日本財団オーシャンイノベーションプロジェクトの取組み(3)

日本財団 海洋事業部
辰野 誠哉

3.「海外との連携技術開発プログラム」について

「1.はじめに」で述べたように、日本財団は、「2030年に向けた海洋開発技術イノベーション戦略」の提言に基づき、海洋石油・ガス市場を持つアメリカ、スコットランド、ノルウェーと連携して、技術開発に対し支援を実施している(図3(太字参照))。
まず、アメリカとの連携技術開発プログラムに関しては、日本財団は2018年5月、主要エネルギー会社が主導する技術プラットフォーム「DeepStar」1)とMOUを締結し、共同技術開発プログラムの立ち上げに合意した。日本財団は同プログラムの実施に際し、最大で10億円を拠出することとしている。本プログラムは、海洋石油ガス分野のニーズに沿った、かつ日本の強みを活かしたイノベーティブな新技術を石油メジャーと連携して開発するという日本初の取り組みである。

図3 海外との連携事業

第1弾では、日本企業からの案件応募、DeepStarや石油メジャー等との検討を経た結果、海底での光通信無線技術の開発(島津製作所)、水中での非接触型給電システムの開発(NEC)、海洋石油開発にかかるパイプラインのつまりや腐食を防止するための添加剤注入新技術の開発(横河電機)など、10件の海洋石油・ガス技術開発プロジェクトを採択し、現在、技術開発を進めている。第2弾の公募も、本年10月4日から開始しており(12月9日〆切)、日本財団は、海洋石油・天然ガス開発分野の参入を目指す日本企業を引き続きサポートしていく。

次に、スコットランドとの連携技術開発プロジェクトに関しては、日本財団とスコットランド開発公社は、お互いの強みを活かして2030年に海洋開発分野をリードするために、2017年9月にMOUを締結し、共同技術開発プログラムを開始した。本MOUに基づき、日本財団とスコットランド開発公社は双方10億円ずつを拠出して技術開発を促進していくこととしている。
第1弾では、「海洋石油・ガス」をテーマに日本、スコットランド企業からの案件応募を昨年度行い、日本財団とスコットランド開発公社、別途設置した有識者委員会(第3者委員会)で検討を経た結果、効率的な海底機器検査技術システムの開発(三菱重工業)、光通信の導入による海底での環境モニタリングシステムの開発(NECネッツエスアイ)、産業用ロボットアームを活用した自律型メンテナンス技術の開発(川崎重工業)など、5件の海洋石油・ガス技術開発プロジェクトを採択し、現在、技術開発を進めている。

第2弾では、海洋資源を生かし経済成長を目的とする「ブルーエコノミー」をテーマに日本企業とスコットランド企業から海洋開発における環境保全や地球温暖化対策(例: 洋上風力発電、二酸化炭素海底貯留、石油・ ガス開発における環境モニタリング等)に関する技術開発に係るプロジェクトを今年度公募し、浮体式洋上風力発電の係留の寿命予測手法と新係留材料の実用化(戸田建設)、浮体式海洋構造物の船体寿命予測モデルの開発(三菱造船)、ドローンを活用した遠隔操業・保守役務システムの開発(横河電機)など、5件の共同技術開発プロジェクトを採択し、本年10月に横浜市で発表を行った(表1)。

案件概要 日本企業 スコットランド企業
大型海洋発電設備の係留システムの開発 ㈱IHI Sustainable Marine Energy Ltd.
浮体式洋上風力発電の係留の寿命予測手法と新係留材料の実用化 戸田建設㈱ Bridon-Bekaerto、TTI Marine Renewables Ltd.
浮体式海洋構造物の船体寿命予測モデルの開発 三菱造船㈱ SMS Oilfield
ドローンを活用した遠隔操業・保守役務システムの開発 横河電機㈱ TEXO, Sensor -Works, Tritech International Limited, EC-OG, Precision Impulse Production Seismic Limited, Sustainable Marine Energy Lid.
洋上風車設置船の開発 ジャパン マリンユナイテッド㈱ Ecosse IP Limited (EIP)

表1 第2弾「テーマ:ブルーエコノミー」採択案件一覧

最後に、ノルウェーとの連携技術開発プロジェクトに関しては、2018年8月にノルウェーの産業クラスターであるGCENODE2)と公的機関であるNORCE3)とにおいてMOUを締結し、共同技術開発プログラムを設立した。本MOUに基づき、日本財団とGCENODE、NORCEは双方6億円ずつを拠出して洋上風力発電をはじめとする海洋エネルギーに関する技術開発を促進していくこととしている。現在、GCENODE、NORCEと公募を開始すべく準備をしているところである。

4.おわりに

本解説では、日本財団が進める「日本財団オーシャンイノベーションコンソーシアム」と「海外との連携技術開発プログラム」について紹介した。日本財団は、日本が将来の海洋開発をリードしていくことができるよう、引き続き、人材育成と技術イノベーションとを車の両輪として進めていく。

参考文献

1) DeepStarコアメンバー:Chevron, Anadarko, CNOOC Limited, Equinor, JX Nippon Oil & Gas Exploration, Petrobras, Shell, Total, Woodside Group, Exxon Mobil

2) ノルウェーの海洋開発企業、大学、研究機関が集積して結成した業界団体

3) スタバンゲル大学が出資する研究機関であるIRIS、ノルウェーの海洋開発業界が設立した研究機関であるTeknova等が統合して設立された公的研究機関

【著者略歴】
辰野 誠哉(たつの せいや)
日本財団 海洋事業部 海洋開発人材育成推進室 アドバイザー

2015年 東京理科大学大学院 理工学研究科 機械工学専攻修了。
2016年 国土交通省 入省
2016年-2018年 国土交通省 海事局 海洋環境政策課
内航船の省エネ化、次世代船舶(LNG燃料船、自動運航船)の推進等に従事
2018年 現職