IoT時代のセンサ開発に何が必要か?(2)

東京工業大学名誉教授
/次世代センサ協議会会長
小林 彬

5.LOSの考えられる具体的効用例とケーススタデイ

◆LOSの活用における効用例を列挙すれば以下の通りである。

●新センサ開発に伴う考慮項目の抜けが防止できる(開発)
●開発が円滑に進められ開発期間が短縮される(開発)
●ニーズ側の基本的要望を明確化でき、そのシーズによる実現を合理的に議論できる(開発・ユーザ)
●センサ技術者養成用の手順としても有効と考えられる(開発)
●計測装置の設置方法等に関するガイドライン(標準化)に繋がる(設置メンテ)
●各現場での安全・安心・信頼性(ハード、ソフト、システム)を保証するチェック項目が整備される(設置メンテ)
●装置変更に伴う仕様条件・データの品質の継続性が保証される(ユーザ、設置メンテ)
●改良・修理・修繕・保守の際の作業前後におけるデータ品質の継続性が保証される(反復性(再現性)、定量性)(設置メンテ)
●同種センサ・計測機器類の容易な比較が可能となる(ユーザ)
●セールスポイントの根拠として認定を活用することができる(販売)

◆また、LOSの利用は、ステークホルダーが危惧する様々な課題の解決に繋がると考えられるが、想定されるいくつかのケースを示せば以下の通りである。

●ケース1:開発経過の手戻りを無くし、開発期間を短縮
□解決策:設計に入る前に、ユーザとメーカ担当者間で「利用時の品質(要望)」と「製品の品質(要件)」の全ての項目をリストアップし、その要否を含めた合意形成を得ながらLOS_CUBEに纏め、漏れのない開発計画に落とし込む

●ケース2:製品の適切な仕様変更を実現した「新製品開発」
□解決策:開発の前段階としてLOS_CUBEの「製品の仕様」に紐付いている「利用時の品質(要求)」と「製品の品質(要件)」の確認を行い、既存製品のニーズを正確に把握することで、適切な「製品仕様」の変更が可能になる。

●ケース3:暗黙知の再確認とノウハウの伝承
□解決策:製品開発時にLOSのプロセスを経てLOS_CUBEを作成することで、暗黙知となっていた情報を漏れなく整理し顕在化させて残すことで、ノウハウの適切な伝承が可能になる。

●ケース4:最適な製品選定の実現
□解決策:ユーザが、調査対象の製品について、そのLOS_CUBEの「利用時の品質(要望)」の項目を入口として、ニーズに対応する「製品の仕様」項目を確認し、必要なニーズに対応できていることを納得できれば、最適な製品の選定も可能となる。またその際、「製品の仕様」に付随する必要な情報も得ることができる。

●ケース5:他社製品との差異を明確にしたセールス時の適切な説明
□解決策:製品の販売担当者が、LOS_CUBEの「製品の仕様」に紐付けられた「製品の品質(要件)」と「利用時の品質(要望)」を確認することで、他社製品と自社製品の仕様の差異を適切に比較することができ、担当製品の長所をユーザ目線でユーザが分かり易い言葉で説明することに繋がるので、公正な販売の機会を得ることが可能になる。

●ケース6:公的・社会的に客観性のある「製品の品質」の主張
□解決策:対象製品がLOSの認定を取得していることを示すことで、適正なLOSプロセスを経て「製品の品質」が実現されていることが証明でき、同時に、安全、安心、信頼性に関わる具体的なチェック内容もLOS_CUBEの記載内容で説明でき、公的・社会的に客観性のあるアピールが可能となる。

6.ノウハウの取扱いについて

以上のような情報を取扱うについて気になることは所謂「暗黙知」の継承方法も含め、ノウハウの取扱いである。細かいことは別にして、以下のようなことに留意して取り扱うことが望ましいと考えられる。

●ノウハウの区分と情報公開の範囲の考え方
①技術中枢に関わる、免許皆伝的なノウハウ:
ノウハウの中のノウハウで、言わば企業等における競争力、ビジネス優位の源であり、当事者・関係者以外非公開とすべき情報である。

②製品の運用に関わる、「暗黙知的」ノウハウ:
いわば当たり前のような、知っている人は知っている情報ではあるが、企業として適切に伝承しておかないと現場でトラブルの要因となる可能性のあるノウハウで、特に世代間での伝承に遺漏が生じ易く、少なくとも企業内では念入りに公開とされるべき情報である。

③公的共有性を図るべきノウハウ:
技術の適正な競争と抜けの無い技術継承を図るため、ユーザも含め広く共有化すべき情報で、積極的に一般公開すべきである。オープンイノベーションを進める上でも鍵となる考え方である。

7.おわりに

センサ開発・普及に伴うセンサの仕様条件項目の整理とその意義につき説明し、次世代センサ協議会で検討されている、LOSの考え方を紹介し、さらにその効用と考えられるいくつかのケーススタデイを列挙し、その概要を述べた。
ご意見があれば次世代センサ協議会LOS推進WGまでご連絡頂ければ幸いです。また、活動に参加ご希望の方も多いに歓迎します。

【著者略歴】
小林 彬(こばやし あきら)
昭和44年03月 東工大理工学研究科博士課程修了(制御工学専攻)、工学博士
昭和62年12月 東工大工学部 制御工学科 教授
平成17年03月 東京工業大学 大学院理工学研究科 定年退職
平成17年04月 大学評価学位授与機構客員教授
平成17年04月 帝京平成大学現代ライフ学部教授
平成22年04月 帝京平成大学現代健康メディカル学部教授、平成24年03月定年退職
平成27年07月~ 次世代センサ協議会会長