センサ開発における試作インフラや知識情報交流の重要性

Webジャーナル「センサイト」創刊によせて

江刺 正喜
(東北大学 マイクロシステム融合研究開発センター)

多くのセンサから大量の情報が集まるIoT時代になり、そのビッグデータを整理し活用することが重要になっている。これに用いられるセンサシステムは高度化しており、通信・情報をはじめアクチュエータやエネルギ源などいろいろな要素が関係する。
センサはスマートホンに用いられるような大量の場合もあるが、製造検査装置関係のように少量の場合も多い。多様で多品種なため開発がボトルネックになり、幅広い知識が必要とされる。

センサの製作などで中心的な役割をはたすのはMEMS (Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれる技術である。これは半導体技術を発展させて、回路だけでなくセンサや動く構造など、いろいろな要素をシリコンチップ上に形成するものである。この技術を活用するには、関連する設備が使えると同時に、多様な知識を持つことが求められる。試作開発や製造に多くの設備を必要とするが、設備投資をしては採算が合わない場合が多い。製作工程が標準化されたLSIの場合と異なり、製作請負のファウンダリに開発や製造を委託することも難しく、特に設計試作の経験を持たないで外部委託すると失敗する。知識や経験を持つ技術者を育成して開発・製造の全体を見渡せるようにすることが重要である。

1990年頃までわが国産業界のMEMSは世界を牽引していた面がある。例としては、豊田中央研究所で開発されたピエゾ抵抗型の圧力センサが、1980年代に自動車のエンジン制御に使われ、排気ガス規制をクリアして環境浄化に貢献した。しかしその後クローバル化が進み、企業内での開発が弱くなり、新たにMEMSを始めたいろいろな企業が正しく判断できずに、外部から持ち込まれた技術を安易に取り入れて失敗した。2010年頃から海外ベンチャ企業などとM&Aで提携するように変わってきた。今後我が国のMEMS技術が世界に貢献していくためには、役立つ技術が開発されて産業に結び付くよう、試作設備を共用し、組織間の壁を低くし集団で力を発揮できるようにする必要がある。

東北大学の「マイクロシステム融合研究開発センター」では戸津健太郎准教授を中心にして、企業から派遣された従業員が、時間貸しの共用設備を利用しながら、開発および製品製作を行う「試作コインランドリ」(http://www.mu-sic.tohoku.ac.jp/coin/index.html) と呼ぶサービスを行っている。1800m2の大きなクリーンルームに以前のパワートランジスタ工場が移設され、さらに多くの使わなくなった設備が持ち込まれ利用されている。長年これらを動かしてきたスタッフが設備を維持している。企業から派遣された従業員は、スタッフから使用法を教えられ、4/6インチウェハ用の古い設備を自分で動かす。これによって開発を進めながら、全体の工程を経験した人材が育つ。通常最先端の設備の場合、ユーザが修理したりできず、専門の経験を積んだ技術者でないと使えないが、ここでは初めての人でも使用法を習い、全体の工程を経験できる。今まで200社以上が利用しており、設備利用料で運転経費全体(年間約2億円)の8割をまかなっている。

また知識情報交流の目的で各種の展示室 (http://www.mu-sic.tohoku.ac.jp/nishizawa/) を設置し、自由に見学頂けるようにしている。
これには近代技術史博物館 (http://www.mu-sic.tohoku.ac.jp/museum/) 、仙台MEMSショールーム (http://www.mu-sic.tohoku.ac.jp/showroom/index.html) 、ビジネスマッチング室 (http://www.mu-sic.tohoku.ac.jp/business/) 、試作装置見学室 (http://www.mu-sic.tohoku.ac.jp/shisakusouti/) がある。
この他毎年4月に行われるMEF (MEMS Engineer Forum) (https://www.m-e-f.info/) や、8月に行われるMEMS集中講義 (http://www.memspc.jp/openseminar/index.html) などを無料で開催している。また技術相談しながら、長年のMEMSセンサ開発で蓄積された知識やノーハウを提供している。このために文献などを整理しアクセスし易くしており、500冊ほどのファイルが整理されてExcelファイルでキーワード検索できるようにしているが、これらは大学のような知識提供サービス機関として重要な役割と考えている。