グリーンレーザドローンの現状と河川管理での活用(1)

株式会社 パスコ
間野 耕司

1.はじめに

 近年の気候変動に伴い集中豪雨や大雨の発生頻度が増加傾向を示し,計画規模を上回る洪水が毎年のように発生している1).洪水を安全に流下させるためのインフラ施設が河道や河川堤防であり,その役割は益々重要となっている.河川管理では,河道や河川堤防といった河川管理施設で、災害リスクのある箇所を漏れなく把握し,適切に対処することが求められる.災害リスクのある箇所を把握するために,これまで数年に一度の河川縦横断測量と年1回以上の河川管理施設の点検(河川点検)が行われてきた.河川縦横断測量では,200mといった一定間隔ごとに測線を設定し、堤防天端の高さと河川堤防と河道の横断形状を把握する.また河川点検では,出水前後,堤防などの除草後の時期に,堤防や河川管理施設を対象に,地形や地物の変形(変状)などの有無を目視で確認し,その長さ・深さを巻尺などで計測している.しかし,河川縦横断測量は,測線間の災害リスクが把握できない恐れがあり,また巻尺を使った河川点検は,河道や河川管理施設の状態を適切に数値化して蓄積することが難しい.
 近年,河道状況を漏れなく把握するために,陸部だけではなく水部が計測できる緑波長光のレーザスキャナ(グリーンレーザスキャナ)を利用した航空レーザ測深(Airborne LiDAR Bathymetry:ALB)が実用化されている2).この計測システムは,飛行機で空中を移動しながら下方にレーザ光を照射することで,計測点が膨大に集合した三次元点群を取得できる.ALBで取得した三次元点群の利点は,上流から下流までの広い範囲の河道把握には適していること、数m以下の細かい地上解像度で面的(連測的)に地形や地物の形状を把握できること,位置情報を持つためデータ蓄積や異なる取得時期のデータの比較がしやすいことが挙げられる.一方で,運航費用の高い有人航空機を用いるALBは,狭い範囲の計測やモニタリングのような複数時期のデータ取得において、コスト面での課題が指摘されている.
 こうした課題への対策として,近年,計測機器の小型化・軽量化が進み,無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle: UAV,又はドローン)をプラットフォームとしたグリーンレーザドローンが登場した.有人飛行機に比べ機体コストが安いドローンにグリーンレーザスキャナを搭載することで,狭域の河川堤防や河道の把握や,複数回の計測(モニタリング)を効率的に実施できると期待されている.本稿は,グリーンレーザドローンの概要と,河川管理における活用事例を紹介する.

2.グリーンレーザドローン

 グリーンレーザドローンは,近赤外線波長帯に比べ水部での減衰が少ないグリーンレーザ光を用いたレーザスキャナを搭載する.この計測システムは,レーザ光を地上に向けて照射,計測対象物から反射し戻ってきたレーザ光の往復時間から距離を観測し,Global Navigation Satellite System(GNSS),Inertial Measurement Unit(IMU)で取得した位置と姿勢データをあわせて解析することで,三次元点群を生成できる.さらに水部では,上空から水部に照射されたグリーンレーザ光の一部が水面で反射し,一部が水面を透過して水中を進み,水底で反射する.水部のレーザ計測では,図1で示すように空中部と水部で光波の進行速度と角度が異なる屈折を考慮して補正を行う.これらを踏まえた解析を行うことにより,陸部と水部の地形や地物の形状を三次元点群で再現することが可能となる.

図1 水部の計測概念
図1 水部の計測概念

 国土交通省では,2016年に革新的河川管理プロジェクト(第一弾)において,陸上・水中レーザドローンの技術開発公募が行われ,河川管理に必要な陸部と水部の河道形状を同時に取得できる計測システムの開発が行われた3).この公募に,株式会社パスコと株式会社アミューズワンセルフが共同で参加し,陸上・水中レーザドローンの開発を株式会社アミューズワンセルフが,現場導入するための検討を株式会社パスコが担当した.その結果,世界で初めて陸部と水部を同時,且つ面的に計測できるグリーンレーザドローン(TDOT GREEN)が実用可能であること,一般的な水部測量で利用されている音響測深では船舶の進入不可により計測が難しかった水深0mから2.5m程度の浅い地形を面的に計測できる特長を示した。その後、グリーンレーザドローンは、国土交通省や測量企業で導入されており、今後、河川管理などで実用が進むと考えられている。
 以降では、TODTGREENの概要と特徴を示す.表1と図2は,TDOT GREENの最新機であるTDOT3GREENの機器仕様と外観を示す4).TDOT3GREENは,計測点数が3万点/秒であり,秒速数mのスピードで飛行できるドローンに搭載することで,100点/m²以上の高密度なレーザ点群を取得できる.また,対象物計測時のレーザ径(フットプリント)は,対地高度50mで約5㎝と小さく,航空レーザ測量に比べて高精細な形状を再現できる.レーザスキャナは,重量が2.7kgで,コンパクト化・軽量化が図られており,DJI社製 Matrice300に搭載した場合,最大約30分のフライトが可能となる.これは,現状のレーザドローンで最長クラスの飛行時間となる.さらに,TDOT 3GREENは,機器性能に適した計測諸元や計測計画を簡単に設定できる計測計画支援ソフトウェアや,現地で即時にデータ計測状況を確認できるソフトウェアが充実している.これらのソフトウェアは,リアルタイム,又は計測の数分~数十分後に現場で欠測範囲の有無を確認できるため,確実な現場作業の実現に寄与できる.

表 1 機器仕様
表 1 機器仕様
図2 TDOT3GREENの外観
図2 TDOT3GREENの外観

参考文献

1) 国土交通省 水管理・国土保全局:国土交通省 社会資本整備審議会河川分科会 安全 を持続的に確保するための今後の河川管理のあり方検討小委員会資料, http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/anzenkakuho/pdf/h2502/siryou2.pdf, 2013.

2) 中村圭吾,福岡浩史,小川善史,山本一浩:グリーンレーザ(ALB)による河川測量とその活用,RIVERFRONT,Vol84,p16-19,2018.

3) 国土交通省 水管理・国土保全局: 水管理・国土保全局 革新的河川管理プロジェクト(第1弾), https://www.mlit.go.jp/river/gijutsu/inovative_project/project1.html, 2017.

4) 株式会社アミューズワンセルフ:TDOT GREEN,https://amuse-oneself.com/service/tdotgreen.

次回に続く-



【著者紹介】
間野 耕司(まの こうじ)
株式会社パスコ

■略歴
 1999年3月岐阜大学大学院工学研究科土木工学専攻修了.1999年4月株式会社パスコに入社後,航空レーザ測量,MMSおよびUAVなどの三次元計測業務に従事し,現在に至る.その間,2018年岡山大学大学院環境生命科学研究科環境科学専攻を修了.博士(工学).