風合い計測技術の紹介(2)

カトーテック(株)技術顧問
松平 光男

2.4 圧縮特性(Compressional Property)

布の圧縮特性とは、布面に垂直方向に圧縮した時の布の厚みと圧力との関係をいう。図52)にKESで計測される布の典型的な圧縮特性図を示す。引っ張り特性同様、下に凸の非線形挙動を示すが、これは糸の織りクリンプの圧縮や糸自身の圧縮が効いているからである。一般に糸の織りクリンプ率の大きな布やバルキーな糸からなる布は圧縮柔らかいといえるが、その理由は布を圧縮したときに繊維が容易に曲がるからである。紡績糸織物の場合、表面毛羽の効果が初期圧縮特性に顕著に表れ、自由な繊維が容易に曲げられるため圧縮柔らかい。図5に示す3つの力学特性値が定義されており、風合い客観評価に役立てられている。LCは圧力と厚みとの関係が直線にどの程度近いかを表し、この値が小さいほど布は初期に圧縮柔らかい。WCは最大圧力までの仕事量であり、一般にこの値が大きいほど布はつぶれやすい場合が多い。RCは圧縮時のエネルギーに対する回復されるエネルギーの割合であり、この値が大きいほど布は圧縮変形からの回復性(レジリエンス)が高い。

図4 布のせん断特性と特性値2)
図5 布の圧縮特性と特性値2)

2.5 表面特性(Surface Property)

表面特性は前記4種類の力学特性とは異なり、力と変位との関係ではない。布の摩擦特性を代表する指標としては摩擦係数があり、KESでは平均摩擦係数(動摩擦係数)MIUや摩擦係数の変動(平均偏差)MMDを求めることが出来る。図62)にKESの表面特性測定原理及び計測される特性値を示す。一般にMIUの値が大きいほど、布の表面はざらざらして手指にひっかかり、小さいほどスムーズである。MMDの値は小さいほどMIUが一定であることを意味しており、布はより滑らかになる。
布表面の凹凸感も表面特性の重要な因子であり、特性値SMDが布の平均的な厚みの変動(平均偏差)として定義されている。この値が小さいほど布の厚みが一定であり、場所による厚みのバラツキが小さいことを意味している。 これら測定信号の低周波成分はフィルターで除去され、人間が感覚的に敏感な100Hz近傍の変動成分を埋没させないように、1Hz以下がカットされている。

図6 布の表面特性と特性値2)

2.6 厚みと重量(Thickness and Weight)

布の構造的な特性値として重要な、一定圧力(0.5 gf/㎠)下における厚みT0、及び単位面積あたりの布重量W(mg/㎠)も加えられている。図72)に特性値の定義を示す。

図7 布の厚みと重さ(自重)2)

3.KES基本力学特性値(パラメータ)を使う風合い客観評価法

風合いの判断は布の初期力学特性を判断しているのであるから、KESで計測される16個の力学特性値から、基本風合いを客観的に算出する方法が川端・丹羽らによって開発された1)。客観評価式の誘導には、150点あまりの試料に対する熟練者の主観評価値と16個のパラメータとを多重回帰をする方法を用いた。一方、布の総合風合い客観評価式は、客観的に求めた基本風合い値を用い、基本風合いの二乗の値も変数にして主観評価値と多重回帰して求めた。
客観評価式の定数については、現在、紳士秋冬用スーツ地、紳士春夏用スーツ地、婦人用薄手布、外衣用ニット地、肌着用ニット地、衣料用不織布、等の用途別に客観評価式(KNシリーズ)が決定されおり4)、これら以外にも、ふとん地、紙おむつ用トップシート、ティッシュペーパー、毛布、タオル地、等、広く報告されている4)。 

参考文献
1) 川端季雄:「風合い評価の標準化と解析、第2版”」、日本繊維機械学会、風合い計量と規格化研究委員会、大阪、(1980).
2) 川端季雄:風合い計量のための、布の力学特性のキャラクタリゼーション、及びその計測システムについて、繊維機械学会誌(繊維工学), 26(10), P721-P728 (1973).
3) 川端季雄:繊維集合体と最終製品性能設計、繊維学会誌(繊維と工業)、42(3), P82-P89 (1986).
4) テキスタイル科学研究会:「KES特性値(パラメータ)を用いるテキスタイルの風合い・外観・快適性客観評価式」、日本繊維機械学会、大阪、(2015).

【著者略歴】
松平 光男(まつだいら みつお)
カトーテック(株)技術顧問(元金沢大学教授)

■略歴
1972年京都大学工学部高分子化学科卒業
1974年同大学院(修士)工学研究科高分子化学専攻修了
1988年同工学博士(繊維工学)
1974年東芝総合研究所化学材料研究所
1980年大阪信愛女学院短期大学を経て
1986年から金沢大学助教授教育学部
1995年同教授。被服科学、テキスタイル科学担当。ニュージーランド羊毛研究所(WRONZ)、ニューサウスウェールズ大学、アグリサーチ社客員研究員を経験。
日本繊維製品消費科学会論文賞(2001)、日本繊維機械学会論文賞(2002)、Holden Medal for Education (The Textile Institute, UK, 2019)を受賞。日本繊維機械学会フェロー(2010-)。
2015年3月金沢大学定年退職。
同年4月からカトーテック(株)技術顧問、現在に至る。