スコットランド・気候変動への対応 ー洋上風力と水素社会ー (1)

スコットランド国際開発庁・英国大使館 松枝 晃

1. Climate Emergency とNet Zero

スコットランド政府(Scottish Government)が気候緊急事態宣言を出したのは2019年4月で、先に2009年に成立した気候変動法(Climate Change(Scotland)Act 2009)を修正して、以来脱炭素化を推進している。同法案による政府のコミットメントとして2030年に-75%、Net Zeroは世界で目標とされている2050年に対し5年前倒しの2045年に達成するとしてる。2020年にアップデートされたアクションプラン 1) では、Coordinated Approachと言う考え方が提唱されている。電力、交通、暖房インフラ、農林業など単独の産業セクターで施策を考えるのではなく、関連するセクターを統合して対応する必要性を説明している。

1)https://www.gov.scot/publications/securing-green-recovery-path-net-zero-update-climate-change-plan-20182032/

図1
図1

2021年11月には、COVID19で一年延びた国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)がスコットランド・グラスゴーで開催される。日本企業では、日立製作所がプリンシパルパートナ(最上位パートナ)になっている。

図3
図3

図2
図2

2. 洋上風力

2-1. プロジェクト概要

脱炭素を達成する為のベースとなるのが電力の脱炭素化であるが、スコットランドでは風力発電、特に今後の貢献度の観点で浮体式洋上風力となる。これは、スコットランドの洋上風力リソースがヨーロッパ全体の25%を占める事に由来する。現在(2021年半ば)既に決まっている(稼働中・計画を含む)洋上風力サイトを図4に示す。
合計で10.5GWの設備容量で、内稼働中が約0.9GWである。青の矢印で示されたHywind、Kincardine、Pentland等は浮体式の洋上風力である。
これに加えて現在入札が行われているのがScotWind Leasing Roundでの用地で図5の濃青で示す15か所である。その内、青の円で囲まれた5か所は浮体式専用のサイトなる。 その他も深度が60mを超えている所もあり浮体式或いは着床・浮体併用となる。

図4 既存のサイト
図4 既存のサイト
図5 Scot Wind サイト
図5 Scot Wind サイト

2-2. Clusterとサプライチェーン

洋上風力の開発・建設・運用を支える企業を中心としたクラスターにDeep Wind Cluster 2) がある。英国内では最大級のもので、図6にある様に位置的にはMoray湾を中心とする。図5の洋上風力サイトへの対応が容易な所となっているが、スコットランド全体をカバーする。現時点(2021年9月初旬)で623のメンバ企業からなる。メンバは36社のデベロッパ(図7)、400を超えるサプライチェーン企業、港湾企業、大学・研究機関、地方自治体等からなりインターネット上で公開されている。日本企業も数社含まれる。
2)https://www.offshorewindscotland.org.uk/deepwind-cluster/

図6 Deep Wind Cluster
図6 Deep Wind Cluster
図7 デベロッパ
図7 デベロッパ

2-3. Custerのサブグループ

Deep Wind Clusterの中には3つのサブグループがある。いずれも洋上風力において重要なサブテーマ領域であり、各サブテーマにフォーカスする事で、メンバの保有する技術や専門性をより現場に適したものにする事を目的としている。

O&Mサブグループ:オペレーション&メンテナンスは今後20年以上にわたって必要になる機能で、雇用の観点からも重要なものである。このテーマに係るサブグループには、現在120のメンバが存在する。BEIS 3) のデータによると、現在1GWの洋上ファームに対してO&Mの年間固定費・変動費の合計が50milGBP(約90億円)である。2030年頃にUK全体年間約2bnGBP(約2800億円)規模、2050年頃にはWind Farmの容量は増えるが、O&Mのコスト低減も要求され年間約4bnGBP(約5600億円)規模と試算されている。
風車のブレードの大型化、対風速度の増加によるブレード浸食、より沖合に行く事でのアクセス時間の延長、作業可能時間ウインドウの減少などの課題が発生し、この為のInnovationが求められる。
3) Department for Business, Energy & Industrial Strategy(英国政府ビジネス・エネルギー・産業戦略省)

FOWサブグループ:浮体式洋上風車のサブグループで、214のメンバからなる。現在中心となる構造形式とその技術をもつメンバ企業を図8に示す。

実際には、各種の変形があり水深により最適な浮体構造は異なるようで、現状デファクトになる様な構造形式はない。サブグループには様々な技術を持った企業がおり、ここでは個別に示さないが、Webページに写真が掲載されており、参照されたい。
(https://www.offshorewindscotland.org.uk/deepwind-cluster/floating-offshore-wind-subgroup/)

図8
図8 主な浮体構造形式と企業

Power2Xサブグループ:洋上風力発電の電力を送電網に供給すると言うビジネスの先にある、電力を変換して水素、アンモニア、エネルギー貯蔵、メタノールジェット燃料などを扱うビジネスを検討するサブグループ。現在70のメンバが参画している。英国で2050年迄には必要となるであろう電力は75-100GWと推定され、UK海域の洋上風力の容量は600GW以上あると推定される。その多くはスコットランドの海域にあり、Power2Xの可能性は大きい。この中で特に期待されているのは、水素のビジネスである。

次回に続く-



【著者紹介】
松枝 晃(まつえだ あきら)
英国大使館・スコットランド国際開発庁
上席投資担当官

■略歴
金沢大学 工学部 電気工学科卒、
1981年オリンパス光学株式会社(当時)。研究開発部門で回路設計、新規事業開拓、オープンイノベーション等経験。
2010年スコットランド国際開発庁。センシング技術を中心に日本スコットランド間の技術案件を担当。
2012年から海洋関係。北海のSubsea技術と日本の海洋関連技術のコラボレーションを促進。