ISO/IEC 17025に基づく認定校正とは(1)

一般財団法人 日本品質保証機構
片桐 拓朗

はじめに

試験や校正の分野で、最近ISO/IEC 170251)に基づく試験・校正機関という言葉を耳にすることが多い。ISO/IEC 17025とは、国際規格「試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項」のことであり、これらの試験所や校正機関が満たすべき基準を示した規格である。本稿では、ISO/IEC 17025に基づく認定校正とはどのようなものであるかについて述べる。

1.なぜISO/IEC 17025が求められるのか?

品質マネジメントシステムに関する国際規格ISO 9000シリーズが普及して20数年が経ち、製造業のみならずサービス業など広範囲な業種においてもISO 9000シリーズの認証を取得していることが当然のようになっている。ISO 9000シリーズを試験や校正といった分野で取得する場合、いわゆるマネジメントシステムについては比較的シンプルに構築することができる。しかし、マネジメントシステムができ上がったからといって、試験や校正の能力が優れているかどうかまではわからない。そもそも、試験や校正の能力とは何であろうか?

例えば、ある製品や部品が規格や仕様に適合しているかどうかの“試験”では、正しい装置、正しい方法を用いて正確な値を出すことが重要である。A試験員の試験結果とB試験員の試験結果が異なるようでは試験能力が優れているとは言い難い。また、同じ試験を試験所Xと試験所Yで行ったときに、同じ結果が得られなければ、試験を依頼する側は混乱を来たすであろう。

測定器の示す値と計量標準の値の一致の度合いを確認する“校正”の分野でも同様である。ある測定器を校正したときに、使用している計量標準が正しくない、あるいは校正手順が正しくないときには、測定器の正確な校正結果を出すことは難しい。この場合、この測定器を使用した計測値は信頼できないものになる。
 産業界には、計測が正しくないと混乱を引き起こすケースが多々ある。例えば、部品の寸法(長さ)が正しく計測されていないために嵌め合いができないとか、温度が正しく計測されていないために、製品特性が変化してしまった等である。
そこで、試験所や校正機関の能力が適切であることの証として用いられる規格がISO/IEC 17025(JIS Q 17025)である。その特徴として次のことがいえる。

(1) SI(国際単位系)へのトレーサビリティの確保
(2) 不確かさの付いた校正結果で信頼性の確保
(3) 技能試験への参加による技術能力の確保
(4) マネジメントシステムの確立による品質の確保
(5) 第三者による認定を通じた透明性、公正性の確保
これらが意味するところは次のとおりである。

(1) SIへのトレーサビリティの確保

測定器の値がSIまたは国家計量標準につながっていることは重要であり、これを計測のトレーサビリティという。計測のトレーサビリティがとれていれば、どの測定器で測定しても同じ結果が得られるはずで計測の同等性が確保される。ISO/IEC 17025に基づいて認定された校正機関は、この計測のトレーサビリティ確保の条件を満たしている。言い換えれば、認定シンボルの付いた校正証明書は、SIへのトレーサビリティが確保されていることを意味している。

(2) 不確かさの付いた校正結果で信頼性の確保

計測のトレーサビリティの定義は、「個々の校正が不確かさに寄与する、切れ目なく連鎖した、文書化された校正を通して、測定結果を参照基準に関係付けることができる測定結果の性質」(JIS Z 8103 計測用語)である。したがって、トレーサビリティのとれた校正を行うためには、校正結果への不確かさの表記も重要となっている。不確かさとは、「測定値に付随する、合理的に測定対象量に結び付けられ得る値の広がりを特徴づけるパラメータ」(JIS Z 8103)と定義される。要するに測定値の信頼度を表す指標である。したがって、不確かさの表記された校正結果はその正確さの程度が定量的に示されているので、信頼性の高い校正結果であるといえる。

(3) 技能試験への参加による技術能力の確保

計測のトレーサビリティがとれていることだけでは、試験や校正の結果が正しいことを保証するには不十分である。試験方法や校正方法が正しく、かつそれを実現できる能力を持った人材がいて初めて正確な結果が出せるのである。それを示すために、試験所や校正機関は技能試験への参加が義務付けられている。技能試験とは、同一の試料や同一の測定器をサンプルとして試験所間で持ち回り、各試験所が出す結果を比較する作業である。ISO/IEC 17025では定期的な技能試験への参加が求められており、その結果が良好でなければ、認定の継続ができなくなる場合もある。したがって、ISO/IEC 17025に基づいて認定されているということは、試験・校正の技術的能力が認められていることを意味している。

(4) マネジメントシステムの確立による品質の確保

試験所や校正機関の品質とは、試験結果や校正結果が正確なことであり、またそれに加えて、一般的な品質の保証が求められる。ここでの品質の保証とは、例えば試験・校正の納期が明示される、預かったサンプルが良好に維持管理される、記録の管理が適切である、不適合業務を是正する仕組みがある、顧客からのフィードバックを適切に取り込んでいる、内部監査が実施される等である。これらは、ISO/IEC 17025の中の「マネジメントシステムに関する要求事項」で求められるものであり、システムを構築して原則として文書化し運用することが求められている。

(5) 第三者による認定を通じた透明性、公正性の確保

試験所や校正機関がISO/IEC 17025の認定を維持するためには、2年に一度の定期的な認定機関の審査を受けることになる。これは第三者による審査であるので、この審査をクリアするということは、透明性、公正性が適切であることに他ならない。したがって、認定された試験所や校正機関を利用することは、そこで得られたデータが技術的に信頼性の高いものであることを示せると同時に、試験所や校正機関に外部組織を利用するときの確認手段の一つでもある。

次回に続く-

参考文献

1) ISO/IEC 17025: 2017 (JIS Q 17025:2018) 試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項、日本規格協会



【著者紹介】
片桐 拓朗(かたぎり たくろう)
一般財団法人 日本品質保証機構 理事

■略歴
東京都立大学大学院工学研究科電気工学専攻修了。
1985年4月、財団法人 機械電子検査検定協会(現 一般財団法人 日本品質保証機構)に入構。
計量器、計測器の検定、校正事業に従事。
2005年から2010年までJCSS、A2LA認定校正事業の品質管理責任者に従事。
2015年より現職。