河川防災におけるモニタリングシステム(1)

坂田電機(株)
飯田 あゆ美

1.はじめに

気象庁の統計によると、全国の日降水量が200mm以上の大雨の年間日数は増加傾向にあり、最近10年間(2011~2020年)の平均年間日数は統計期間の最初の10年間(1976~1985年)と比較して約1.7倍に増加している1)2)。降雨の激甚化に伴い、河川に関連する災害も増加している。本稿では河川に関連する災害に対し、土木・防災センサメーカーとして当社がこれまで取り組んできた内容について事例を含めて紹介する。
河川に関連する災害として、第一に洪水が挙げられる。洪水は河川堤防の越水により発生する以外にも、堤体内や基礎地盤への河川水の浸透、堤防の侵食による破壊で発生する。また、農業用のため池は洪水調節機能も有する3)が、ため池が決壊することにより大きな被害をもたらす場合もある。本稿では、増水時の河川水位を把握することで避難に役立てる「危機管理型水位計」や、ため池を遠隔で監視する「ため池監視システム」、河川堤防の侵食を検知する「侵食センサ」を紹介する。最後に、増水時の土砂移動の実態を把握することにより、河川の流域全体における土砂管理計画に役立つ「砂礫トレーサー」を紹介する。
洪水以外の災害としては河川の上流部で発生する土石流があるが、この土石流発生の検知および発生後の迅速な避難のために用いる「ワイヤセンサ」を紹介する。

2.中小河川に特化した洪水時の水位観測「危機管理型水位計」

大雨に伴い河川の水位が上昇すると洪水の危険性が増すため、河川の水位情報の把握は避難行動の判断にとって非常に重要である。特に中小河川は豪雨時に急激に増水し氾濫するため、人的被害が発生する可能性がある。一方で、大河川と比較して中小河川は水位観測施設が整備されておらず、避難の基礎となる水位情報の不足が課題であった4)5)
危機管理型水位計は、国土交通省の推進する「革新的河川技術プロジェクト」にて開発された、洪水時の水位観測に特化した低コストの水位計である。
水位の検出方式は、接触型(水圧式水位計)と非接触型(超音波式水位計、電波式水位計)に大別される。水圧式水位計と電波式水位計の設置例を図1、図2に示す。従来の観測設備と比較して小型・省スペースであり、測定器は単管や橋梁に容易に設置できる。
装置は太陽電池で駆動し、無給電で5年以上稼働する。水位データの送信頻度は、消費電力を抑えるため平常時と洪水時で異なる。平常時は機器の健全性確認を目的として1日1回行う。測定頻度は河川種別により異なるが中小河川の場合は5分に1回であり、観測開始水位を超過すると5分に1回の測定結果をクラウドサーバーへ送信する。
水位データは国土交通省のクラウドサーバーに集約される。集約されたデータは、危機管理型水位計運用協議会によって運営されるwebサイト「川の水位情報」(https://k.river.go.jp/)によって一般公開されており、スマートフォン等から誰でも自由に情報を入手できる。

2.1水圧式水位計(図1参照)

水中のセンサが受ける水圧から水位を算出する。坂田電機製の水圧式水位計は変換素子として差動トランス方式を採用しており、温度変化、ノイズや絶縁低下に強く耐雷性も高いため、長期運用に適する。

図1 水圧式水位計 設置例、仕様
図1 水圧式水位計 設置例、仕様

2.2 電波式水位計(図2参照)

センサから発信したマイクロ波を水面で反射させ、受信するまでの時間から水位を検出する。河道内に立ち入ることなく橋梁等に設置でき、超音波式と比較して測定範囲が広い特長がある。

図2 電波式水位計 設置例、仕様
図2 電波式水位計 設置例、仕様

3.水位計とカメラによるため池の遠隔監視「ため池監視システム」

ため池は雨水を一時的に貯留する洪水調節機能や土砂流出防止の役割を有するが、老朽化が進んだため池もあり、大雨で決壊する可能性が考えられる。2018年7月の豪雨で多くのため池が決壊したことから「防災重点農業用ため池に係る防災工事等の推進に関する特別措置法」が制定された。このうちソフト対策として管理・監視体制の強化が含まれており、遠隔監視によるモニタリングシステムが開発されている。

ため池監視システムは、あらかじめ指定された管理者が水位情報、監視カメラ画像、雨量情報を遠隔地で確認できるシステムである(図3)。本システムは水位計、監視カメラ、転倒ます雨量計、測定ユニット、ソーラーパネルで構成される(図4)。水位計は2.1章の水圧式水位計と同様の設置を行う。本システムにより、夜間や集中豪雨の際も現地に行くことなく、安全にため池の状況を把握することができる。

図3 システム構成と表示画面例
図3 システム構成と表示画面例
図4 ため池監視システム 設置例
図4 ため池監視システム 設置例

参考文献

1) 気象庁:大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化、気象庁ホームページ、https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html (入手2021年7月24日)

2) 国土交通省:令和2年度の土砂災害、国土交通省ホームページ、https://www.mlit.go.jp/river/sabo/jirei/r2dosha/r2doshasaitop.html (入手2021年7月24日)

3) 農林水産省:ため池の洪水調節機能強化対策の手引き~豪雨からため池や農地・農業用施設を守るため~、農林水産省ホームページ、https://www.maff.go.jp/j/nousin/bousai/bousai_saigai/b_tameike/attach/pdf/index-47.pdf (入手2021年7月24日)

4) 白波瀬卓也:革新的河川技術プロジェクトにおける新技術の導入に向けた取り組み、建設マネジメント技術2019年11月号、p17-20

5) 柳町年輝、富田正裕、筋野晃司、田所正:危機管理水位計による身近な河川水位情報の提供とデータの品質管理、平成30年度河川情報シンポジウム講演集、http://www.river.or.jp/01kenshuu/sympo/h30/img/report_08.pdf (入手2021年7月24日)

次回に続く-



【著者紹介】
飯田 あゆ美(いいだ あゆみ)
坂田電機株式会社

■略歴
2013年 坂田電機株式会社へ入社。
計測機器の設置、データ解析業務に従事。
2021年 現在に至る。