圧力の校正(1)

長野計器(株)
営業企画本部 営業企画部
部長 佐藤 浩二

1.はじめに

試験や検査時に行われる測定の信頼性を確保するためには、適切な測定方法の採用と計測器の信頼性を確保することが必要である。このうち、計測器の信頼性を確保するためには、動作状態の確認をはじめとする計測器の管理とトレーサブルな標準による定期校正が必要である。
圧力計測機器メーカである当社は、永年にわたり、校正に必要な社内の圧力標準の整備はもちろんのこと、JCSS校正事業者として圧力標準の供給を行っている。

2.校正と計量標準供給制度

2.1 校正

『JIS Z 8103:2019 計測用語』において、校正は、「指定の条件下において、第一段階で、測定標準によって提供される不確かさを伴う量の値とそれに対応する指示値との不確かさを伴う関係を確立し、第二段階で、この情報を用いて指示値から測定結果を得るための関係を確立する操作」と規定されている1)。つまり、校正では、校正対象が指示した値と標準との差が示され、その差から正確な値を知ることができる。
また、校正は、単なるデータであり精度を保証するものではなく、合否を判定するものでもない。この点で、校正は「検査」とは異なる。

2.2 計量標準供給制度(トレーサビリティ制度)
新計量法が平成5年11月1日に施行され、この計量法改正の骨子の一つとして計量標準供給制度が新たに創設された。
この制度は、計量器の校正などに用いられる計量標準を、国家標準から各産業界に確実に供給する体制をいう。また、産業界における計測の標準が、国家標準にトレーサブルであることが対外的に証明できるもので、我が国で初めて制定された制度である。

(1) 計量標準供給制度とは
計量法第八章「計量器の校正等」によって計量標準供給制度が定められている。これによると一定の校正能力を持った校正実施機関を経済産業大臣が指定・認定し、それらの機関は、自ら行った計量器の校正結果を標章(ロゴマーク)付きの校正証明書として発行できることが定められている。

(2) 計量標準供給制度の体系
図1は、圧力の計量標準供給制度の体系を示している。
特定標準器は光波干渉式標準圧力計(液柱形圧力計)である。また、幅広い圧力範囲をカバーするため、副標準器としてピストン式一次圧力標準器群(重錘形圧力天びん)が整備されている。この特定標準器は、国家計量標準機関である国立研究開発法人産業技術総合研究所が維持管理している。
特定標準器から特定二次標準器を校正し、jcss校正証明書を発行することにより登録事業者に圧力標準が供給される。この特定二次標準器を使用して常用参照標準器をJCSS校正し、一般ユーザの圧力計をJCSS校正する。

図1. 計量標準供給制度の体系

(3) JCSS登録事業者
計量器の圧力校正に必要な施設・設備および一定の校正能力を有していると共にこれを維持管理していく体制が整っている校正実施機関および計量器製造業者等の自主的な申請に基づき、独立行政法人製品評価技術基盤機構認定センターが審査して校正事業者として登録する。
計量標準供給制度のポイントとなる登録事業者は、国と産業界との間に位置し国の認定を受けて特定標準器(国家標準)により校正された特定二次標準器または特定二次標準器により校正された常用参照標準器を用いて実用標準器の校正等を行い、この計量器の校正結果に基づいて公的な「JCSS」ロゴマーク付き校正証明書を発行することができる。つまり、一般ユーザにたいして校正サービス事業を行うことができる。

(4) 校正対象圧力計
登録事業者が校正し、JCSS校正証明書を発行できる計量器は、従来の重錘形圧力天びん、液柱形圧力計の他デジタル圧力計、機械式圧力計、圧力変換器にも拡大された。

図2.JCSS校正対象圧力計

3.不確かさ

以前は、測定値の確かさを表す表現として「誤差」が使用されていた。
誤差とは、測定された値と「真の値」との差を言うが、誤差を知るためには「真の値」が分からなければならないという矛盾を抱えており不都合が生じていた。このため、真の値を想定せず表現できる定義として不確かさという概念が取り入れられるようになった。
不確かさとは、「測定値に付随する、合理的に測定量に結びつけられ得る値の広がりを特徴づけるパラメータ」と定義付けされており、このパラメータは標準偏差(またはその倍数)であってもよく、あるいは信頼の水準を明示した区間の半分の値であってもよい。合理的に測定量に結びつけられ得る値とは、測定量によって変化する測定の結果すなわち測定値(必要な補正を行った後の値)に相当する。
即ち、不確かさとは、測定結果の疑わしさを数値で表したものであり、測定値のばらつきの大きさを数値で表したものである。
標準偏差で表した不確かさを「標準不確かさ」、また測定結果がいくつかの他の量の値から求められる場合、その測定の結果の不確かさを「合成標準不確かさ」、更に実用面の要求から「測定の結果について、合理的に測定対象量に結びつけられ得る値の分布の大部分を含むと期待する区間を定める不確かさ」として「拡張不確かさ」が定義されている1)

4.当社のJCSS校正の範囲と能力

当社は、圧力計測機器の専業メーカとして、圧力の計量標準供給体制を整え、1998年12月24日付けで「圧力」区分の登録事業者として認可された。これにより、圧力の国家標準にトレーサブルな圧力計測機器を提供すると共に、重錘形圧力天びん、機械式圧力計、デジタル圧力計においてJCSS校正証明書の発行に対応している。

4.1 当社のJCSS校正の範囲

当社が対応しているJCSS校正範囲は表1のとおりであり、幅広い圧力範囲をカバーしている。

表1. 長野計器のJCSS校正範囲
圧力の種類 校正範囲
絶対圧力 10kpa以上  350kPa以下
ゲージ圧力(負の気体圧力) 80kPa以上  -10kPa以下
ゲージ圧力(正の気体圧力) 10kPa以上   7MPa以下
ゲージ圧力(正の液体圧力) 1MPa以上  500MPa以下
気体差圧 5Pa以上   200kPa以下

4.2 当社のJCSS校正の能力

図3~図5は、重錘形圧力天びん、デジタル圧力計、機械式圧力計における当社のJCSS校正能力を示しており、横軸は圧力値、縦軸は不確かさである。
ここで、重錘形圧力天びんを例に、その内容を説明する。
重錘形圧力天びんの校正可能な最大圧力は500MPaであり、不確かさは65kPaである。また、緑色の丸印は気体絶対圧で最小圧力10kPaに対して不確かさは2.4Pa、青色の丸印は気体ゲージ圧で最小圧力10kPaに対して不確かさは0.55Paである。
何れも、不確かさが小さく、信頼性の高い校正能力を有している。

図3. 重錘形圧力天びん JCSS校正能力
図4. デジタル圧力計 JCSS校正能力
図5. 機械式圧力計 JCSS校正能力

4.3 当社の圧力トレーサビリティ体系

具体的な校正対象計器としては、図6に示すように、重錘型圧力計、精密デジタル式圧力計、精密圧力計などがある。また、当社の圧力標準は、前述のとおり、これらに対し十分な校正能力を有している。さらに、当社で製造販売している各種圧力計、微差圧計、圧力スイッチ、圧力伝送器、圧力センサなどは、このトレーサビリティ体系に組み込まれた標準器類によって校正されている。

図6. トレーサビリティ体系

4.4 国際MRA対応認定事業者

メートル条約締結以降100年以上に亘り、計量単位の統一・計量標準の設定が世界的な規模で行われてきた。また、1990年代からの経済の急速なグローバル化に伴い、「計量標準の国際相互承認」(グローバルMRA)という仕組みが提案された。そして、加盟国は、他国の校正・試験データを自国でもそのまま受け入れる「ワンストップテスティング」が実現した。(図7参照)

図7. ワンストップテスティング

当社は、2006年3月に、この国際MRA対応認定事業者として認定され、当社から発行されるJCSS校正証明書は国際的に通用する証明書となっている。
日本の認定機関である独立行政法人製品評価技術基盤機構認定センター(略称 IAJapan)は、国際試験所認定協力機構およびアジア太平洋試験所認定協力機構で相互承認を行っているため、米国(NVLAP、A2LA)、英国(UKAS)、ドイツ(DAkkS)、オーストリア(NATA)などが認定した各国の校正証明書と同等として扱われる。

図8. 国際相互承認

次回に続く-

参考文献

1) JIS Z 8103:2019 計測用語



【著者紹介】
佐藤 浩二(さとう こうじ)
長野計器株式会社 営業企画本部 営業企画部 部長

■略歴
1994年 株式会社長野計器製作所(現 長野計器株式会社)入社
     圧力計の設計業務に従事
2020年 同社 営業企画本部 営業企画部 部長 現職