日本の自然・社会環境に適した大型洋上風力発電用浮体について (2)

三井海洋開発(株)事業開発部 ⼩林 秀信

(3) 最少の占有面積による社会受容性と経済性の両立

ウインドファームにおいては風車の単機発電容量が大きければ基数の低減も可能となり、さらに、緊張係留による占有面積の最小化は漁業をはじめとする既存事業への影響を最小限とすることができ、浮体式洋上風力発電の普及拡大を促進すると考える。

TLP型(緊張係留方式)と緩係留方式

1) 大量発電の実現
TLPの占有面積の小ささは、事業会社が確保したサイト面積を有効に活用することができ、風力エネルギーによる発電量を最大化する。セミサブとの比較において区画制限があるサイトの際まで浮体を配置できることから、国交省のマニュアルに従った配置で比較した場合、例えば下記を例とした場合、約二倍の風車基数の配置が期待できる。

【出典】国交省マニュアル「港湾における風力発電について」(平成24年6月)
【出典】国交省マニュアル「港湾における風力発電について」(平成24年6月)

【検証例】同面積あたりの最大風車設置数

【検証例】同面積あたりの最大風車設置数

2) 社会受容性
水深100mのサイトにおけるセミサブの係留長は風車を中心に直径で約2.4㎞となる。これに対し、TLPは電力ケーブルが左右に300m伸びる程度であり占有面積はほぼTLPの係留面積そのものである。TLP型における浮体間のスペースは、他の浮体形式と比し、漁業や既存事業への影響を最小限にすることが期待できる。

<TLPとSemi-subにおける占有面積の比較>

<TLPとSemi-subにおける占有面積の比較>

3. おわりに

TLP型浮体による洋上風力発電は、今後大型化が期待される風車への対応、日本固有の自然条件への適用性、また社会からの受容性において最も適した浮体であると考える。現在、1/60スケールでの水槽実験までは完了し、2020年代後半には実海域において、10MWを超えるクラスでの実スケールでの実証試験を実施を予定している。三井海洋開発は、この実証試験を通じ、構成する要素技術、工法をあらゆる角度から検証し確実なものにすることにより、2030年代初頭の商業設備への導入を皮切りに、我が国の浮体式洋上風力の普及、発展に貢献する所存である。



【著者紹介】
小林 秀信(こばやし ひでのぶ)
三井海洋開発株式会社 事業開発部

■略歴
20年以上にわたり、石油、ガス、化学業界にてEPCのセールス/マーケティングに従事。
2018年に三井海洋開発(株)入社。新規事業を担当。
現在 同社の風力発電事業の推進において2030年の商業化を目指し活動中。