半導体製造へのAI活用(2)

東京エレクトロン(株)
先端データ企画部
部長 守屋 剛

4.半導体製造プロセスにおける最適化事例

半導体デバイスの微細化、および3次元化により、ターゲットとなる特性(カバレッジ、膜特性、均一性等)を同時に満たすプロセス条件の最適化が複雑化している。そのため、新規プロセス開発に時間がかかっており、機械学習を適用することによって開発効率向上が見込める。半導体製造プロセス開発においては、新規プロセス手法が考案された後、プロセス最適化とハードウェア最適化が検討される。ここで、プロセス最適化に機械学習を適用することで、プロセスコンセプトの検証と最適化を効率化する検討を行った。
プラズマ原子層堆積法(Plasma Enhanced Atomic Layer Deposition:PEALD)における膜厚の不均一性の最適化に機械学習を適用した。説明変数としてプロセス調整パラメータを採用し、目的変数として膜厚の不均一性を使用して回帰モデルを作成した。制御モデル作成の実験フローは、目標の結果が得られるまで繰り返し実施した。機械学習により、PEALDの膜厚不均一性の調整を対象として検証した。膜厚の不均一性とはウェーハ面内での膜厚の1σを指し、できるだけゼロに近い値を達成することを目標として設定した。(PEALDの基本プロセス条件は参考文献 5)を参照)
プロセス最適化経験のあるエンジニアと機械学習アルゴリズムによる最適化を別々に実行した。ウェーハ面内のPEALD膜厚の不均一性は、人間(プロセス最適化経験のあるエンジニア)と機械学習の両方で別々に最適化された。エンジニアと機械学習アプローチによる各試行の結果を図4に示す。エンジニアは、5回の試行によって不均一性の変動を収束できていないが、機械学習アプローチでは変動を収束させることができた。これらの結果は、機械学習アプローチによって、最適条件を素早く見つけられることを示唆している。

図4.エンジニアと機械学習によるPEALDの膜厚不均一性(NU)最適化結果

同様に、膜応力の最適化をエンジニアと機械学習の両方で実行した結果を図5に示す。エンジニア(●)は試行錯誤によって、プロセス条件の最適化を試みたが、最終的に-100~0MPaの目標を達成することはできなかった。対照的に、機械学習アプローチ(◇)によって作成された条件は、目標のストレス条件を満たすことができた。
ここで、エンジニアが試行錯誤によって取得したデータ(●)の範囲内にターゲットを満たすプロセス条件がなかったため、その他の目的で取得していた、全く違う成膜プロセスの実験結果を用いて、学習データを作成した。その結果、機械学習によって、求める条件(◇)を得ることができた。これは、異なる学習データセットを用いた転移学習によって、外挿領域における新たなプロセスウィンドウ探索に成功した好例であったといえる。

図5.エンジニアと機械学習(ML)によるPEALDの膜応力最適化結果

5.おわりに

半導体製造プロセスに機械学習を導入し、素早く目標を達成することができた。機械学習によるアプローチでは、新しいプロセスウィンドウの探索が可能になるため、未知の最適条件を見つけることができることが実証された。機械学習を介してパラメータの寄与率が提案されることで、調整パラメータの探索を人間の判断で実施することも可能になる。今後、機械学習がプロセス開発業務の補助ツールとして活用できることが期待される。

発表文献

5) S. Iwashita, T. Moriya, T. Kikuchi, M. Kagaya, N. Noro, T. Hasegawa and A. Uedono, J. Vac. Sci. Technol. A 36, 021515 (2018).



【著者紹介】
守屋 剛(もりや つよし)
東京エレクトロン株式会社
先端データ企画部 部長

■略歴
1997年 日本電気株式会社入社
2001年 東京エレクトロン株式会社入社、現在に至る
2005年9月 広島大学大学院工学研究科博士課程修了(工学博士)
2008年3月 英国国立ウェールズ大学経営大学院修士課程修了(MBA)

■著書
戦略的CSRのススメ(共著、日新報道社)
超LSI製造・試験装置ガイドブック2009年版(共著、工業調査会)
クリーンルームにおける瞬低対策事例と装置(共著、日本工業出版)