圧力計測の種類と特徴(1)

長野計器(株)
取締役 長坂 宏

1.圧力とは

圧力とは単位面積に印加される力で定義される物理量である。
連続体の中に任意にとった一つの平面を仮定して、この面に作用する垂直応力を圧力と言う。
圧力の表現方法はその用途によって異なり、「絶対圧力」「ゲージ圧力」「差圧圧力」がある。

絶対圧力
完全真空を零基準にとして表した圧力。
絶対圧力であることを示す場合に、ISOでは、単位記号の後に”abs” あるいは”a”を付すことを推奨している。 また、大気圧より低い圧力を絶対圧力で表す時には「真空度」という。この真空度は、低真空、中真空、高真空、超高真空の4つの区分に分けられている。1)

ゲージ圧力
大気圧を基準(零)として表した圧力。日本国内で一般産業用として多く使用されている圧力計はゲージ圧力で作られている。その場合には表示符号はつけない。なお、負のゲージ圧力(大気圧より低い圧力)をゲージ圧力で表す時は真空圧力という。

差圧圧力
二つの状態圧力の差で表される圧力で、任意の圧力を基準として表した圧力。

表1-1 圧力の表現方法

2.圧力の単位

圧力単位は、現在、国際基準「SI単位」に統一されているが、それぞれの国や用途によってSI単位以外の表記も使用されているのが現状である。
主な単位を表に示す。

表2-1 主な圧力の単位
圧力の単位 Pa bar Kgf/cm2 atm H2OHg Torr psi
備考 主な単位への換算
1Pa=1N/m2
1kPa=0.1N/cm2
1MPa=1N/mm2
上記単位は非SI単位。
計量法改正(1993年)後、基本的に使用することはできない。
しかし、非SI単位は上に記載されていないものも含めて、
例外的に国防や航空製品などには経済産業省の許可を得るに必要がある。
また、血圧は非SI単位のmmHgが使用されている。

3.圧力計測(方法)の種類

圧力の程度を計測する場合には印加される圧力によって生ずる力、変位(変形)、歪を利用する。
また、この力、変位や歪みを機械的機構によって処理し、表示など定量化する方法。
電気的な機構によって処理、定量化する方法がある。
主な圧力計(圧力センサ)の分類を表3-1に示す。
以降、この分類に従って圧力計測方法の特徴を入門編として解説する。

表3-1 圧力計測の種類2)
機械式圧力計 圧力センサ(変換器)
アネロイド型 重錘型 液柱型 歪ゲージ型 静電容量型 振動型 光ファイバー

4.機械式圧力計

アネロイド型圧力計の種類には起歪体として、ブルドン管、ダイアフラム、カプセルゲージ、ベローズなどを用いたものがあり、そのいずれも圧力の変化に応じて変形する部品を持つことを特徴とする。尚、アネロイド式とは液体を用いない方法を意味するが、近年、液体を用いたものも存在し、厳密な意味は薄らいでいる。
ここでは、ブルドン管を用いた圧力計を中心に述べる。
ブルドン管とは円管を断面方向に扁平させコイル状に成型したもので、その発明者である「フランス人のブルドン」に由来している。
ブルドン管の一端を閉塞させ、他端(圧力の導入口)から圧力を印加すると閉塞端(自由端又は管先)は数mm程度変位する(圧力計の大きさ、圧力レベルなどで変位量は異なる)。
変位は管先に接続したロッドを介して内機に伝わり、内機のリンク機構、セクター(扇型歯車)とピニオン(小歯車)によって、変位が直線運動から回転運動に拡大変換される。
ピニオン軸に固定された指針は印加圧力に比例して回転する。この指針の回転を目盛板で読取る。一般的にブルドン管の外側(ケース内部)は大気圧に解放されるため、ブルドン管はゲージ圧力検出素子である。一部に差圧計測に利用される。図4-1参照。 尚、ブルドン管に圧力を印加したとき、管先には「圧力に比例した変位」が生じ、巨視的にはフックの法則に従っているが、詳細に観察すると必ずしもその法則に従っていない。この現象は一般に材料がもつ特性として知られている。ブルドン管の特性は圧力計の特性を決定する主要因であり、極めて重要である。

図4-1 ブルドン管式圧力計 内部構造

4.1ブルドン管用材料

ブルドン管用材料は圧力の程度(レンジ)、使用用途によって選ばれる。
低圧用では材料の弾性係数(ヤング率)が比較的小さな金属(銅合金など)が用いられる。中圧・高圧用の材料としては主にステンレス鋼が用いられ、素材として利用する管の形成方法も用途によって、溶接で形成するシーム管、圧延によって形成するシームレス管などが利用される。ブルドン管(素子)は30kPa程度の低圧から1GPa程度の高圧まで、極めて広範囲な圧力測定に使用されている。

図4-2 ブルドン管の種類

4.2形状

ブルドン管は丸管(断面円形の真直管)を断面方向から偏平させてコイル状に成型したもので、その形状より、C形、スパイラル型、ヘリカル型などが存在する。図4-2 参照。
どの形状も原理的には同一であるが、C形は生産性に優れるため生産量が多い。スパイラルあるいはヘリカルは巻き数を増やすことにより大きな変位を取り出せる。また、発生応力を下げるなど、特殊な用途(精密計測、調節計)や高圧に使用することが多い。

4.3ベローズ

ベローズは蛇腹形状の弾性素子である。
ベローズは比較的低圧に使用され、5kPa~2MPa程度の範囲で使用される。また、適切な変位を取り出すために一般的には他のばねと併用して使用される。
ベローズは製作方法により、主として成形ベローズと溶接ベローズに分類される。
成形ベローズは板材を絞ってパイプ状とし、油圧成形により製作する。
材質は、燐青銅・ステンレス鋼が一般的である。
溶接ベローズは、あらかじめ同心状に打ち抜いた板材を溶接することにより製作する。
溶接ベローズは、コストが高いため成形ベローズほど一般的ではない。
成型ベローズの形状と成形ベローズと溶接ベローズの断面形状の違いを図4-3 に示す。

図4-3 成型ベローズの形状(左)、ベローズの断面(右)

4.4ダイアフラム

ダイアフラムとは周辺を固定した比較的柔軟な板材からなるエレメントである。
ダイアフラムは、その材料から非金属製と金属製のダイアフラムに分類される。
非金属ダイアフラムでは、主としてゴムが使われ、ほとんどの場合中央部に剛体とみなせるセンターディスクを設け、有効面積 を大きくする方法がとられている。図4-4-1。
金属ダイアフラムでは、フラットな薄板だけのダイアフラムもあるが、ほとんどの場合、特性を改善するため波形に成形される。図4-4-2。
また、センターディスクを設ける場合もある。
金属ダイアフラム単体では、取り出せる変位が小さいため、変位を必要とする場合は図4-4-3のようにダイアフラムを組み合わせた「チャンバ」と呼ばれるエレメントも使用される。
金属ダイアフラムはベローズに比較し、同一の有効面積では直径が大きくなるなど不利な点もあるが、波形と同形状のバックアッププレートを設けることにより、相当過大なオーバー圧力に耐えられるよう設計できる利点がある。 ダイアフラムは主として100Pa~400kPa位の比較的低圧で使用される。

図4-4-1 非金属ダイアフラム
図4-4-2 波型加工された金属製ダイアフラムの断面
図4-4-3 チャンバの断面

4.5重錘型圧力計

重錘型圧力計は、測定圧力をピストン・シリンダ機構によって力に変換し、この力を重錘に働く重力と釣り合わせて測ることにより圧力値を求める方式のものである。 重錘型圧力計は、ピストン・シリンダ部と重錘(群)とを基本構成要素とし、通常これに配管系・加圧ポンプなどの圧力発生部を付帯させて構成されている。図4-5-1。

<測定原理>
圧力の定義は「単位面積当たりの力」であるから、面積と力を規定できれば圧力を規定する事ができる。
重錘型圧力計では、「単位面積をピストン・シリンダの有効面積」、「力を重錘の質量に作用する重力加速度によって生じる力」により規定する。
測定原理を図4-5-2に示す。

<重錘型圧力計の使用上の注意点>
詳細は取扱説明書を参照しなければならないが、原理的な面で注意すべき点を次に挙げる。

  • ピストンの面積は、使用圧力その他の点を考慮して決定されているので機種毎に異なる。
    このため、重錘に刻印されている圧力値は指定された面積の時にその圧力を発生する。
    従って、使用する重錘は必ずその重錘型圧力計に適合したものかどうか事前に確認する。

  • 重錘型圧力計は、重力加速度を利用して圧力を発生するので、ピストンは必ず鉛直方向に位置しなければ正確な圧力は発生しない。
    装備されている水準器などにより、あらかじめ重錘型圧力計の取付方向を確認しなければならない。

  • 重錘型圧力計は、その原理上重力加速度が変化すると発生圧力が変化する。
    一般的に使用されている精度0.2%の重錘型圧力計は、国内で使用される限りこの誤差が精度以内であるため特に問題とはならないが、これより精度の高い重錘型圧力計で高精度な測定を必要とする場合は、この点を考慮しなければならない。

  • ピストン・シリンダ間の摩擦を除去するため、重錘は回転しなければ正確な圧力は発生しない。

図4-5-1 重錘型圧力計の構造
図4-5-2 測定原理

4.6液柱型圧力計

液柱型圧力計にはU字管式、単管式、傾斜管式などがある。
一般的には、ガラス管と密度が正確に知られている液体とが用いられ、液体に作用する重力加速度によって発生する力を利用して基準の圧力を知る方法である。
液体には通常、水銀あるいは水が使用される。
液柱型圧力計はその構造的な面から、低圧力用に用いられる。
高圧力ではガラス管の長さが長くなること、またガラスでは高圧力に耐えられないこと等の理由による。

図4-6-1 U字管式圧力計の原理


U字管式は、図4-6-1に示すようにガラス管をU字状に加工し内部に液体を注入したもので圧力はそれぞれのチューブに導入する。
ゲージ圧力を測定する場合は、P1を大気に開放する。
圧力は液面の高さの差hを測定し本式により知ることができる。

h =(P2-P1)/ρg
P2=ρgh+P1

P1 : 大気圧力(ゲージ圧)
P2 : 測定圧力
ρ: 液体の密度
g: 重力加速度
h: 液柱高さの差

<単管式>
図4-6-2に示すように、単管式はU字管式の一方のチューブの受圧面を大面積にしたもので、大面積側の液面変化が無視できるものとして液面高さhを測定する。
一般的にこの場合はP1を大気に開放し、P1側の液面高さのみを計測し圧力P2を測定する。
このため、U字管に比べ測定が簡便であるというメリットがある。

<傾斜管式>
傾斜管式は図4-6-3に示すように、単管式のチューブを傾斜させたもので、読み取り長さを拡大することにより、高精度な読み取りを可能にしたものである。
圧力は次式により計算できる。

P2-P1=ρ・g・L・sinα
P2=ρ・g・L・sinα+P1

図4-6-2 単管式圧力計
図4-6-3傾斜管式液柱型圧力計

次回に続く-

参考文献

1) JIS Z 8126 : 1999 真空技術 用語

2) 圧力計技術の発展の系統化調査 2010 国立科学格物館技術の系統化調査報告 第15集



【著者紹介】
長坂 宏(ながさか ひろし)
長野計器(株)取締役

■略歴
1982年 株式会社長野計器製作所(現 長野計器株式会社)入社
     圧力センサ研究・開発業務に従事
2020年 同社 営業企画本部 取締役  現職