IoT時代の光ファイバセンサー(2)

梶岡 博
((株)グローバルファイバオプティックス 代表取締役)

3.光ファイバセンサー

3.1 光ファイバ

光ファイバが登場しておよそ半世紀が過ぎた。光ファイバは図3.1に示すようにコアとクラッドと被覆から構成される。ほとんどの光ファイバはコアの屈折率がクラッドより大きく光はコアとクラッドの界面で全反射を繰り返して伝搬する。コアの大きさとコアとクラッドの屈折率差で伝搬するモード数が決まる。光ファイバの構造上の分類を図3.2に示す。光ファイバはモード数、屈折率分布、材質、機能によって分類できる。

図3.1 光ファイバの構造
図3.2 光ファイバセンサーの分類

光は比較的波長の短い電磁波である。図3.3に電磁波の周波数(波長)と伝送できる材質を示す。現在までに紫外からテラヘルツまでの光ファイバが製品化されている。特殊な機能の光ファイバとしてパワー伝送用ファイバがある。熱によるダメージ閾値はコアが純水石英の場合1GW/cm2である。コア直径が500μm、NA=0.22の場合に1.96MWまで伝送可能である。パワー伝送用ファイバは主に医療用に使われるが近年通信用の光ファイバで10W程度のパワー伝送ができ、カメラを駆動できたという報告がある。
MEMSなど低消費電力のセンサーの駆動は光ファイバによる電力伝送で可能となっている。

図3.3 各種材質ファイバと伝送できる波長

3.2 光ファイバセンサー

光には強さ、周波数(波長)、位相、偏波面の4つの属性がある。光ファイバセンサーの概要を図3.4に示す。光ファイバセンサーは温度や歪などの物理量が変化した場合に上に述べた光ファイバを伝搬する光の属性の変化を種々の効果を利用して計測する。この場合光ファイバ自体がセンサーの場合はintrinsicと呼ばれる。物理量などの変化を検出する部分が光ファイバの外部にあり、光ファイバは単に信号伝送に用いられる場合はextrinsicと呼ばれる。

図3.4 光ファイバセンサーの概要

さて光ファイバセンシング技術の発展は光ファイバ通信の開発経緯と平行するが本格的にR&D成果が国際的に共有されるようになったのは1983年にロンドンで開催された第1回の光ファイバセンサー国際会議(OFS-1)以降である。その後OFSは18か月ごとに各国持ち回りで開催され、昨年4月に韓国済州島で第25回が開催された。本年は9月にスイスで第26回の開催が予定されている。このように光ファイバセンシングに関してはこれまで様々な種類の物理量のセンシングが検討されて来た。また啓蒙的な論文や書籍も多数存在する。参考になる文献を2つ上げると、ひとつはWileyが2002年に発刊した “Handbook of Optical Fibre Sensing Technology”, Jose Miguel Lopez-Higuera (editor) , もう一つは光防災センシング振興協会が2013年に発刊した「光ファイバセンサ入門」である。特に前者は828ページの書籍で光ファイバが登場してから約25年間に開発された光ファイバセンサーが網羅されている。筆者も第28章で”Fiber Optic Gyroscope for Industrial Applications” を執筆している。

さて光ファイバセンサーには本質的に軽量、小型、多重化が可能、電磁誘導を受けない、安全防爆性、センサー部に電源を必要としないなどの多くの特徴がある。特に石英系光ファイバには広帯域・低損失性があるので分布センサーや準分布センサーで広範囲な環境のモニターに適用できる。分布センサーは光ファイバ内のレーリー散乱やラマン散乱、ブリルアン散乱などの非線形散乱やファイバブラッググレーティングなどの後方光を利用する。表3.1に光ファイバ分布型計測方法の比較を示す。

表3.1 光ファイバ分布型計測方法の比較

はじめにBOTDRによる光ファイバの長手方向に分布した歪のセンシングについて説明する。本センサーは図3.4の分類によれば光ファイバ自体の非線形性を利用するのでintrinsicなセンサーであり光ファイバの非線形現象を利用して後方散乱光の信号光に対する周波数シフト(ストークス光)を計測するものである。一般にブリルアン散乱光の強度は微弱なので歪の位置精度を向上させるために解析時間が数分程度かかる。しかし近年東工大の水野洋輔助教と中村健太郎教授らがブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)という 入射光に巧みな周波数変調を施すことで、特定の箇所で生じたブリルアン散乱信号のみを選択的に抽出し、分布測定を実現する手法で計測時間を3桁以上改善したという報告がある。また東工大の中村研究室では光ファイバとしてグレーディッド(GI)型屈折率分布を有するPOF(プラスティックファイバ)を用いて50~100%の伸び歪をBOTDRで測定する研究がおこなわれている。

図3.5 ROTDRを利用した光ファイバ温度レーダ

次にROTDRによる分布温度センシングについて説明する。図3.5に測定系を示す。本センサーも光ファイバ自体の非線形性を利用するのでintrinsicセンサーである。このセンサーの原理はラマン散乱のストークス光とアンチストークス光の強度の比が絶対温度の関数となるというものである。通常は温度の計測精度が±1~2度である。また位置情報は1mおきである。日立金属(旧日立電線)の温度レーダFTRはこの原理による。光ファイバは石英系のマルチモードGIファイバやSMファイバが使われている。次に光ファイバとして図3.3に示したカルコゲナイド系As2S3ファイバを使ったROTDRの例を紹介する。出典はオーストラリアのシドニー大学とDefence Science and Technologyのグループによる論文”Chalcogenide fiber-based distributed temperature sensor with sub-centimeter spatial resolution and enhanced accuracy” Optics Express、Vol. 22,Issue 2,pp. 1560-1568(2014)である。本論文によるとカルコゲナイドファイバの高ラマン非線形係数により、空間分解能は数cmで温度制度は計測時間2分、5秒での温度制度はそれぞれ±0.65度C,0.2度Cであった。同ファイバの伝送損失は石英系に比べてかなり大きいので計測レンジは数mであるがエンジン内部の微細な温度分布のセンシングに適している。

本章の最後に最新の光通信の国際会議における光ファイバセンシングの動向を紹介する。OFC2018では”Optical Fiber Sensors”というカテゴリーで6件、ECOC2017では”Fibre Characterisation and Sensing”というカテゴリーで2件、ECOC2016ではポスターセッションで1件の合計9件の発表があった。
表3.2に9件の発表の要点を示す。3つの国際会議の発表を見ると光ファイバの広帯域低損失性を活用した分布型センシングが多くみられる。またSMD用に開発されたマルチコアファイバやFewモードファイバなどの新規な光ファイバの計測への適用が検討されている。OFC2018のW1K.4は蜘蛛の糸(たんぱく質)をコアとしたいわゆるUnclad(空気コア)ファイバのセンサーへの適用の研究であるが、スイスのローザンヌ工科大、ベルギーのGhent大、英国オックスフォード大とカナダのCCTT-Optechの連名であり精力的な研究がおこなわれている。蜘蛛の糸は可視域から1400nmまで伝送損失が数dB/kmで高い複屈折率(~10-3)を有していることがわかった。口から20cm離れたところの息による湿度変化が計測できている。

表3.2 最近の国際会議のセンサー関連の発表論文