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精密計測グレードの精度を備えたトラッキング式プローブ測定システム「TRACKPROBE」

SCANTECHの日本正規代理店、APPLE TREE(株)は精密計測グレードの精度を備えたトラッキング式プローブ測定システム「TRACKPROBE」の販売を開始した。


本製品は、高精度、携帯性、便利な使いやすさが特徴で、広範囲、長距離、複雑な形状や厳しい環境下での測定ニーズに対して容易に対応する。
製造現場では、治具のセッティングから罫書き作業、小さな部品から建設機械などの大きな構造物までTrackProbeはいつでもどこでも高精度な3次元測定を行うことができる。
固定設置する必要がなく、測定する部品の場所に簡単に持ち運んで、あらゆるサイズの対象物を測定できる。

◎TRACKPROBEの特徴
■広範囲に拡張できる測定範囲
i-Probeは、i-Trackerとの組み合わせにより、標準作業距離は6m、1ステーションの最長測定距離は10m。大規模な測定作業においても、ワンストップで高精度な3次元測定を実現する。

■高いパフォーマンス・正確な測定
高精度の光学センサ技術と独自のアルゴリズム処理により、測定対象物の幾何学的特徴形状・幾何公差を正確に検出・測定することができる。 体積精度は、49.0m³の測定範囲内で0.089mm、28.6m³の測定範囲内で0.067mm、10.4m³の測定範囲内で0.049mm。

■深く隠れた場所の測定に最適
i-Probeの長さは500mm(スタイラス長を除く)であることと、高度なアルゴリズム技術と組み合わせることで、対象物の一部が遮られても正確に検出でき、基準穴や隠れた箇所などの主要部分の3次元データを容易に取得できる。測定エリアが大幅に拡大し、測定がより便利になり、柔軟性が高く、複雑な内部構造、パイプ、穴、自動車部品や航空宇宙部品などの特殊形状ワークの測定に特に適している。

■動的トラッキング機能によるノンストップ測定
トラッカーの可視範囲内で、トラッカーはプローブの位置と姿勢をリアルタイムで追跡することで、i-Probeは自由に移動する事ができる。対応する座標系に自動で位置合わせを行うことで、プローブを再追跡することなく測定の継続性を確保できる。

■2種類のデータ転送モード
TRACKPROBEは有線と無線の両方の転送モードに対応しており、無線モードを使用することでケーブルなど機械的な制約を受けること無く、現場測定の作業性が向上する。有線モードでは、特殊な状況下でのデータ転送の安全性と信頼性を確保することができる。

■多様な環境下でも安定した対応
i-Probeは軽量で持ち運びに優れており、安定した信頼性の高い性能を持ち、振動、温度、湿度、光などの外的要因の影響を受けにくく、ダイナミックレファレンシング機能(動的測定機能)と組み合わせることで、位置ずれを計算・補正する。
これにより作業現場や屋外環境でも高精度な動的追従測定が可能で、複雑な曲面や高精度部品、大型構造部品などであっても正確な三次元測定が可能である。

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000076.000030909.html

TOPPAN、手軽に没入体験を実現する 「CX CRUISING™ Immersive Base™」の提供

 TOPPANホールディングスのグループであるTOPPAN(株)は、2022年より3面マルチモニターとヘッドマウントディスプレイのセットにより、360度映像、メタバース、遠隔地とのライブ中継など、さまざまな空間体験を実現するサービス「CX CRUISING™」を提供している。
 このたび、「CX CRUISING™」シリーズの新ラインアップとしてテントを活用した映像鑑賞により没入体験を実現する「CX CRUISING™ Immersive Base™(読み:シーエックスクルージングイマーシブベース)」(以下、本サービス)を、メーカー・流通・出版・旅行業界や自治体などのプロモーション用途を中心として2024年4月5日より提供を開始した。
 本サービスは、組み立てが簡易なオリジナルテントと360度VR映像投影システムを組み合わせ、ヘッドマウントディスプレイを着用することなくコンテンツへの没入感が高い鑑賞体験を提供するもの。本サービスを活用することで、場所を選ばず手軽に没入型体験の共有を実現し、効果的な商品理解やコンテンツの認知度向上、ファン化を支援する。

「CX CRUISING™ Immersive Base™」の特長

・どこでも手軽にイマーシブ体験を実現
少人数のスタッフで設営可能な移動式テントをスクリーンとしているため、専用施設や大型スクリーン、大型プロジェクターが不要。これにより、商業施設のイベントスペースや会議室など様々な場所でイマーシブ体験の提供が可能である。また、手軽なテント式により、専用施設と比較して設置の手間とコストも削減できるため、期間限定のイベントなどにおいても活用ができる。

・ヘッドマウントディスプレイが不要で一度に複数人での鑑賞が可能
 特殊な魚眼レンズを付帯することで、1台で4面分の360度VR映像投影が可能なプロジェクターを搭載しています。オリジナルテント内部に映像が投影されるため、ヘッドマウントディスプレイの使用は不要で、従来は一人ずつしか体験できなかった没入体験を複数人(10名程度)同時に鑑賞しながら、感動の共有ができます。ヘッドマウントディスプレイ装着の準備時間も不要となるため、スムーズな映像コンテンツの提供が可能です。

・コンテンツ制作からプロモーション運用までトータルでサポート
 TOPPANグループはこれまで培った高精細な印刷技術に基づいた高品質な映像コンテンツの制作や、イベントの企画運営ソリューションまで幅広く提供しています。「CX CRUISING™ Immersive Base™」の利用におけるコンテンツ企画・制作やイベントの企画・運営、プロモーション施策まで、導入先のイベント全体を支援するという。

■価格
・販売価格:400万円〜(税抜き)
 ※コンテンツ制作費用は別途必要。
■仕様
・テントサイズ:300×300×237cm(幅×奥行×高さ) ※組み立て時
・収容人数:約10名程度

プレスリリースサイト(toppan):
https://www.holdings.toppan.com/ja/news/2024/04/newsrelease240405_1.html

ST、パナソニック社の電動アシスト自転車にエッジAI機能を提供

STマイクロエレクトロニクス(以下ST)は、パナソニック サイクルテック社(以下、パナソニック社)の電動アシスト自転車「ティモ・A」にSTM32F3マイクロコントローラ(マイコン)およびエッジAI開発ツール「STM32Cube.AI」が採用されたことを発表した。
STのエッジAIソリューションは、先進的なAI機能を活用したタイヤの空気入れタイミングお知らせ機能を実現し、自転車ユーザの安全性や利便性の向上に貢献するという。

パナソニック社は、日本国内における電動アシスト自転車のリーディング・カンパニーとして、さまざまなニーズに合わせた幅広い製品を日本市場に展開している。STM32F3マイコンが搭載されている同社の通学用電動アシスト自転車「ティモ・A」には、モータの回転数やスピード・センサの情報をもとにAIでタイヤの空気圧を推定し、空気圧センサ無しで空気入れタイミングの目安を液晶スイッチに表示する革新的なAI機能が実装されている。STのエッジAI開発ツール「STM32Cube.AI」により、STM32F3マイコンの内蔵メモリのみでこのエッジAI機能を実現することができた。この新機能は、タイヤの空気圧メンテナンスを簡略化するとともに、ユーザの安全性向上や、タイヤをはじめとする自転車部品の寿命延長に貢献する。また、空気圧センサなどの追加のハードウェアが不要なため、コストや設計工数の削減にも貢献しているとのこと。

技術情報
「ティモ・A」に採用されているSTM32F3マイコンは、Arm® Cortex®-M4(最大動作周波数72MHz)をベースに、128KBのFlashメモリや、モータ制御に最適な高性能のアナログ / デジタル・ペリフェラルを豊富に搭載している。空気入れタイミングを知らせる新機能に加え、電動アシスト量制御やモータ制御も行っている。

STM32Cube.AIは、AI機能の開発全体を通じて、ニューラル・ネットワーク(NN)モデルのサイズ縮小や、メモリ割当ての最適化に貢献している。STM32Cube.AIは、無償で提供されるSTのエッジAI開発ツールで、一般的なAIフレームワークによる学習済みNNモデルをSTM32マイコン用コードに変換および最適化することができる。これにより、パナソニック社によって開発されたNNモデルを迅速かつ簡単にSTM32F3マイコンに最適化し、限られた容量のFlashメモリへの実装を実現している。

STは、社会のあらゆるシーンで使用される機器へのエッジAIの普及に向けて、包括的なエッジAI開発エコシステムを提供している。STM32Cube.AIに加え、機械学習ライブラリ自動生成ツール「NanoEdgeAI Studio」も含まれている。また、これらのツールは近日提供が開始される開発ソフトウェア & ツール統合セット「ST Edge AI Sutie」に含まれており、いずれも無償で使用可能である。

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001375.000001337.html/a>

オープンデータから広がるセンサデータ活用(1)

大島 正美(おおしま まさみ)
(一社)データクレイドル
代表理事
大島 正美

1.はじめに 社会とデータ

 新型コロナウイルス感染症により、経済活動、行政サービス、働き方、医療、教育、防災等様々な分野で社会と価値観の変容がもたらされた。また、デジタル化が急速に進展し、社会はデータであふれている。
 人の行動ログデータ、機械の稼働ログデータ、センサデータ、生体データ等、大量に生成されるデータが、人やAIの知識や判断の材料になり、暮らしやビジネスの改善・向上に活用されている。誰もがデータ消費者であり、データ生成・発信者になっている。

(図-1 社会はデータであふれている)
(図-1 社会はデータであふれている)

表-1 生成方法によるデータの種類
生成方法によるデータの種類 説明
行動ログデータ 人が行動することで、購買や健康等の様々なデータが蓄積される。誰がどのデータにアクセスしたかというアクセスログも行動ログの一種。
機械の稼働ログデータ、センサデータ 機器や都市に設置されたセンサから自動収集されるデータ。一定間隔で取得するデータ、障害発生時に取得するデータ等がある。
実験データ、調査データ 実験や調査の目的に応じて収集されるデータ。アンケートでは、調査対象の年齢や地域の分布、調査数等、調査結果が偏らないような配慮が必要。
生体データ 指紋や虹彩、顔画像、声、健康情報といった人体に由来するデータ。本人確認や健康管理などに用いられる。

出典:DXリテラシー標準(DSS-L)政府相互運用性フレームワーク (GIF)研修資料1)

2.デジタル化社会におけるデータ戦略

 国は、データは智恵・価値・ 競争力の源泉であるとともに、課題先進国である日本の社会課題を解決する切り札と位置付け、我が国初となる「データ戦略」(2020年12月データ戦略タスクフォース第一次とりまとめ)及びその具体的な取組の方向性となる「包括的データ戦略」2)(2021年6月)を策定した。
 Society 5.0 の実現をビジョンに定め、その実現に向けた基本的行動指針として、①データがつながり、いつでも使える、②データを勝手に使われない、安心して使える、③新たな価値の創出のためみんなで協力するよう推進していく というデータ活用の原則が示されている。

【データ活用原則】
① データがつながり、いつでも使える
・つながる(相互運用性・重複排除・効率性向上)
・いつでもどこでもすぐに使える(可用性・迅速性・広域性)
② データを勝手に使われない、安心して使える
・自分で決められる、勝手に使われない(コントローラビリティ・プライバシーの確保)
・ 安心して使える(セキュリティ・真正性・信頼)
③ 新たな価値の創出のためみんなで協力する
・みんなで創る(共創・新たな価値の創出・プラットフォームの原則)

 この「データ戦略」の基本的な考え方の中で、リアルタイム性を有するデータについて、以下のように特筆されている。
「リアルタイムデータを含む膨大な量のデータを生成、収集 、活用し、日本の豊かな人間社会と新たな価値を創出し、日本の国力を強化 するためには、国民や行政機関、企業、アカデミア等がデータに対する認識を共有する必要があることに留意すべきである。」
人々が地域や社会の状況や変容をいち早く把握し、スピーディに対応するために、リアルタイム性を有するデータは重要な役目を持っており、リアルタイム性を有するデータを生成するセンサに寄せる期待は大きい。

出典:デジタル庁「包括的データ戦略2)



次回に続く-





【著者紹介】
大島 正美(おおしま まさみ)
一般社団法人データクレイドル 代表理事

■略歴
民間企業研究所において情報検索業務に従事後、独立し起業、地域中小企業の情報検索・活用を 20 年余り支援。2012 年より NPO 法人地域 ICT 普及協議会設立、理事として遠隔医療や在宅医療介護連携などICT を活用した地域課題解決に取り組み、2015 年(一社)データクレイドル設立、理事就任。地域でオープンデータ推進、データ活用促進、データ活用人材の育成に取り組む。2022 年4月代表理事就任。

デジタル庁オープンデータ伝道師
総務省地域情報化アドバイザー
国土交通省「中国圏広域地方計画学識者等会議」委員

センサ・ネットワークは宇宙に(1)

三田 典玄
(株)オーシャン
IoT事業部長
三田 典玄

1.【D2Dとは】

IoT(Internet of things)という単語が使われるようになって、既に10年以上の時間が経つ。今年2024年に新たに出現したキーワードは「D2D(Direct to Device)」だ。このキーワードだけでは何と何が「ダイレクト」なのかがわからないだろう。実は「D2D」は「衛星と地上のデバイス」という意味だ。

2.【Starlinkが拓いた道】

2022年後半に、あのイーロン・マスクが作った会社「SpaceX(Space Explosion Inc.,)」が、衛星と地上を直に接続する安価で一般庶民でも買って使うことのできるインターネット接続サービス、「Starlink」サービスを始めた。日本でも2022年11月に、サービスが開始され、かくいう私自身も、2023年1月に個人でStarlinkのハードウエアを購入し、以降、今日まで使い続けている。ハードウエアの購入費用36,500円。毎月の最低接続料金6,600円。まさに庶民に手の届く「衛星インターネット接続サービス」だ。クレジットカード払いで、1週間ほどでアンテナとルーターのセットが首都圏の私の自宅に届いた。2024年2月現在、Starlinkの日本での企業向け代理店はau/KDDI(株)となっている。

図 2: SpaceX社の販売ホームページより
図 2: SpaceX社の販売ホームページより
(https://www.spacex.com/)

3.【Amazonも参入する「衛星」ビジネス】

また、2024年後半には、あのAmazonがStarlinkのようなサービスを開始する、とアナウンスされており、2024年の2月現在、様々な情報が飛び交っている。噂によれば、Starlinkと同じようなサービスを、Starlinkとほぼ同じか、あるいはさらに安く提供するとのこと。

図 3: Amazon/Project Kuiperの人材募集のページより
図 3: Amazon/Project Kuiperの人材募集のページより
(https://www.spacex.com/)

4.【衛星コンステレーション】

これらのStarlinkが先陣を切った「一般消費者向け衛星インターネットサービス」は、数千から数万のインターネット基地局になる、低軌道に打ち上げた衛星をお互いにメッシュ状に接続し、地上のインターネットサービス・プロバイダに接続する。Starlinkの日本の地上局はau/KDDIが担っており、Amazonのサービス「Project Kuiper」は、NTT docomoが担う事になっている。低軌道のため、地上との通信の遅延は非常に少ない。しかし低軌道の衛星では静止衛星ができないため、数千から数万の衛星を打ち上げて、それらがとっかえひっかえ地上と通信をする。要するに日本の携帯電話事業の最初に作られた基地局切り替えのハングオーバーの技術が使われている。この衛星インターネットサービスを担うこの仕組みを「衛星コンステレーション(Constellation – 星座)」と言う。

図 4: 衛星コンステレーションのイメージ図
図 4: 衛星コンステレーションのイメージ図
(https://economictimes.indiatimes.com/news/science/)

5.【D2Cが】

2023年、ワシントンD.Cで開催された「Satellite 2023」には多くの西側諸国の衛星関連ビジネスマンが集い、様々なビジネスが始まった、というのが、Satellite 2023を訪れた方々の印象だったようだ。さらに、2023年1月にラスベガスで開催されたCES(Consumer Electronics Show)では、さらに進んで、衛星と家庭等に置かれた地上局ではなく、衛星と現在普通に使われている4G/5Gのスマートフォンとの接続のデモも行われた。これは「Direct to Cell(Phone)」と呼ばれた。略して「D2C」だ。考えて見れば、現在のスマートフォンの基地局を低軌道の衛星に載せただけ、とも言えるが、もちろん、様々な特許と工夫の塊だ。

図 5: ViaSatelliteサイトより、衛星とスマートフォンの直接接続実験の記事
図 5: ViaSatelliteサイトより、衛星とスマートフォンの直接接続実験の記事
(https://www.satellitetoday.com/)


次回に続く-



【著者紹介】
三田 典玄(みた のりひろ)
株式会社オーシャンIoT事業部長

■著者略歴・他
インターネットを日本に持ってきた一人。
元 韓国・慶南大学校教授
元 東京大学先端技術研究所協力研究員
元 産業技術総合研究所特別研究員
元 台湾新聞日本語版副編集長。
現在、株式会社オーシャン(鹿島道路グループ)IoT事業部長。IoTのセミナー&プロダクト開発に従事。

水中無人機の試験評価施設 岩国海洋環境試験評価サテライトのご紹介(1)

岡部 幸喜(おかべ こうき)
防衛装備庁 艦艇装備研究所
岩国海洋環境試験評価サテライト長
岡部 幸喜

1.はじめに

 令和5年4月に閣議決定された第4期海洋基本計画1) において、水中無人機等の海洋ロボティクスも含めた海洋におけるイノベーションの促進がうたわれており、これを受け、我が国の技術的な潜在能力を十分発揮して、国内外のニーズに即したAUVの国産化・産業化の実現に向けて、「自律型無人探査機(AUV)の社会実装に向けた戦略」2)(以下、「AUV戦略」という)が令和5年12月に政府の総合海洋制作本部により策定された。(本稿では自律型無人探査機も含め、水中で利用される無人機を便宜上「水中無人機」と呼ぶ。)
 AUV戦略の策定により水中無人機の各種研究開発や利用の促進が今後推進されていくこととなるが、水中無人機は通信が難しい水中で利用されることから非常に高い自律性を有する必要があり、実用化にはこの高い自律性を十分に試験評価する必要がある。自律性に関する試験評価はあらゆる海洋環境や運用シナリオで行う必要があるが、それらを全て海上試験で行うことは、スケージュールやコスト及び亡失等のリスクの点からもほぼ不可能である。更には、自律性を向上させるための膨大な学習用のデータ取得も必要となる。これらの問題を解決するために、防衛装備庁では陸上で水中無人機の各種試験評価を効率的かつ効果的に行うことができる施設として、令和3年9月1日に岩国海洋環境試験評価サテライト(IMETS)が山口県岩国市に開所した。(図1)

図1 IMETS外観図
図1 IMETS外観図

2.試験装置の概要

 IMETSは、シミュレーション技術を利用することで、①実海面投入前の水中無人機の十分な技術実証、②技術実証に必要な実海面試験回数の低減、③亡失をはじめとする実海面試験に伴うリスク低減を実現するために整備した試験評価施設である。
 試験評価のための主要な装置として、シミュレーション装置である「HILS(Hardware In the Loop Simulation)システム」と大型水槽である「水中音響計測装置」を有しており、これらの装置を用いて仮想的な海洋環境を構築することで水中無人機のシミュレーション試験を実施している。
 シミュレーション試験では、HILSシステム上の仮想空間に多種多様な海洋環境を作り出し、水中無人機の機能・性能をソフトウェアでモデル化したバーチャルの水中無人機(デジタルモデル)を仮想空間内の海洋を航走させることでシミュレーションを行う「マスマティカルシミュレーション」はもちろんのこと、HILSシステムに試験評価の対象となる水中無人機実機を接続することでデジタルモデルと実機を連携させ、実機があたかも仮想空間内の海洋を航走している状態を作り出しシミュレーションを行う「フィジカルシミュレーション」の2つの方式で試験評価等を行うことができる。
 また、水中では音によって周囲の状況を認識することから音響センサの重要性は極めて高いことから、「フィジカルシミュレーション」では、仮想空間の海洋でデジタルモデルの音響センサに入力されるバーチャルの音響信号を大型水槽内に本物の音として再現させ、実機の音響センサがその音を聴いて周囲の状況を認識し行動判断を行うというシミュレーション試験も実施することが可能である。この機能を音響模擬機能と呼んでいるが、これはIMETSにしかない特殊な機能である。(図2)

図2 シミュレーションによる試験評価の概要
図2 シミュレーションによる試験評価の概要

 以下に各装置の詳細について紹介する。

2.1 HILSシステム

 HILSシステムは大きく分けて「モデリング機能」、「シミュレーション機能」及び「音響模擬機能」の3つの機能を有する他、各種水中音響機器の計測機能を有している。
モデリング機能
 水中無人機のデジタルモデルを作成する機能であり、任務の異なるさまざまな水中無人機を評価できるように、水中無人機の形状や運動特性などの水中無人機全体の振る舞いを模擬するプログラム、各搭載機器の機能、性能等を模擬するプログラム及び高度な自律性に必要となる状況認識や行動判断などを行うための管制プログラムを、汎用的に広く利用されているMatlab/Simulink3) で作成することができる。このため、作成した各プログラムは実機への組み込みも容易に行うことができる。
 デジタルモデルのミドルウェアには、拡張性に優れ近年ロボット用ソフトウエアプラットフォームとして多く使用されているROS2(Robot Operating System2)4) を採用している。ROS2は拡張性に優れ、ロボット開発に必要なライブラリとツール群を利用することができる他、外部で作成されたROS2準拠のプログラムを容易に取り込むことも可能である。また、運動やシグネチャなどの水中無人機全体の振る舞いを模擬するプログラムとの通信やデジタルモデルとその他のシミュレーションのプログラムとの間の通信は共有メモリを介したDDS(Data Distribution Service)5) 通信により行っている。(図3)

図3 水中無人機デジタルモデルのソフトウェア構成
図3 水中無人機デジタルモデルのソフトウェア構成

シミュレーション機能
 シミュレーションを実施する海域の海底地形、水温、塩分濃度、潮流等を設定し、これらの海洋環境データを基に仮想の海洋環境をHILSシステム上に作り出している。海洋環境データは一般的に使われているnetCDF(Network Common Data Format)6) 形式で扱っており、外部からのデータを容易に取り込むことも可能となっている。
 また、シミュレーション開始から終了までの水中無人機他の行動を規定するための行動シナリオやミッションシナリオを自由に設定でき、更には水中無人機の搭載機器等の故障等のタイミングや発生内容を設定できる。
 シミュレーション実行中においては、水中無人機の航行状況を3D画面で表示することでシミュレーションの状況を可視的に表示することができるとともに、搭載機器の取得データなどの情報をリアルタイムで確認することができる。
 シミュレーションを行える最大時間は30日間と長時間であるため、シミュレーションを行う前にその時間見積もりを確認できる機能や途中でシミュレーションを中断した場合でもつづきからシミュレーションを再開できる機能を有している。

音響模擬機能
 広さが有限である水槽内で音を送信すると壁面等で音が反射することから音響水槽では吸音材等によって音の反射を抑制している。しかしながら、吸音材では完全に音を吸収できないことから、意図した音を音響センサに入力するには反射音の影響を考慮した音を送信する必要がある。
 これを実現するのが音響模擬機能であり、HILSシステムでは事前に大型水槽内の伝達関数を計測し、その逆フィルタを用いることで壁面等の反射音も考慮した音を音響アレイから送信させることができ、これにより大型水槽内の音響センサにデジタルモデルに入力される音を本物の音として入力することを可能としている。
 音響模擬機能では送受波チャンネルを最大164CHまで対応しており、サンプリング周波数も400kHz以上と音響センサの測定範囲としては十分な帯域を確保している。

図4 音響模擬用の音響アレイ(左側)右側のアレイは水中無人機の音響センサの代わり
図4 音響模擬用の音響アレイ(左側)右側のアレイは水中無人機の音響センサの代わり

水中音響機器の計測機能
 水中無人機の搭載機器務含めた各種水中音響機器の感度校正を行う「感度校正機能」及び水中音響計測装置のトラバーサと組み合わせて水中音響機器の指向性計測を行う「指向性計測機能」を有している。



次回に続く-



参考文献

  1. “海洋基本計画”、閣議決定、令和5年4月28日、
    http://www8.cao.go.jp/ocean/policies/plan/plan04/pdf/keikaku_honbun.pdf
  2. “自律型無人探査機(AUV)の社会実装に向けた戦略”、総合海洋政策本部、令和5年12月22日、
    http://www8.cao.go.jp/ocean/policies/auv/auv_strategy/pdf/auv_strategy2312.pdf
  3. https://jp.mathworks.com
  4. https://index.ros.org/doc/ros2
  5. https://www.dds-foundation.org
  6. http://www.unidata.ucar.edu/software/netcdf


【著者紹介】
岡部 幸喜(おかべ こうき)
防衛装備庁 艦艇装備研究所 岩国海洋環境試験評価サテライト サテライト長

■略歴

  • 1998年防衛庁入庁
    技術研究本部第5研究所(現艦艇装備研究所)においてソーナー関連の研究開発に従事
  • 2015年防衛装備庁技術戦略部技術計画官付総括班長として、岩国海洋環境試験評価サテライトの整備に従事
  • 2021年9月岩国海洋環境試験評価サテライト開所とともにサテライト長として着任、現在に至る。

産業機器、医療機器、スマート・メータ、コンスーマ機器に最適、超低消費電力STM32マイコン

STマイクロエレクトロニクスは、電力効率とコスト・パフォーマンスに優れた汎用32bitマイクロコントローラ(マイコン)「STM32U0シリーズ」を発表した。
同製品は、従来製品と比較して消費電力を最大50%削減可能で、バッテリ寿命の延長に貢献する。これにより、バッテリの廃棄による環境負荷を最小限に抑えることができる。また、バッテリを使用せず小型太陽電池などのエナジー・ハーベスティング・システムのみで動作する機器の設計が可能になるという。

世界的に持続可能性への要請が高まる中、スマート・ビルディングやIoTアプリケーションに導入される技術は、エネルギーやリソースを効率的に管理するうえできわめて重要である。STのマイコンは、これらを可能にするスマート・センサやアクチュエータの中核として使用されており、クラウドの上位アプリケーションと通信しながら、データ収集やフィルタリング、解析、処理といったプロセスを制御する。このようなマイコンは、すでに数十億個が稼働中で、生活環境や職場環境のスマート化が進むにつれて、より多くのマイコンが必要となる。

STM32U0マイコンは、STの最先端の設計技術と先進的な製造プロセスを組み合わせることで、電力効率の飛躍的な向上を実現している。スタンバイ・モードにおける静止時の消費電力がきわめて低く、ウェイクアップ性能に優れているため、より多くの時間を低消費電力のスリープ・モードで使用することで、消費電力の平均値を最小限に抑えることができる。

セキュリティ・システム市場における主要顧客の1社は、STM32U0マイコンを防犯カメラに採用している。動作を検知したときにカメラが起動するため、監視性能の向上と低消費電力化を両立している。きわめて長期間の動作が可能な火災検知器を開発した企業もある。また、Ascoel社はSTM32U0マイコンを使用して、水道メータの超低消費電力機能を制御している。

STM32U0マイコンは、LCDセグメント方式のディスプレイ・コントローラを提供し、コスト効率を向上させる。Ascoel社の水道メータや、サーモスタット、小売店用スマート・ラベル、アクセス制御用パネル、ファクトリ・オートメーションといったLCDを搭載する機器は、この機能を活用して基板のコスト削減が可能である。その他にも付加価値の高い機能を備えており、ADコンバータ、DAコンバータ、オペアンプ、コンパレータなど、多数のアナログ・ペリフェラルを集積している。システム・オシレータも内蔵しているため、部品数を抑えてコスト削減や基板面積の小型化に貢献する。

STM32U0マイコンは、Arm® Cortex®-M0+搭載マイコンとしては初めて、ファームウェア・コード保護を目的としたSESIPレベル3およびPSAレベル1認証をターゲットにした製品である。SESIPレベル3認証により、機器メーカーはSTM32U0マイコンのセキュリティ機能を第三者によって保証することができるため、今後自主的に制定されるUS Cyber Trust Mark、および2025年に義務化される欧州EUの無線機器指令(RED)への準拠に活用できる。
また、開発者は、最大256KBのFlashメモリや、最大81ピンのパッケージ・オプション、最大動作周波数56MHzのコアなど、このクラスの製品としてはきわめて高い性能を利用できる。

STM32U0シリーズは現在量産中で、単価は1000個購入時に約0.68ドル。価格およびサンプル提供については、STのセールス・オフィスまたは販売代理店までお問い合わせのこと。

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001373.000001337.html

新コスモス、化学物質の自律的な管理に「化学物質リアルタイムモニタ」を発売

新コスモス電機(株)は、作業場などの化学物質をリアルタイムに測定する「化学物質リアルタイムモニタ XP-3320II-V」を2024年4月10日(水)より発売する。

◆「化学物質リアルタイムモニタ」でリスクの見積りを
2024年4月より、リスクアセスメント結果を踏まえ、労働者がリスクアセスメント対象物質にばく露される程度を最小限度とすることや、基準値以下とすることが新たに義務付けられる。濃度が基準値以下であるかを確認するには、推定ツール(CREATE-SIMPLE等)や実測法(個⼈ばく露測定、簡易測定法等)を組み合わせて行うことが効果的とされている。

この度同社が開発した「化学物質リアルタイムモニタ XP-3320II-V」は、作業場などの化学物質をリアルタイムに測定することが可能なハンディタイプで、簡易測定法にあたる。化学物質のリスクアセスメントにあたり健康被害リスクの見積り・効果確認に使用可能である。

また、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」において『リアルタイムモニターを用いた化学物質のリスクアセスメントガイドブック』が提供されており、支援ツールやクイックスタートマニュアルもダウンロードが可能。

◆「化学物質リアルタイムモニタ」の特長
・化学物質をリアルタイムに測定するハンディタイプのガス検知器(校正ガス:トルエン)
・校正ガスであるトルエンを基準とした92種類のガス濃度へ読み替えが可能
・読み替え対象ガスリスト※参考値
・本体や専用アプリでトレンドグラフを表示可能
 ※PCでのログデータ読み出しにはオプションのログデータ収集セット(別売)が必要。
・高い落下衝撃性を持ち、1m落下試験(JIS T 8206/IEC 60079 29-1準拠)および2m落下試験(自社試験)をクリア

◆「化学物質リアルタイムモニタ」の仕様
製品名:化学物質リアルタイムモニタ
型式名:XP-3320II-V
サイズ:W91xH164×D44mm(突起部を除く)
質量:約460g(電池含む)
電源:単3形アルカリ乾電池4本または単3形ニッケル水素充電池4本
防爆構造:アルカリ乾電池仕様 Ex ia da IIC T4 Ga、ニッケル水素充電池仕様 Ex ia da IIC T3 Ga

プレスリリースサイト:https://www.new-cosmos.co.jp/news/6979/

Thinker、「第9回JEITAベンチャー賞」を受賞

(株)Thinkerは、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が審査・選定する「第9回 JEITAベンチャー賞」を受賞した。JEITA ベンチャー賞は、電子情報技術産業の総合的な発展のみならず、経済発展に貢献しうるベンチャー企業を表彰するもの。

■JEITAからの講評(抜粋)
 Thinkerは、対象物との距離と傾きを高速で検知することができる近接覚センサーの事業化を実現した。ロボットハンドに近接覚センサーを搭載することにより、カメラなしでも透明物体や鏡面物体の形状をハンド自体が認識し、また高速かつ高分解能の処理を可能とするAIモデルの搭載により、対象物の動きを含む状況変化を即時に把握できる。今後、ロボットフレンドリーな社会の実現に向け、すでに導入が進んでいるFA現場に加え、食料工場など人力作業が多い現場やホームロボット市場などの幅広い分野での展開が期待される。

■近接覚センサーTK-01
 Thinkerが提供する新しい方式を用いたセンサー。カメラを用いることなく、赤外線とAIを組み合わせた独自の高速・高分解能なセンシングによりモノの位置と形を非接触かつ高速に把握できるセンサーである。  これにより、従来の産業用ロボットでは難しいとされていた鏡面・透明物質の取り扱いや、現場環境に応じた臨機応変なピックアップが可能となり、ロボットハンドによるピッキングの可能性を飛躍的に広げることができる。また、ティーチング(ロボットに作業を教え込む工程)の時間や労力を大幅に軽減できることから、これまでとは異なる領域でのロボットハンドの活用も期待されているとのこと。

プレスリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000028.000106143.html

明大、オートファジーが保存中の種子の発芽能力を維持することを解明

明治大学農学部生命科学科の吉本光希教授らの研究グループは、保存中の乾燥種子において細胞内自己成分分解システム、「オートファジー(注1)」が機能することで、長期間の保存後でも発芽能力が維持されることを明らかにした。

本件のポイント
・乾燥種子の胚乳(注2)においてオートファジーが働き酸化ストレスが抑制され、胚乳細胞の品質が維持されることが、種子が長期間に渡り発芽能力を保つうえで重要であることを明らかにした。
・本知見は、種子の保存可能期間を延長するための新規技術の開発に貢献できる可能性を秘めている。
・本研究成果は、米国科学アカデミーが発行する「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)」に掲載された。

概要
 明治大学 農学部 生命科学科の吉本光希教授、同 川上直人教授、明治大学 研究・知財戦略機構 篠崎大樹博士研究員、高山恵莉菜(農学研究科博士前期課程 修了生)は、乾燥種子が長期間に渡り発芽能力を維持するために、オートファジーが重要な役割を果たしていることを報告した。
 種子は、いわば「鎧」の役割を持つ種皮で覆われ、胚を物理的に保護したり、抗酸化物質を蓄えたりすることで、保存期間中に受けるストレスを回避している。種皮は死細胞で構成されているが、長期間の保存の後に発芽するためには、保存期間中に継続して受け続けるストレスに適宜応答するシステムも存在する可能性が考えられた。本報告では、種皮の内側に存在し、乾燥種子の胚を取り囲む生細胞である胚乳細胞において、オートファジーが働き、酸化ストレスおよび細胞死を抑制することで、長期間の保存の後でも発芽能力が維持されることを明らかにした。
 本報告は、一見静的にみられる乾燥種子においても、細胞内の膜ダイナミクスを介する分解系であるオートファジーが駆動していることを明らかにした点と、長期保存した老化種子において損傷胚乳が物理的障壁となって発芽が抑制されることを解明した点に意義がある。また、本知見は、発芽能力を保ったまま種子を長期間保存するための新規技術の開発に繋がると期待される。
 本成果は、米国科学アカデミーが発行する総合科学雑誌である「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)」に掲載された。本研究の一部は、 日本学術振興会 科学研究費 新学術領域研究 (研究領域提案型) (19H05713) および 特別研究員奨励費 (21J11995) の支援を受けて行われた。

注1:オートファジー
細胞内の主要な自己分解経路の一種。細胞内に生じた隔離膜が伸長し分解対象物を内包したオートファゴソームを形成、オートファゴソームを細胞内の分解区画である液胞に輸送して内容物を分解する (図1)。 注2:胚乳
種子植物の種子の内部にみられる組織。シロイヌナズナ種子では、将来植物体になる胚の外側に胚乳細胞層が存在し、最外層が種皮で覆われている。種皮は死細胞で形成されているが、胚乳と胚は乾燥種子においても生きている。胚乳は、胚に栄養を供給することに加え、環境センサとしても機能することなどが報告されていますが、その役割は完全に理解されていない。

プレスリリースサイト(meiji):https://www.meiji.ac.jp/koho/press/2023/mkmht0000016kn9t.html