超音波ドップラー式流向流速プロファイラー(ADCP)の技術とその応用(1)

Nortekジャパン合同会社
代表 國分 祐作

1.はじめに

ドップラー効果を応用した水中の流れを計測する機器は、計測技術が確立して以来、河川や海洋を中核とする地球環境の調査に広く用いられてきた。近年では、流れ(流向・流速)の情報に加え、より複雑な水中の現象の解明(海洋乱流等)や新しいアプリケーション(水中・海上ナビゲーション等)にその技術が応用され始めている。

本稿では、超音波ドップラー式流向流速センサの原理と技術、そして近年の計測ニーズに対応した新しい計測機器について紹介する。

2.計測原理について

2.1 超音波ドップラー式流向流速プロファイラー(Acoustic Doppler Current Profiler、ADCP)の原理
ADCPは、世界中の海洋、汽水域、湖沼、河川といった場所において、水の動きを計測する機器として広く使用されている。ADCPは探触子(トランスデューサー)から水中へ高周波音波を発信し、水中の粒子からの音響反射を計測する。この計測値から、発信音波と受信音波の周波数の違い(ドップラーシフト)を求め、音波が当たった水中粒子の移動速度、すなわち流速を算出する(図1)。
ADCPは探触子より音波を発信した後、すぐに受信モードに切り替わり、同じ探触子で水中の粒子から反射されてきた音波を受信する。探触子に近い粒子からの音波の反射は即座に、遠い粒子からの反射は遅く探触子へ戻るため、次々と戻ってくる音波を記録することで、距離の順に並んだ流速データが取得できる。これにより、一度の音波発信で複数の地点の流速を計測することが可能となる(図1)。

図1:左上)ドップラーシフトのイメージ、左下)移動している粒子に対し音波を当てた際に起こるドップラーシフトのイメージ(vは粒子の移動速度、Ftは探触子から発信された音波の周波数、cは音速)、中央)ADCPの流速計測地点のイメージ(計測地点はCellと呼ばれる)、右)現場設置のイメージ(Nortek社Aquadopp Profiler)
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ドップラーシフトは、音波が進行する方向についてのみ検知できる(一次元流速)。ADCPでは、三次元流速を計測するために3つ以上の異なる角度を持つ探触子を設け、それぞれの探触子で計測された一次元流速に対し探触子の設置角度をもとに三角法を適用して、一次元流速から三次元流速へ変換している。内蔵の方位センサを使用することで、さらに東西南北上下方向(ENU)の流速への変換も可能である。

2.2 ADCPのコア技術である探触子について
ADCPの最も重要な構成要素は、音響シグナルの送受信を行う探触子である。ADCPの探触子には、電気信号を音波に変換して水中へ発信する役割と、水中からの音響反射を捉えて電気信号へ変換し、測器内部のCPUへこの信号を伝える役割がある。
探触子には平たいセラミック盤が用いられ、紙程度から1cm程度の厚さまで用途に応じて選択されている。セラミック盤は他の形状のセラミックに比べ高圧下で損傷を受けやすいが、指向性と正確な応答を実現するために採用されている。探触子に求められる構成要素は、振動を可能にしつつも確実な保持が可能な特殊なバッキング部材、多孔質なセラミックへ水の侵入を防ぎながらも音波に影響を与えにくい防水ハウジング、そして数千メートルの深度における高圧にも耐えられる構造である。さらに近年の高性能なADCP用探触子の開発と安定的な製造には、技術の蓄積と工夫に加え、自動化技術の開発も必須である。今日の堅牢で高効率なADCP用探触子は、過去数々のトライアンドエラーにより支えられて実現している。

2.3 超音波ドップラー式流向流速センサの歴史
ソナーが初めて特許登録されたのは1923年、ドップラー効果を使用して流速を計測する技術が米国の特許に登録されたのは1932年であった。しかし、セラミック製探触子と電子部品の製造技術が確立してADCPが初めて誕生したのは、1960年代以降であった。1982年にようやく初めての商用ADCPが米国カルフォルニア州サンディエゴで製造された。1996年にNortek社は、ノルウェー国オスロに本社と工場を設立し、超音波ドップラー式流向流速計の産業に参入した。同社は現在、様々なアプリケーションを持つ先進的な超音波ドップラー式センサとその製品の開発を続けている。

次回に続く-

【著者紹介】
國分 祐作(こくぶ ゆうさく)
Nortekジャパン合同会社 代表

■略歴
2011年 独Leibnitz Institute for Baltic Sea Research 招聘研究員
2012年 JFEアドバンテック株式会社 入社
2014年 東京海洋大学大学院 海洋科学技術研究科 修了 博士(海洋科学)
2017年 Nortekジャパン合同会社 入社
2018年より現職