異なるメーカーの無人搬送車が 自律的に交差する「分散型優先走行制御システム」構築

 (株)トライアートとトヨタ自動車九州(株)は、レクサスを製造するトヨタ九州宮田工場の屋外で用いる長距離無人搬送車において、参加する端末を搭載した車両などが環状につながり直接通信する「リングネットワーク」を形成し、互いに安全性確認を行う優先走行制御システムの運用を開始する。屋外長距離無人搬送車の動向監視、交差点における優先走行制御、歩行者との間の安全性確認までを、同一のシステムで運用する計画であるという。

 現在さまざまな業種の製造工場では、製品や部品の構内搬送に無人搬送車(=Automatic Guided Vehicle、以下AGV)を導入するケースが増えている。AGVは、一般的に磁気線、QRコード、RFIDなど何らかの誘導にしたがって走行し、車載のセンサによって衝突を回避する機能を備えており、広大な敷地を構える自動車工場でも、作業員の負担を減らし生産性を向上する施策として随所で欠かせないものとなっている。しかしこれまでのところ、交差・合流が発生するような複雑なレイアウトは、走行順序を完全管理した予定走行でなければ運用できず、それもすべてのAGVが同一メーカーの同一システム上で集中管理できている場合に限定されていた。
 トライアートはこのたび、複数メーカーのAGVがそれぞれのデータフォーマットや通信仕様で稼働しているトヨタ九州の宮田工場を想定し、車両同士が交差点での優先走行を自律的に判断する「優先走行制御システム」の開発に成功した。2022年1月から、同様のシステムを用い宮田工場の一部の区間で屋外を走行する長距離無人搬送車の動向監視の運用を開始する予定。

 これらは異なるメーカーのAGV同士がインフラレスで直接通信する対話システムで、各メーカーの車両や歩行者の端末、将来的には道路設備などが持つ仕様の差異を吸収しながら自律協調することを可能にする、画期的なアーキテクチャである。このしくみは、主に以下の2つの独自開発によって実現している。

【1】各種端末が参加/離脱可能な、リングネットワークを構成する
 トライアート独自の分散コンピューティング技術『XCOA(クロスコア)*』のエージェントを各種端末(車載スマートフォン、作業員スマートフォン、管理者PCなど)に搭載し、端末間直接通信(P2P通信)でつながる「リングネットワーク」を形成する。リングはそれ自体が自律したネットワークで、さらに今回のような「優先走行判定ロジック」などのプログラムを実行する一つのコンピューターとして作用するため、サーバによる集中監視/制御と異なり、リアルタイム処理や継続処理にも通信負荷がかからない。また、端末の任意の参加・離脱時にも、通信が保たれる冗長性を有している。

【2】仕様の異なる機器との連携機能を構築する
 リングネットワーク上で処理された結果(停止命令など)を、AGV車両やAGV管理機器などにメッセージングし、各デバイスの制御(車両にブレーキを掛けるなど)を実現する。メッセージングする対象によってはPLC(機械制御装置)や、ROS(ロボットOS)マシンを経由。各社仕様によるデータフォーマットの違い、通信仕様の違いなどはここで共通化(翻訳)を施し、判定はリングネットワーク上の共通ロジックに委ねることで、その差異を吸収する。(画像)

 このしくみの基盤であるリングネットワークは、P2P通信をベースとしているため、サーバに負荷が集中することで生じるリスクやコストが発生しない。参加する端末の数や役割によってリングを増やしながら連携を拡張すれば、スケールの拡大とともに分散コンピューティングの強みはさらに発揮されるであろう。また、統一規格のためのソフトウェア開発・維持の社会的コストが軽減でき、用途や環境によって柔軟な設計ができる点もメリットである。

 現在の運用は、少数の車両と、協業する作業員を主な対象としているが、今後は工場の構内を歩く人や道路設備なども参加できるシステムへ発展させる計画である。宮田工場の屋外では、全長2.5kmの敷地内に部品を運搬する搬送車が10種走行しており、それぞれが異なるタイミングで走行し、歩行者や、出入りするトラックなどとも共存していることを考えると、そこには多彩なパターンの交差・合流が発生している。仮にこれらの搬送車すべてを無人化し、歩行者や設備を含めて集中管理することなく互いの判断によって走行を制御できるようになれば、自動運転車が走る一般の交通インフラを分散コンピューティングが支えるという未来が視野に入ってくる。

 新しい社会基盤が導入されるとき、これまでのしくみを全て刷新する中央集約的な方法がある一方で、既存のしくみを連携させることで性能を担保し、同時に情報や権限の過集中を生じさせない方法を検討することは、これからの情報技術を考えるうえで重要な視点である。トライアートは、自社開発の技術を応用しながらさまざまな分野でその可能性を追究し、またトヨタ九州は、現場の実課題から生まれた新しい生産技術の汎用化に率先して取り組んでいる。当システムも、今回の実用化を足掛かりに、これからの社会に実装する価値ある技術へ発展させるべく研究開発を継続していくとしている。

ニュースリリースサイト(triart):https://triart.co.jp/news/20201201-xyl7k-433sm-rzanl-z3lsx