味と匂いのセンシングの現状と展開(1)

九州大学高等研究院/
五感応用デバイス研究開発センター
特別主幹教授/特任教授
工学博士 都甲 潔

1. 味覚と嗅覚の違い

味物質や匂い物質は一般に低分子化合物である。図1に示すように、その検知閾値であるが、味覚ではppm(100万分の1)より高濃度で化学物質を感じるのに対し、嗅覚ではppb(10億分の1)やppt(1兆分の1)といった極々低濃度で感じる。匂い分子の多くは電荷や極性をもたず、疎水性である。他方、味分子は、水に溶けていることからも分かるとおり、親水性の物質が多い。

図1 味覚と嗅覚の違い

またレセプター(受容体)の数であるが、味覚では30数種類と比較的少ないのに対し、嗅覚ではヒトで約400種類と言われ、膨大な数であることが分かる。また、このレセプター数に関係しているためか、味には基本味(酸味、甘味、苦味、うま味、塩味)が存在するのに対し、嗅覚には基本臭、つまり基本要素である原臭は存在しない。

つまり、味覚と嗅覚は化学物質を受容するという意味では似通った感覚であるが、実は意外と異なった感覚である。結果、味覚センサが我が国において既に20年以上前に実用化され、今や全世界で使われているのに対し、測定対象や用途を限定せず誰でもが容易に使える汎用型匂いセンサは実用化されていない。その原理、材料、使途の違いで、幾つもの種類の匂いセンサが提案、開発、販売されているが、これらのセンサにおいてもなお、そのデータ再現性や信頼性において解決すべき課題も多々あり、現時点で皆の要求を満たす、使い勝手の良い匂いセンサはない。

本稿では、既に開発実用化されている味覚センサ1-4)を紹介し、次いで内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の1つである宮田プログラム「進化を超える極微量物質の超迅速多項目センシングシステム」の中の「有害低分子」プロジェクト(2014-2018年度)での匂いセンサ(人工嗅覚システム)5)開発に言及する。

次週に続く-

参考文献

1)都甲 潔,中本高道:においと味を可視化する,フレグランスジャーナル社(2017)

2)都甲 潔,柏柳 誠(編著):おいしさの科学とビジネス展開の最前線,シーエムシー出版(2017)

3)K. Toko, ed.: Biochemical Sensors-Mimicking Gustatory and Olfactory Senses, Part 1 Taste Sensor, 1-249, Pan Stanford Publishing, Singapore (2013)

4)Y. Kobayashi, M. Habara, H. Ikezaki, R. Chen, Y. Naito and K. Toko: Sensors, 10, 34 (2010)

5)B. Wyszynski, R. Yatabe, A. Nakao, M. Nakatani, A. Oki, H. Oka and K. Toko: Sensors, 17, 1606 (2017)

【著者略歴】
都甲 潔(とこう きよし)
九州大学高等研究院/五感応用デバイス研究開発センター
特別主幹教授/特任教授 工学博士

昭和55年3月 九州大学大学院博士課程修了、九州大学工学部電子工学科助手、助教授を経て、平成9年4月より九州大学大学院システム情報科学研究院教授。
平成20年~23年、システム情報科学研究院長。21年より主幹教授。25年より味覚・嗅覚センサ研究開発センター長。
30年より高等研究院特別主幹教授ならびに味覚・嗅覚センサ研究開発センター(現 五感応用デバイス研究開発センター)特任教授。