においセンシングの現状とこれからの展開(4)

6.誤測定を防ぐためのツールおよびオミッション法を自動で行うツール

(株)島津製作所 分析機器事業部
喜多 純一

5項の問題を回避するために、また、3項で説明したオミッション法を自動で行うために、自動オミッション装置を開発している。
これは、図9に示すように、GCの出口にスイッチング素子を設けて、GCから出てきたにおいガスを、におい識別装置の入り口のサンプルバッグに集める場合と、MSに導く場合とを自動的に、あらかじめ設定したタイミングで切り替えられる装置になる。

図9.自動オミッション装置

例えば、柚子精油をこの装置にかけると、図10になり、一番上の色のついたクロマトは、通常のGC/MSの測定チャートであるが、その下のStandardというのは、MSで観測したときにどのピークも観測されていないので、すべての香気がサンプルバッグの方に導かれている。

図10.自動オミッション装置の使用例

Standardの下のOmitAについては、5~10minの部分だけオミッションしているので、その部分だけがMSにあらわれており、OmitBは、10~15minがオミッションされている。 ここで大切なのが、どのオミッションのケースも、においが強すぎるリモネンはカットしているので、強いリモネル具に邪魔されず官能評価での差も出やすく、またにおい識別装置での測定もリモネンでの妨害を気にする必要がなくなる。

ここで、図10に示すように、それぞれオミットしたサンプルと、基準のサンプルを官能評価で嗅ぎ比べると、OmitCに柚子の香りとして重要なものが含まれることがわかる。
また、これをにおい識別装置で測定したところ、図11になり、官能評価と同様にOmitCがスタンダードとはにおいが一番離れていることがわかる。(リモネンがあると傾向は出るが、非常にその差が小さくなってしまう。)
このことからOmitCの中に柚子の香りとして重要なものが含まれることがわかり、実際にリナロールやユズノンがこの部位に含まれている。

図11.オミットしたサンプルのにおい識別装置での測定結果

7.まとめ

においセンシング技術の現状をサーベイするとともに、現状の問題点を明確にした。さらにその一つの打開策を記載するとともに、複合臭に対してのセンサ方式への期待も記述した。この内容より、将来の技術動向を展望いただければ幸いである。

【著者略歴】
喜多 純一(きた じゅんいち)
(株)島津製作所 分析機器事業部

1.最終学歴
1981年3月 京都大学 工学部 化学工学科卒業
2014年3月 九州大学大学院システム情報科学府電気電子工学専攻博士課程卒業

2.受賞歴、表彰歴
平成13年 におい識別装置FF-1 第4回日食優秀食品機械資材賞受賞
平成19年 におい識別装置FF-2A (社)においかおり環境協会 平成18年度 技術賞
平成23年 電気学会進歩賞受賞
平成26年 希釈混合装置FDL-1を用いた簡易官能評価装置
(社)においかおり環境協会 平成26年度 技術賞
同年 長年におけるにおい識別装置の開発研究
(社)においかおり環境協会 平成26年度 学術賞

○主な研究論文及び著書(レビュー)
J.Kita, etal :Quantification of the MOS sensor based Electronic nose utilizing trap tube,
Technical Digest of the 17th Sensor Symposium,m301 (2000)
島津評論第59巻第1・2号 p.77~85 (2002)
島津評論第64巻第1・2号 p.63~79 (2007)
アロマサイエンスシリーズ21〔6〕におい物質の特性と分析・評価 5章3 半導体センサ(2)
におい香り情報通信 第3章 12.におい測定装置 p.177~p.187
超五感センサの開発最前線 2.3.7 におい識別装置の開発 p.197~p.205
Sensor and Materials vol.26 no.3 2014 149-161
味嗅覚の化学 においセンサおよびにおい識別装置を用いた臭気対策 p.207。
※現在ゴルフにはまってます。