IoT時代の光ファイバセンサー(1)

梶岡 博
((株)グローバルファイバオプティックス 代表取締役)

1.はじめに

現在我々は第4次産業革命の夜明けにいる。第4次産業革命はインダストリー4.0と呼ばれ、インターネットなどの情報技術(IT)を駆使して製造業の革新を促す巨大プロジェクトで、2011年にドイツで提唱された概念である。蒸気機関の発明による第1次産業革命(18世紀後半)、モータとエンジンによる大量生産の第2次産業革命(19世紀後半)、コンピュータエレクトロニクスによる第3次産業革命(20世紀後半)になぞらえたものである。第4次産業革命のキーワードはIoTである。図1にIoTの全体像を示す。すなわちモノに内蔵されたセンサーから情報がインターネットを介してクラウドに蓄積され、AI(人工知能)による解析結果が再びインターネットでモノにフィードバックされモノがスマート化されアクションが取られる。

図1 IoTの全体像

このような背景のもとSENSAITはセンサーとAIとIT技術を融合し新しい産業分野を切り開くために創設されたもので極めてup-to-dateなプロジェクトである。
本稿の筆者からのメッセージは以下のとおりである。

IoTではあらゆるモノにセンサーが付くので、センサー技術は極めて重要である。光ファイバセンサーは既存の非光センサーと比べて多くの特徴があるのでAIとビッグデータを上手に使いこなして社会に貢献することが大切である。
光ファイバセンサーの基礎をレビューし、最近の技術動向について紹介する。
筆者が開発中の光ファイバジャイロを応用したグルコースセンサーについて開発経緯を含めて紹介する。

2.IoT時代のセンサーシステム

前述したようにIoTの3本柱は①センサー、②クラウドに蓄積されたビッグデータ、③ビッグデータを解析する人工知能(AI)である。
本章ではなぜこの3本柱が重要なのかを身近な例を挙げて説明する。最も理解しやすいのはモノが人の場合である。人には実に多くのセンサーがある。目による視覚、耳による聴覚、手による触覚、舌による味覚、鼻による嗅覚、いわゆる五感と言われる感覚機能である。聴覚について考えてみよう。

図2 音を認識する仕組み

図2に音を認識する仕組みを示す。耳から届いた音声情報は神経網により電気信号として脳に伝わる。この電気信号は、周波数(高さ)、音圧(大きさ)、波形(音色)などがデータ化されたものである。このデータを、脳に蓄積されている声や言葉のパターンと照らし合わせることで、意味のある音として認識することができる。
初対面の人の声は音声情報が脳内に蓄積されていない。そのため、照らし合わせることはできず、誰の声かを認識することはできない。しかし身近な人の声は、高さや声色などがパターン化され脳に蓄積されているから誰の声かわかる。音波を電気信号に変換するのがセンサーであるがそれだけではほとんど役に立たないことは明らかである。音の音圧、周波数、音色(波形)の3要素を分析できたとしてもそれだけでは人の役には立たない。脳に蓄積した大量の情報(ビッグデータ)と照らし合わせて初めて誰の声かを認識できる。耳で電気信号に変換された、例えば「津波が来るので避難しろ」という声は波形を見ても我々は何も理解できないが脳のビッグデータとの照合で初めて我々の生活に役立つ意味のある情報になる。センサーとして将来全国に設置するかもしれない分布地震センサーを例にとる。インターネットを介してビッグデータとしてクラウドに蓄積された地震情報をAIで過去の大地震のデータと比較することで予知が可能になるかもしれない。声の波形だけでは意味がないように振動の波形をAIでビッグデータと照合することによって実は「大地震が来る確率が高まっている」という地球の叫びを理解できるようになるかもしれない。とはいえ現状のAIは計算と記憶能力においては人間をはるかに超えているがビッグデータを解析する能力においてはまだ人にははるかに及ばないレベルである。昨年将棋ソフトPONANZAが名人に勝利したが、勝ったのはAIではなくAIとソフト開発者のチームである。IoT時代に光ファイバセンサーが真に社会に役立つためには、新たなセンサーの開発とともに我々がAIとビッグデータを上手に活用することが重要である。