「ロボットの神経に期待される超高速分布型ファイバーセンサー」(2)

2.位相検波BOCDR

2種類の超高速BOCDRのうち1つ目は、「位相検波BOCDR」5)である。従来のシステムでは、電気スペクトルアナライザー(ESA)の周波数掃引機能を用いてBGS全体を取得した後、そのピーク値を与える周波数(BFS)を算出していた。その結果、サンプリングレートは19 Hzに制限されていた4)

図3. 超高速化の原理
(a) BGSを周波数領域から時間領域に変換する原理

そこで、高速に周波数が掃引された信号を電圧制御発振器(VCO)により発生させ、BGSとミキシングし、ある固定の1周波数成分のスペクトルパワーだけをモニタリングした。これにより、従来周波数領域の信号であるBGSを時間領域の信号に変換することが可能となり、高速なBGSの取得が実現された(図3(a))。

しかし、そのままではBGSからBFSを算出するプロセスが全体の動作速度を制限してしまう。そこで、取得した時間領域BGSを狭帯域通過フィルター(BPF)により1周期の正弦波に近似して、排他的論理和(XOR)の論理ゲートと低域通過フィルター(LPF)を用いて位相検波を行った(図3(b))。これにより、BFSと1対1対応となる量を直接取得することが可能となった(図4(a,b))。

図3. 超高速化の原理
(b) 時間領域BGSから位相検波によってBFSを取得する原理
図4. システムの出力と印加歪の関係
(a) 位相遅延と印加歪の関係。(b) 出力電圧と印加歪の関係
図5. 位相検波BOCDRの実験系

次に、この手法により100 kHzを超えるサンプリングレートを達成できることを実証した。これは、従来法の5000倍以上の速度である。用いた実験系を図5に示す。まず、1 kHzまでの局所的な振動の検出に成功した(図6(a–d))。次に、光ファイバーをたわませて発生させた変形の伝搬を検出した(図6(e–g))。以上により、リアルタイム分布測定の動作が確認できた。

図6. 位相検波BOCDRによる超高速測定のデモ
(a–d) 30 HZから1 kHzまでの局所的な振動の検出結果,
(e–g) 伝搬するたわみ変形の発生の様子とリアルタイム検出の結果.

(※月刊OPTRONICS 2017年12月号より転載)

参考文献

4) Y. Mizuno, Z. He, and K. Hotate, “One-end-access high-speed distributed strain measurement with 13-mm spatial resolution based on Brillouin optical correlation-domain reflectometry,” IEEE Photon. Technol. Lett. 21, 474 (2009).

5) Y. Mizuno, N. Hayashi, H. Fukuda, K. Y. Song, and K. Nakamura, “Ultrahigh-speed distributed Brillouin reflectometry,” Light: Sci. Appl. 5, e16184 (2016).

次週に続く―