ジグザグ配線した光アンテナで環境に優しい高感度赤外線検出器を実現

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)は、多数の光アンテナをジグザグ配線で接続した独自の構造を用い、実用レベルの高い感度を持ち、毒性の低い赤外線検出器を実現したと発表した。
※図 : (a) 開発した赤外線検出器の走査電子顕微鏡写真。(b) 構造の説明図。中央に量子井戸層を有する半導体層の上下を金で挟み込んでいる。(c) 様々な検出器温度での感度スペクトル。

〔概要〕
1.NIMSは、多数の光アンテナをジグザグ配線で接続した独自の構造を用い、実用レベルの高い感度を持ち、毒性の低い赤外線検出器を実現した。従来の水銀やカドミウムを含む冷却式の高感度検出器に置き換わり、ガス分析や赤外線カメラに応用されることが期待されるという。

2.ガス分子の多くは赤外域に分子固有の吸収スペクトルを持つため、赤外線は、大気環境中に含まれるガスの分析において重要な役割を果たしている。特にNOx、SOxなど、大気汚染ガスの計測に重要な波長5~10 μmの赤外線の高感度検出には、これまで水銀カドミウムテルライド検出器が用いられてきた。しかし、欧州連合のRoHS指令や近年発効した水俣条約により、有毒な水銀やカドミウムを使い続けることは困難になっており、毒性が低く高感度な赤外線検出器が求められていた。

3.今回、研究チームは、低毒性材料でできた量子井戸を組み込んだ光アンテナをジグザグ配線で接続することにより、従来の検出器に匹敵する高い感度を持つ赤外線検出器を実現した。本検出器では、厚さわずか4 nmの量子井戸が赤外線を電流に変換。光アンテナが入射光で共鳴すると、その電流を大きく増強できるが、電流を取り出すために配線を接続すると、アンテナの共鳴状態は乱されてしまう。本研究では、配線をジグザグに折り曲げて、電磁場が配線を伝わる時間を正確に調整することで、すべてのアンテナの共鳴を維持したまま大きな電流を取り出すことに成功した。

4.本検出器では、量子井戸も光アンテナも各部の寸法で特性が決まるので、設計に大きな自由度がある。今後、高感度で室温動作する究極の赤外線検出器の実現を目指して、開発を加速して行くとしている。
また、ジグザグ配線でつないだ光アンテナは、赤外線検出器に留まらず、赤外光源など様々なデバイスの重要な基盤構造になるものと期待される。

5.本研究は、物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 宮崎英樹グループリーダー、間野高明主幹研究員らの研究チームと、日本大学、東北大学の共同研究によるもの。この研究は、日本学術振興会 (JSPS) 科学研究費助成事業 (15H02011, 17H01275, 19H00875) 、池谷科学技術振興財団の支援により行われたとのこと。

6.本研究成果は、Nature Communications誌にて日本時間2020年1月28日にオンライン掲載された。また、応用物理学会春季学術講演会 (上智大学、2020年3月13日) にて口頭発表するとしている。

プレスリリースサイト(NIMS):https://www.nims.go.jp/news/press/2020/02/202002040.html