pHセンサの動向と最近の話題(2)

(株)堀場アドバンスドテクノ
辻 皓平

3.測定作業に対する市場要求と水質計器のトレンド

pH電極としての技術は前回紹介したように、小型化・安価を目指して日々進歩しているが、既存の測定シーンにおいてはまた違った視点での市場要求も存在する。例えば、河川から上水に至るまで環境水の水質モニタリングにおいてはpHの他、電気伝導率、溶存酸素、濁度など複数の項目を測定することが必須となっている。各項目を個別に測定していては時間と労力がかかるため、そのようなシーンでは他項目を同時に測定できるマルチ水質計がしばしば用いられる。これまでも工業用として販売されている多くのオンライン型計器では、複数のセンサで同時多項目測定をしてきたが、近年では、オフライン型の低価格な水質計器においても簡易な操作で多項目測定を行いたいという需要が増えつつあり、小型のマルチ水質計も開発されている。加えて、これまで計器側にあった電子基板をセンサ側に移すことで、校正結果をセンサ側に保存し、計器に接続するセンサを交換した際の再設定・再校正が不要となったデジタルセンサも登場している。こちらは実験室でセンサを校正してから現場へ持っていくことで、現場での校正作業の負担を減らすことができる点がメリットとなっており、これにより操作性も一段と向上した14)。またセンサ部でpH信号をデジタル化することでIoTの一部に組み込み、センサと他の機器を連携させることもできる。例えば、値が基準値より低い場合には付属の装置を作動させ自動で薬液を投入するといったシステム構築などが考えられるが、今後はこのような方法でスマート工場などにおける省人化に向けた取り組みも加速していくだろう。

またpH電極としても、より労力をかけずに簡易に測定したいという要望は強い。上述したような内部液が不要な電極の開発により参照電極の技術も進歩しつつあるが、実用的にはまだ一部を除いてKCl塩橋が主流である。一般的な電極では内部液の補充や液絡の目詰まりに対する洗浄などが必要であるが、そのような負担を軽減できる電極として、KClポリマーゲルを比較極に充填したタイプも好んで使用されている。ポリマーゲルタイプはKClの流出が遅く、都度の液補充が不要であることが特徴である。中には液絡を完全に開放したタイプもあり、こちらはサンプルによる液絡の目詰まりがなく、さらにメンテナンスの手間が軽減されるよう工夫されたものとなっている。特に工業用のpH電極ではメンテナンスフリーであることは必須であり、非水性で溶出しにくく、耐薬品性も高いゲルが使用されている。またKClの顆粒を添加することで比較極を長寿命化するなどKCl塩橋技術としての改良も続けられている。このように低メンテナンス性を追求することもひいてはpH測定の省人化につながるものとなっており、将来的には測定準備からデータ解析・後工程を一連の作業を無人あるいは遠隔操作で行い、異常時の処置まで自動で完了するようなシステム構築がさらに求められるようになると予想される。

図3 遠隔操作によるpH自動測定とデータ確認

4.今後のセンサ技術の展開

近年、健康管理への関心の高まりやセンシング技術の進歩により、心拍数や活動量などの生体情報のモニタリングを可能とするウェアラブルデバイスが普及しつつある。中でも汗中のイオンやpHなどの測定は簡易に体内状態を知るための1つの手段であり、そのモニタリングを可能とするデバイスの開発は盛んに行われている。しかし、固体化・小型化への課題を完全にクリアできてないことから、pHセンサの搭載されたウェアラブルデバイスは未だ市販されるには至っていない。上記に紹介した技術の進展によって安価で小型化なpHセンサが利用可能になれば、pH以外のイオンセンサあるいは導電率センサとの組み合わせも含め、このような新しい測定アプリケーションが大幅に拡大する可能性もある。ウェアラブルだけでなく、例えば、微小センサにワイヤレス通信を組み合わせることで、体内投与したセンサで臓器の情報をリアルタイム監視しながら薬剤の投与タイミングを計ることも可能と考えられる。農園、牧場、漁場や工場においては環境のモニタリングの他、個体識別や追跡と合わせて測定データを管理し、品質の分析が進むだろう。このようにそれぞれのシーンに適した性能・コストのpHセンサに、デジタル化・無線化に代表されるIoT技術を掛け合わせることで、今まで見えなかったデータを可視化し、ばらばらに取得されていたデータ間の関連性を評価することができる。これにより今までにないような高付加価値なデータを提供できるようになり、その結果、商品・サービスの高品質化、高効率化のためにpH測定が当たり前に行われる時代が到来すると考えられる。

参考文献

14) Y.Komatsu,HORIBA Readout,54,79-81(2020)



【著者紹介】
辻 皓平(つじ こうへい)
株式会社堀場アドバンスドテクノ 開発本部

■略歴
2016年 株式会社堀場製作所へ入社。
                   pH、イオンセンサの開発業務に従事。
2017年 株式会社堀場アドバンスドテクノへ転籍。
                   引き続きセンサ開発業務に従事し、現在に至る。