LoRaWANネットワークの概要と利用事例紹介(4)

(株)エイビット 開発部
古川勇一郎

得られたデータのうち一つを紹介する。
以下に示すのは、2017年の台風21号襲来時のある河川の降雨強度と水位グラフである。

グラフは、上段が計測河川地域の降雨強度、下段が水位である。
平時の水位は160㎜と穏やかな小河川だが、台風が近づき降雨が増えるにつれ水位も上昇、わずか2時間で500㎜と大きく増水した。そして、その後も降雨は続き、水位は最大で1,073㎜まで達したことが計測された。その後台風通過とともに水位は急激に下がり、増水・減水共に小河川特有の水位変化を表している。 最大水位が計測された時間は午前3時頃で、地域住民は就寝している時間であった。この時は増水のみで被害はなく無事だったが、もし氾濫等を引き起こす程の増水だった場合、避難準備や救助等の初動が大幅に遅れることが容易に想像される。一般的に小河川等の増水・氾濫はその地域からの通報により事象を知ることが殆どであり、通報やパトロールをせずとも増水時の河川水位がリアルタイムで把握できるのは、防災・減災に大きく寄与することが理解できる事象である。

2017年・台風21号時の降雨強度と河川水位

もう一つ、面白い事象が記録されていた。
先に平時の水位が160㎜と記したが、台風通過後にその水位は水流があるにも関わらず0㎜と記録されるようになった。これは何故か。センサ・川底間の距離を再度測定したところ、水位計設置時よりも距離が伸びていることが確認された。つまり、増水時の激しい流れにより川底に堆積していた土砂が流されてしまったのである。また、流された土砂は下流の何処かで堆積し、そこでは逆に平時の水位が増えている可能性があることが窺える事象である。

本実証事業の期間中に激しい増水を引き起こす程の降雨は僅かしかなく、いずれも避難や被害なく事なきを得た。ではこの水位計測が無駄だったかというとそうではなく、平時の水位を知ること、その観測地点の増水傾向を知ること、増水時は現地からの通報を待つことなくその事象を知ること、そしてそれが現場に赴かなくても遠隔で知ることができること。これらが重要であり、その為にメンテナンスフリーで長期運用可能な計測デバイスが求められる。そこで用いられる通信手段としてLoRaWANは有効な選択肢の一つである。

【著者略歴】

1996年 3月 日本電子専門学校電子音響工学科卒業
1996年 4月 株式会社東洋リンクス入社 マイコン関連開発業務に従事
2009年 1月 株式会社エイビット(技術部)入社
2017年 5月 総務省実証事業「八王子防災プロジェクト」に従事