感染症対策にも活用できる、シングルボードコンピュータを使った「密」センサ(2)

センサイト協議会
理事
三田 典玄

〔2〕現代の「センサ」と「新型コロナウィルス感染症」

ここ数年、日本政府の経済産業省では「Connected Industries」が大きな製造業などの産業構造改革の中心として語られて来ているのはご存知の通りです。IoTによる産業変革による経済成長の追求は、日本国政府でのデジタル庁発足とともに、多くの恵みを日本の産業にもたらすと言われており、関係各国からも期待されています。

特に、この2年は「新型コロナウィルス感染症対策」として、「三密(密閉、密集、密接)を避ける」ことがさけばれています。しかしながら、ワクチン接種の進展とともに、コロナ禍が忘れられているような場面も多々あり、特に2021年6月後半からは、再度の感染拡大も懸念されているのが現状です。そのため、ワクチン接種後と言えど、三密を避けること、マスクの着用などは必須、と言われています。要するに、一時は新型コロナウィルス感染症に対する緊張感があったものが失われており、場合によったら、危機的状況になる、と警鐘を鳴らしている感染症の専門家も増えて来ました(6月末時点)。この現況にあって、やはり多くの人が集まる状況が、特に都市部の繁華街や、飲食店等で知らず知らずのうちに、発生する場合があり、繁華街などを抱える自治体なども危機感を強めています。

そのため、多くの「三密を避けるためのIoT技術」も開発される様になりました。そのほとんどは、「人」の認識をカメラを使うなどの方式を取っており、今度はプライバシーへの配慮などが心配されています。また、新型コロナウィルス感染症の感染拡大とともに、産業も大きなダメージを受けており、より安価な「センサ」の需要が高まっています。これらの問題をまとめると、以下になります。

1.「三密」を発見し、関係各所に知らせるセンサが望まれている。
2.そのセンサは低価格で供給されることが必要である。
3.プライバシーへの配慮も重要である。

今回、ここでご紹介した「三密センサ」も、これらの条件に準じたものとして試作されました。

〔3〕現代の「センサ」と「ソフトウエア」「ネットワーク」

現代のセンサ技術は、センサのハードウエアは、各種、考えうるものは実現されてきました。たとえば、人間個人を特定するセンサ(個人認証のためのセンサ)であれば、画像認識による顔センサ、指紋センサが一般的に多く使われており、それ以外にも虹彩認証、手のひらの静脈パターンによる個人認証なども、よりクリティカルな場面では使われるようになりました。また、自動車の自動運転では、LiDARという、複数のセンサが統合されたものが使われており、レーザー、超音波、マイクロ波などの個別のセンサの出力を小さなコンピュータに入れ、その中でソフトウエアで合成し、より確実なセンシングをソフトウエアで行い、そのコンピュータの出した「結果」を、データとしてネットワークを通じてクルマの制御をするメインのコンピュータに送る、という方式が一般的になってきました。また、この自動車内のメインのコンピュータも、5Gなどの自動車の外部に超高速のネットワークで接続され、渋滞を避けての自動運転でのルート変更など、これまでは人間が行ってきた判斷を超える制御を地域全体のトラフィックのバランスを考慮した判斷として、交通システム全体として動かす、ということが始まっています。

すなわち、現在の「センサ技術」とは、既にあるセンサを組み合わせ、ソフトウエアで全体を制御する、というものになりつつあります。このセンサのネットワーク化の発達の過程で、電気自動車(EV)の雄と言われる米国・テスラモータース社では、LiDARを使わず、画像処理のみで自動運転を実現する、という発表を行っています(https://36kr.jp/117100/)。このテスラ社の方向転換により「センサ」と「ソフトウエア」の次元の違った発展がなされる、といわれています。

これらのセンサの利用技術の発展を支えているのは、センサそのものの開発以上に、以下の点ではないかと、筆者は考えています。

1.コンピュータのハードウエアの劇的な価格低下と高性能化
2.コンピュータのネットワークとしてのインターネットの低価格化と高速化
3.ソフトウエア開発技術の発展。特に世界的なインターネットを通じたRepositoryの一般化によるOSS(Open Source Software)の発展。

〔4〕現代のソフトウエア開発と「センサ」

現代のソフトウエア開発は、経済効率の追求から、短期間で多くの成果を求められるものになってきており、ソフトウエアを1から作ることはまずなくなりました。多くのソフトウエア開発は、システム全体のデザインができると、その実現のために、たとえば温度センサであれば熱電対をつないで、熱電対の出力は直接リニア増幅器からA/Dコンバーター(Analogue to Digital Converter)に接続し、そのリニアライズはソフトウエアで行う、ということが当たり前になっています。このセンサの出力からリニアライズされたデジタル値までの実現のソフトウエアは現在はRepository上のOSSとして無料で置かれているものをネットから取得してきて、それを使います。利用にあたってはソフトウエア著作者の許諾を得る必要がありますが、これらのライセンスも整理されてきています。現代のソフトウエア開発とは、1行1行プログラムを書くものではなくなってきており、これが当たり前の流れとなっています。また、OSSが他のOSSを利用する、という流れもあり、1つのOSSソフトウエアをダウンロードすると、複数の違うライセンスがついてくる、ということもあり、ソフトウエア技術者にとって、使用許諾権などの議論も理解できる必要が生じています。

この成果として、既にAmazonなどの通販で買える数千円のプロダクトでも、例えば、部屋の中を人が動くと、その人の顔を認識し、その人を追いかけて動画を撮影する、という「自動三脚」などもあります。ソフトウエア開発は、人件費の塊なので、ソフトウエア開発時間の削減は、そのまま製品のコストに跳ね返って来るので、このようなことが低価格でできるようになってきています。

こういった「センサ素子」はその小さな筐体の中にコンピュータを内蔵しているものも多くあります。つまり、センサから出すセンシングデータが既にデジタル化されている、というものですが、今回とりあげた「三密センサ」も、そういったセンサの一つを使っています。

現在における「センサ」は、その値をソフトウエアで以下に簡単に使えるようにするか?ということに眼目が置かれるものでなければならなくなりました。そして、ソフトウエアのその先には、当然「AI」があります。AIそのものがソフトウエアの塊ですから、当然のこと、というところでしょうか。



【著者紹介】
三田 典玄(みた のりひろ)
一般社団法人 センサイト協議会 理事
株式会社オーシャン IoT事業推進部長

■略歴
東海大学工学部通信工学科卒業 ( アモルファス半導体物性専攻 ) 工学士
1986年 株式会社アスキーより「入門 C 言語」執筆/出版。
     コアダンプ者創業。同社専務取締役(後に代表取締役)
〜2000年 以降、「実習C言語」「応用C言語」を続けて執筆・出版。
     日本国内合計約100万部。
     韓国戦後初の日本人が著者の大学の教科書として翻訳・採用。
1996年 東京大学先端科学技術センター 協力研究員。
2002年 独立行政法人・産業技術総合研究所 特別研究員(生命科学)
〜2003年 技能五輪世界大会・情報技術職種・委員
2006年 台湾新聞・日本語版副編集長
2011年 ジョルダン株式会社(JASDAQ上場)顧問 〜
2013年 韓国・慶南大学 工学部コンピュータ学科 教授 〜2015年
2015年 NPO法人・日本フォトニクス協議会知財戦略専門部会事務局長
     及びITアドバイザー 〜現在著書多数。
2019年 株式会社オーシャン IoT事業推進部長

■知見
日本のインターネットの草分けの一人。
台湾、韓国を中心としたアジア各国の事情に精通。
サイバーセキュリティの専門家として「サイバー戦争」をKindleで出版。
IoTの専門家として「ラズベリーパイ」等IoTの学習者向け書籍をKindleで出版。