洋上風力、洋上風力海底送電線、潮流・波力発電などの自然エネルギー・エリアにおける、日本投資家・企業へのアドバイスと英国政府、自治体、学術機関や諸団体・協会との連携を一環としたプロジェクト・サポート。 また、産業クラスター中心の二酸化炭素回収・貯留プロジェクト、港湾の脱炭素化プロジェクト化。 水素ハブの形成、水素サプライチェーンとオフテイカーの連携と実証。
  • 2021年6月~2012年11月
  • Star Magnolia Capital Ltd. Co-Founder & Partner 香港と上海に拠点を置く、マルチ・ファミリーオフィスの超長期投資ファンド立ち上げと運用。ヘッジファンド、プライベート・エクイティファンドへの投資以外にも、ブロックチェーン事業や植物工場案件などを担当。
  • 2010年10月~2009年7月
  • Sullivan & Cromwell LLP ニューヨーク州弁護士

学歴
2009年 University of Pennsylvania Carey Law School卒業