3次元磁気センサ用新規永久磁石エラストマー(2)

(株)KRI フェロ&ピコシステム研究部
山本 日登志

表面磁束密度測定

今回作製したφ18×18mm円柱状のエラストマー磁性粉末重量比の違いによる表面磁束密度を測定、図3(z軸方向)と図4(r軸方向)に示す。加圧前後で最大磁束密度はz軸方向は加圧前約33mT(z=18mm)から28mT(z=13mm)、一方r方向は32mTから22mT(いずれもz=0mmの中央部)に減少した。
別の作製試料では加圧前磁束密度約70mTあるのに対して10mmに加圧後約30mTにまで約40mTと大きく磁束密度が変化した試料も得られている。4)

図3 z軸方向加圧前後の表面磁束密度Bz
図4 r方向加圧前後の表面磁束密度Bz

この理由は以下の図5のように説明出来る。通常の状態では個々のネオジム磁石粉末粒子は着磁方向(z軸)方向に磁気モーメントの大部分が概ねそろって並ぶ。(これを配向と呼ぶ)このエラストマーを軸方向(z軸)に圧縮するとシリコーンゲルが大変形を起こしそれに伴いネオジム磁石粉末はz軸から回転かつ磁石寸法比の低下によるパーミアンス係数の低下により磁束密度z成分が低下する。今回表面磁束密度の計測はz成分のみであるが、z成分減少と共にx、y成分はむしろ増加しているものと推察される。すなわち磁気センサの用途を考えると、エラストマーの変形量はx、y、zの3方向の磁束密度の変化でありそれら全てを検出できる一体物の3軸磁気センサの用途が期待される。

図5 加圧変形前後の磁気モーメントベクトルの変化模式図

このエラストマーを用いコイルを周囲に配置するとエラストマーの発生する磁束密度が変動するため原理的に発電が可能となる。(図6)

図6 エラストマー発電模式図

このエラストマー発電の応用例として「環境振動発電」への応用例を紹介したい。
「環境振動発電」とは我々日常環境の中で目にする例えばビルや建造物の振動、車の走行に伴う橋梁の振動、ボイラーやコンプレッサ―から発生する振動、エンジンの振動等熱エネルギーとして捨てられているエネルギーを発電する事によりこのエネルギーを回収するという新たな環境技術である。

発電の原理は以下電磁気学のファラデーの電磁誘導の法則である。
発電電圧(V)はコイルの巻き数(N)とコイルと鎖交する全磁束(φ)の時間微分の積で決まる。

V= -N x  (d∅)/dt

環境発電の応用実験例を以下にしめす。実験方法詳細は文献を参照されたい。4)
図7に磁粉60wt%、圧縮量6㎜のエラストマーをz軸方向に強制加振させた時の発電電力の周波数依存性を示す。周波数の増大と共に発電量は急激に増大し、周波数10Hzで最大発生発電電力57μWが得られた。5)
なおこの時にコイルに発生した誘起電圧は周波数10Hzで最大約28mVであった。
最後にエラストマー磁石の現物写真を掲載しておく。

  
図7 磁粉60wt%, 圧縮量6㎜のエラストマー発電電力の周波数依存性実測値
図8 エラストマー磁石サンプルの写真

参考文献

4) 岩本、井門、出口、藤井、第37回ロボット学会学術講演会資料予稿集(2019)
5) 佐藤、竹内、岩本、出口、藤井、山崎、山口、平成29年度磁性流体連合講演会 (2017)
特許、参考記事;
6) 特許;特願2018-131172
「発電デバイス 磁気的硬質粘弾性材用の製造方法及び発電デバイスの使用方法」
7) 出口、「月間マテリアルステージ」第17巻、第12号、技術情報協会 (2017)

【著者略歴】
山本 日登志(やまもと ひとし)
(株) KRI フェロ&ピコシステム研究部

■略歴
九州工業大学電気工学科 (1970-1974)
九州大学大学院電気工学科修士課程、博士課程 (1974-1979)
住友特殊金属(1979-2006)、工学博士取得 (1980)
日立金属 (2007-2009)
KRI (2010-現在に至る)

国内登録特許件数;永久磁石材料、製造方法、磁石応用関連で約120件以上
国際規格IEC/TC68の永久磁石国際規格主査 (1998-2002, 2006-2008)
JEITA(電子情報技術協会)マグネット技術委員 (1998-2008)
NEDO「フライホイール電力貯蔵用超電導軸受け技術開発」委員(2003-2006)
世界人名辞典 “Who’s who in the world” に日本人永久磁石研究者として初掲載 (2006)

■専門分野・研究テーマ
永久磁石材料、磁石材料応用技術、磁性材料全般、磁気計測